2013年9月13日金曜日

私の還暦過去帳(422)


寒い日の思いで・・、

カリフォルニアも12月に入ると霜が降りる事があります。
現在の南米の気候は初夏で正反対ですが、寒いのは季節では同じです。

南米でも内陸部の乾燥地帯では、寒暖の差が酷くて、まるで一日で、春
夏秋冬の季節が周り来る感じでした。
南米で農業をしていた時代は、冬の時期にボリビア国境地帯の南回帰
線から中に入った亜熱帯で栽培して、冬のブエノスやラプラタの大都市
に野菜や果物を送っていました。

アルゼンチンは縦に細長い国ですから、その様な特定の栽培地帯が出
来たと思います。寒い時期に長距離を走りますので、シートを被せないと、
トマトやピーマンを満載して、長距離トラックで走り始めますが、中には
ブエノスのアバスト市場に到着したら、トラックの一番上部に積載されて
いたトマトが、凍傷で売り物にならないと電報が来ていました。

トラックが走り始めたら、停車するのは食事やトイレと給油に検問所の
停止だけでした。殆ど休み無く、24時間運転しています。

夜遅く出発して、早朝のまだ日が昇る前の半砂漠地帯のサンチヤーゴ・
エステーロの人里離れた侘びしい地帯を通過する時に、霜で白く雪を被
った様なアドベの日干し煉瓦で造られた家々の側を通過すると、肩にポ
ンチョを被り、ヤギを追う人達に会う事がありましたが、足にはボロで暖
かい靴下のようにして、粗末なクツを履いていましたが、肩から物入れの、
弁当などを入れた様な物を下げていました。

大勢のヤギ達が砂漠の潅木地帯に向けて砂埃を立てて歩き去る様子
は、朝霧が微かに地面に這う様に流れる様と交じり合い、薄赤く染まっ
た大地の色と交差して幻想的な風景を醸し出していました。

道路端の家の前で、レンガで作った丸いパン焼釜から煙が流れ、焼き
立てのチーパや、トウモロコシのパンを籠に入れて売っていました。

長距離トラックを目当てに朝から焼いているのです。現金収入が少な
い地帯では貴重な現金を手にしていたと思います。

まだホカホカのパンと、絞りたてのまだ暖かいヤギの濃いミルクをサッ
と沸かして、コップにこぼれんばかりに入れて、それにパンを浸して食
べるのは美味しいものでした。
パンにはヤギのチーズを少し挟んでありましたが、独特の風味で焼き
立てのパンに合うものでした。

パン焼釜の火を見ながらの立ち食いでしたが、子供の頃に近所でヤギ
の乳搾りを見に行き、まだ暖かいヤギの青臭いミルクを飲んだ事を思
い出して食べていました。

側で我々トラックの運転手を見ていた子供に、運転席の後ろからオレ
ンジやバナナを取り出して手に握らすと、こぼれる様な笑顔で母親に
見せると、早速子供達は食べていました。
冷えた道路に排気ガスが白く蒸気を吐く様に流れ、単調なジーゼル
エンジンのアイドリング音が響いていました。

それ以外は死んだような静かな世界で、微かにヤギの鳴き声が聞こ
えて来るだけでした。
我々が朝食を終り、トラックに乗り込むと子供が駆けて来て、手作りの
小さなヤギの姿をした縫いぐるみを手に握らせてくれました。
粗末な物でしたが、何処と無く愛嬌があり、可愛いものでした。

私も口が寂しい時のキャンデーを一掴み、子供に握らせてお返しをし
ていました。

ローギアーからゆっくりと加速するトラックを、子供達が手を振りなが
ら追い掛ける姿をバックミラーで見ながら、段々と遠ざかって行きま
したが、直ぐにかやぶき屋根に白く降りた霜の色も見えなくなりました。

冷えた砂漠地帯の静けさが、微かな朝日に暖かく染まり出した光景
を見ながら、運転席にヤギの縫いぐるみが揺れていました。

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