2013年8月26日月曜日

私の還暦過去帳(414)


昔の記録的な南米寒波の思いで、

今年の南米大陸は寒波の襲来で、かなり酷い被害が出ているようです。

46年前もアルゼンチンのボリビア国境地帯にも、南極からの寒波が上
がって来て、冬季出荷の野菜類や果実は大被害を受けていました。

大陸性の乾燥地帯の内陸部です、河縁の僅かな肥沃で河の水源に近
い農地の、霜も降りない土地は高値で取引されていました。

46年経っても、その河縁の土地はグーグルアースの衛星写真で見て
も営農が続けられている事を目視出来ますし、今では簡易の温室がそ
の土地にかなりの割合で広がっている事を確認できます。

殆どの生産物は巨大な消費地のブエノスを目指していましたが、ラプラ
タや周囲の衛星都市もそこから流れていました。

私が働いていた農場でも、霜の気象予報が出ると用心して、河から畑
の畝の中に水揚げポンプで水を流し込んで被害を最小に止め様と苦心
していました。

河向こうでは限られた実が収穫出来るトマト畑だけ、スプリンクラーで
河の暖かい水を汲み上げて、散水していました。

これも霜と零下に温度が下がり、朝方はツララが垂れていたと言う事を
聞きましたが、他の農場では廃油をドラム缶で焚いて油煙を作り暖か
い気流を流すようにして、霜が降り始めると、タイヤなど燃やしていまし
た。
それは凄まじい夜の光景となります、インジオ達の夜勤組は防寒の毛
布が与えられ暖を取る火酒のカンニヤ小瓶が配られ、夜食にアサード
の焼肉一切れと、パンが与えられ、夜通して起きて働くので、報酬に加
えて、一握りのコカの葉も与えていました。

寒暖計が下がり始めて、夜の気流の流れも止まると、向かいの農場で
はレールを1mばかり切り、吊り下げられていた鐘をハンマーで連打
する音が聞こえていました。

畑のあちこちで廃油のドラム缶に火が点火され、タイヤが燃やされ、
その臭いと油煙はまるで地獄の饗宴のようでした。

私の農園も水揚げポンプだけが夜通しで、動いていました。
数人のインジオが低い低地のトマト畑中心に畝の間に暖かい河の水
を流し込んでいました。
鐘が乱打され、車のヘッドライトが川向こうのジャングルに何度も行き
交う光りが見えていました。

深々と冷える外気の冷たさは、火酒で熱る身体の熱気とは反比例し
ていました。微かにトマトの葉が白くなり、凍える寒さが手で触っても
感じられるようになると、眠気など、どこかに吹き飛び、早く朝が来れ
ばと祈るようになります。

私の農場ではオーナーが『タイヤや廃油を燃やす事など無駄だから』
と言う事で、河の水を畝に流すだけでした。河岸に夜の冷気が暖か
い河の水に触れて、もやの様に霧が流れ出すと、凍るトマトが助かる
事が多いので、祈るようにしてその流れを見ていました。

河向こうには行くなと念じていましたが、すっぽりとトマト畑が霧の中
に沈んでしまうと、ホッとして、酒の酔いが身体に回り、小屋の焚き火
の横で寝入っていました。
マテ茶の臭いで起きると、周りには徹夜のインジオ達も毛布を被り寝
入っていました。
手が焼ける様な熱々のマテ茶にコーヒーを少し入れて飲みながら、
朝日がジャングルの梢に輝きだすと霧に沈んだトマト畑は助かり、
朝日を直に当たっている河向こうの農園のトマト畑の色が時間で変化
して行く様を見ていました。

冬の太陽と言え、南回帰線から100kmも中に入った地域です、輝き
出した太陽は強烈な紫外線を、晴れて透き通った空から降り注いでい
ました。

午後には畑の色が黒ずみ、午後遅くには異臭も流れて来ます。

翌日にはトマトの葉先が溶けた様になり被さっていましたが、その下
に霜で焼けなかったトマトが助かって残っていました。
私が働いていた農場では被害は最小でしたが、花芽がごっそりと落
ちてかなりの減収でした。

それに比例してブエノスのメルカード・アバストではトマトの値段が天
井知らずに値上がり始めて市場の仲買が、ホテルや高級レストラン
に配るトマトを、値段を構わず買い込んでいましたので、霜にやられ
ても儲かる農場と破産する農場に分かれていました。

その寒波の影響は町から各農家に毎日通ってくるトマトの箱詰め職
人達が、むき出しのトラックの荷台に乗車して来る途中、インジオ部
落の横の道でコートに丸まり、毛布を被り、朝の寒風に吹かれて手

袋をはめてポケットから何か出す時に、ポケットに入れていた護身用
拳銃が暴発して、荷台にぶら下っていたインジオの子供の鼻に荷
台の床に跳ねた小口径の弾が当たり大騒ぎになっていた事が有り
ます。

弾はピンセットで直ぐに取り出せたということでしたが、当たり所が悪
ければ大事になったと思います。
誰かが話していたが、寒波がなければ着膨れて、あんな事件も無か
ったと笑っていました。

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