2013年7月8日月曜日

第3話、伝説の黄金物語、(94)最終回


幕引きの輝き・・、

富蔵はワイフの雪子が近頃、そわそわしている事が多いので気になっ
ていた。
ある日、富蔵に雪子が神妙な顔で次男のアルベルトが、私の妹の長
女を見初めて結婚したいと、妹が居る前で告白したと言った。

富蔵もしばらく驚いていたが、薄々気が付いていたが、まさかそこまで
進んでいたとは考えもしなかった。雪子の妹と長女が泊りがけでサン
パウロに遊びに来た時に、アルベルトが車で、リオまで遠出して案内
していた事があった。
それがきっかけで急に深まった仲のようであった。

雪子は大変に乗り気で、アルベルトも富蔵に神妙な顔で結婚承諾の
許しを聞いて来た。結婚には何も問題も無く、その後の話はあっという
間に決まってしまった。

その前にリカの娘とモレーノの長男の結婚式が予定どうりに行われ、
リオベールデの牧場で盛大に開かれた。大きな結婚式のパーティで、
アマンダ兄弟達や親戚兄弟達が集まり町で話題になるような式であ
った。
その結婚式が終わり、しばらくして富蔵の次男と雪子の妹の長女との
結婚式が、サムの主催で飛行場近くの、サム御殿の公園の様な広い
庭を借りて開かれた。池もあり、隣には小さな放牧場もあった。

富蔵は上原氏の家族も雪子の移住地の家族達も全員揃うこの結婚式
に満足していた。盛大で賑やかな式が終わると、二人の出会いのリオ
に、新婚旅行に飛行機で飛び立つ若い二人の姿を雪子と涙顔で見送
っていた。

雪子としばらくは静かになった自宅でのんびりしていたが、長年の夢
であった日本の郷里訪問を考えて、サムの勧めでニューヨーク経由の
飛行機で日本を訪問する事が決まった。

雪子と二人で富蔵の若い時代のニューヨークを見て歩き、郷愁の思
いを心に秘めて感慨に浸っていた。アラスカのアンカレッジ経由で羽田
に到着して、夢に見た祖国に降り立つと、それまでの人生の緊張が全
部消えた様な感じがした。

郷里での時間は今浦島の感じで、兄弟達と温泉旅行などをしていると
アッと言う間に時間が経ってしまった。上原と名前が代わった事はブラ
ジルで養子に行ったと言い訳をして、皆が納得してくれた。
雪子の郷里の本家にも挨拶して、ブラジルに居る親兄弟の顔を立て
ていた。
両親の墓参りなどすべてを済ませると、夢にまで見た祖国にあっさりと
別れる事が出来た。

ブラジルに帰るとしばらくはのんびりしていたが、マリーの出産が近い
という知らせがリカから来ていた。直ぐにマリーが妊娠したので、皆か
らお前は直ぐにおじいちゃんになると冷やかされていた。
それは同じくモレーノも同じで、富蔵と二人してウキウキした気分で居た。

医者の診立てでは双子だという事で、モレーノと富蔵は生まれてくる孫
にやきもきしていたが、案ずるより安しという事で、無事に双子が生ま
れて来た。
モレーノの屋敷で富蔵とシャンペンを開けて孫の誕生を祝い、雪子は
リカと双子の初孫の世話をしていた。
日を置いて、双子の洗礼式を終わり、友人や家族達とささやかな宴を
開いた席上で、神妙な顔でモレーノが乾杯を終ると皆を静めて、
『孫も生まれたので、私はこれで区切りとして引退する』と皆に宣言した。

皆がどよめいて、『まだ早い・・、これからが腕の見せ所だ・・』と声が掛
かったが、モレーノは富蔵にグラスをさし上げて、『じいちゃんになった
のだから富蔵、お前も一緒に引退しないか?』と聞いてきた。

富蔵はモレーノの気持ちは薄々分かっていたので、一人で考えていた
が、これまで幾多の危険な場面を切り抜けて、ここまで生きながらえ、
孫を抱く喜びを感じて決心が出来ていた。皆にグラスを差し上げると
『私もモレーノと同じく引退する事を宣言する』と厳かに言った。

またもや、どよめきがテーブルから起きて、皆がグラスを持って二人を
取り囲んだ。後は賑やかな盛大な宴となり、したたかに飲んでモレーノ
と二人、皆に背負われてベッドまで連れて行かれた。

それからサンパウロに戻り残務整理をして、次男に仕事の引継ぎをす
ると自宅も次男に明け渡してリオベールデにモレーノの牧場の中にあ
る、河に近い見晴らしの良い高台に家を新築して、そこを引退場所と
決めて引っ越しを決めていた。

その頃、雪子が日本から帰国してから体調を崩していたが、洗礼式が
終ると寝込むようになり、精密検査の結果、サンパウロ大学病院の結
果が富蔵に知らされて来た。
検査結果は末期のすい臓がんと言う事で、3ヶ月は持たないと言う事
であった。日に日に衰弱する雪子に、富蔵は悲嘆にくれたが、次男と
出来る限りの手を尽くして看病した。

雪子は次男も結婚して、マリーも双子の子供を産み、日本にも里帰り
した事を感謝の言葉で富蔵に話していた。雪子は後、数日となった時
にリカを側に呼び子供の事や、孫の世話を頼み、富蔵を自分の代わり
に支えてくれるように頼んでいた。

雪子はその後、急激に体力を無くすと皆に囲まれて、眠るように亡く
なった。

しばらく富蔵はサンパウロで次男と雪子の整理をしていたが、それが
終るとリオベールデの新しく建てた家に引っ越した。
モレーノが親身に世話をして側の住民となった富蔵を見ていたが、
リカも富蔵が新しい家に来ると自宅を引き払い、富蔵の引退する新居
に来た。

毎日のように訪ねてくる双子の孫達をモレーノと富蔵がお互いに抱き
あげて世話をしていた。2kmばかり離れた所にはアマンダ兄弟の長
男が引退して家を構えたので、賑やかな集会所の様子を見せていた。

リカと穏やかな生活をするようになり、人生の残りも計算できる心の余
裕が出来たのか、富蔵はリカと夕食の後にコーヒーでも飲みながら、
何気なく『お前とも結婚式を挙げなければ・・!』とつぶやいていた。

モレーノに相談すると、直ぐにアマンダ兄弟達も協力して、リカとのささ
やかな結婚式を挙げた。
リカはその日は感激の涙で泣いてばかりいた。富蔵からダイヤの結
婚指輪が贈られ、それを指に富蔵が飾ると、その腕を天にかざして、
感謝の言葉を涙声で神につぶやいていた。

サンパウロから来たサムが杖をついて立ち上がると『神が人生の道
をいつも開いている、誰も悲しむ必要はない、苦難があっても、いつ
か喜びがあり、それがあれば喜びがもっと貴重で感謝の気持ちで迎
える事が出来る』と言うとリカを抱いて祝福した。

その夕方、皆がモレーノの広大な見晴らしの良いテラスに集まり、
酒のグラスを手に久しぶりの皆の集まりに、話が弾んでいた。

サムがしみじみと『パブロも亡くなり、すでに子供の時代になった様だ
が、スミス商会の社長も亡くなり、同じ様に子供の代に事業が変わっ
てしまった。ダイアモンド商会の社長も引退して、旅ばかりして近頃は

会った事も見た事もない・・』と言うと、これも全てが時代の変化と終わ
りになったと思う・・、と言うと、ペドロを呼んでシャンペングラスを用意
させると、リカが用意したシャンペンを三角に積み上げられたグラス
にモレーノの奥さんと注いでいった。

サムが皆を呼んでグラスを手渡しながら、
『我々の夢の成熟な終わりに・・!』と声を掛け、少し時間をかけて、
皆がグラスを合わせて鳴り響かせると、自然に皆が丸く輪になり中に
サムと富蔵、モレーノが入り、同時に乾杯ー!と掛け声が掛かると
一斉に飲み干した。

富蔵がが残りの入ったシャンペンの瓶を振ると、テラスの上から
『天と地の精霊に・!』と叫ぶとシュー!と暮れかかった空に振り撒
いた。
金色の夕日の輝きが皆を照らして、落日の黄金の様に煌く太陽を見
ていた。

終り、

私の還暦過去帳はこれから長く掲載いたしますが、この後は私が南米
で出会った歴史の彼方に消えて行った方々の物語を書いてみたいと
考えています。
今では50年前の方々のお話などは、誰も話す人も無く、このままでは
忘却の彼方に消えて行くのみですから、記録に残したいと考えています。

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