2013年7月5日金曜日

第3話、伝説の黄金物語、(93)


平穏な時代の幕開け・・、

しばらくは周りの静寂の中で銃撃戦の様子を伺っていた。
まず若い警官がライフルを構えると脇の茂みを伝って停まっている車に
近ずいて行ったが、もう一人の警官は車の陰から近寄って行く若い警官
を援護して見ていた。

富蔵も横でシュマイザーを構えて見ていたが、若い警官が道路脇の停車
した車を覗き込み、手招きしてこちらに来る様に合図を送って来た。

富蔵はトラック運転手を警官が手錠を掛けて動けないようにして、トラック
のバンパーに逃げない様に縛り付けた。
車を運転して100mばかり移動して路肩に停止している車の横に停めた。

車の横には胸から血を流した男が息絶えていたが、車の中の男は微か
にあえいでいたが、かなりの出血で車の床が血で濡れていた。車のボ
デーを貫いた弾が男の腹部も貫通したと感じた。
警官二人も車の中の男を見ると首を振り、助からないと話していた。

その時先に走っていた車が様子を見に戻り、侘しい田舎道の埃っぽい中
に停止していた。こちらに来る様に合図すると、かなりのスピードでこちら
に戻って来た。側に停車すると直ぐに襲撃者達の様子を見て、彼等の襲
撃の失敗を見ていた。

警官二人は車内の男の脈を診ていたが、言葉短く『死んだ・・』と言って
シートに横たえた。警官は横に停まっている車に,『町まで行き、署長と
鑑識を連れて来てくれ・・』と頼んでいた。
戻って来た車は猛スピードで町に走り去って行った。

富蔵は現場を離れて一度農場に戻り、オーナーに事の次第を話して、全
て解決したと報告すると、オナーと家族は事が全部解決したと言う事を聞
いて安堵していた。

襲撃者達が警官の反撃で二人も死亡して、運転手は逮捕されたと聞いて、
勝ち組の一番危険な首謀者が二名も居なくなったと再度安堵の言葉を出
していた。

農場主の奥さんが報告して戻る富蔵に、軽食と飲み物、フルーツなどを
籠に持たせてくれた。富蔵が現場に戻ると、すでに町から署長と鑑識がき
て、現場を検証して調書を作っていた。
現場は直ぐに検証が終わり、遺体は襲撃者のトラックに乗せられ、町に
運ばれて行った。
何かあっけない結末に富蔵もホッとしていた。

翌日、町の新聞には簡単な見出し記事が掲載されていた。
『農場主を金銭的に脅迫し、町に行く途中を襲った強盗団が、警護の警官
 に二名射殺され、事件はその場で解決した』と短く出ていた。
警官の写真と道路脇に停止した車の横の死体写真が出ていた。
何処にも勝ち組とかの言葉も無く、ただ強盗団の襲撃と書かれていただけ
であった。

リオ・ベールデの町に滞在していたと富蔵を、農場主の夫婦が訪ねて来て、
アマンダ兄弟の事務所を訪れて、今回世話になった若い衆や警官達に感
謝の言葉を掛け、お礼の金の包みを渡していた。

アマンダ兄弟達も全てが解決した事を喜んでくれ、直ぐにこの事件も世間
の流れに消えて、誰も思い出す事もなくなると話していた。
ブラジルの戦後の動きは早く、サンパウロに戻った富蔵も戦後の日本から、
またブラジル移住が再開されると言う話も聞いて来た。

その後の日本人会の動きも穏やかになり、過激な勝ち組とか言う様な話も
消えていた。

富蔵の家庭も穏やかな幸せを楽しみ、富蔵が産ませたリカの子供マリーも
サンパウロの大学に入学して、富蔵の家に下宿していた。雪子は我が子の
ように可愛がり、時々訪ねて来るリカとまるで姉妹のようにしていた。

富蔵がリオ・ベールデに仕事に出ると日帰りは大変ですからと、リカの存在
を認めて泊まって来るように暗黙に勧めていた。雪子は富蔵の子を産む事
は無かったが、富蔵の次男をわが子として可愛がりよき家庭を営んでくれ
ていた。富蔵は運命の絡み合いのリカと雪子に感謝して、ブラジルでの生
活をしていた。

リオ・ベールデに住み着いているリカも、今では重要な会社の運営に参加し
て少しは衰えた美貌ながら多くの会社の経営を任され、会社の営業交渉に
大きな力を今でも発揮していた。
彼女が育てている可愛い女の子が富蔵の子供だと言う事を皆が知ってい
るので、誰も手を出す事も無く、彼女が結婚指輪をしているので、奥さんと
呼んで認めていた。

富蔵も長いブラジル生活で現地での信用も得て、多くの友人や仕事での
知人も出来たが、すでにスミス商会も親の代から子供の時代に移り、ダイ
アモンド商会も社長の下に子供達が成長して多くの仕事を支えていた。

金鉱のブームは突発的に起きる事はあっても、機械化された資本が動く
ようになり、個人が参加して金を大規模に掘るという事も無くなってきた。
それだけ時代が変化して世の中が新しく代って、平和な時代になったと
富蔵は感じていた。

若くしてニユーヨークで船を下りて働き、またブラジルに来てそこで船か
ら逃げ出して、居付いて家庭を持ち、子供を育てて、ビジネスを開いて会
社を経営するまでに歩んできた自分を見詰めなおす時期が来たと富蔵
は感じていた。

世代が代わり、時が流れ、人生時計の刻みがブラジルの歴史と共に流
れ、ここまで来たと思った。
ある日、リカがサンパウロに仕事で来て、わが子のマリーと会い、皆で
揃い食卓を囲んで団欒を楽しむ姿を富蔵は見て、雪子に次男と、五人
の家族が揃い楽しく話をして居る姿に、何か運命ながら、自分の人生が
どこかで神に守られていると感じていた。

次男も今では大学を出て富蔵達の仕事を助けていた。これも我が家の
世代交代と感じて、次男に仕事を教えて、組織の会社の中で成長して
いく様を富蔵は見守っていた。

長い人生と感じていた時間は、黄金の砂金やダイアモンドなどブラジル
の大地に眠る巨大な富に惑わされ、踊らされていたと感じる様になって
いた。今迄の人生で積み重なった仕事で手にした資産は富蔵も驚く程に
膨れていた。

富蔵は陰ながら移住者達の子弟に奨学金を創設して、サンパウロの大
学町にアパートと下宿を開き、田舎からの学生を管理人を雇い世話して
いた。
移住者達が開いた農業協同組合にも資金参加して助けて、援助して二
世や三世達がブラジルで伸びて行く手助けも陰ながらしていたが、富蔵
は戦後移住して来る日本人の移民の窓口を助け、受け入れ入植地の世
話もしていた。
すべてこれまで、ブラジルに居付いて根を張った人生の総決算と感じて
その事に時間を使っていた。
時々、妻の雪子を連れて旅に出ていた。隣国のアルゼンチンやペルー
などにも観光巡りをしていた。

リカにも仕事で遠出する時は同行して旅に誘っていたが、喜んでリカも
旅に付いて来ていた。リオの海岸をのんびりと手を繋いで歩く事など、
リカにも富蔵にも夢にも考えなかった事が、現実として手にしたことに
感慨に浸っていた。

その時、リカが娘のマリーが、同じリオ・ベールデの町に住んでいるモレ
ーノの長男と婚約したいと聞いて来た事に、富蔵も驚いたが、直ぐに大
賛成をしていた。お互いの人生の実りが、子供同士の結婚までに実った
事は、なんとも言えない感動すらあった。

後日、モレーノと富蔵は抱き合って喜び、同じ我が子同士が結婚して子
供を産む事など夢だと言って乾杯していた。直ぐに二人で資金を出し合
い、子供達の希望の間取りの新築をプレゼントしていた。
モレーノとしみじみと酒を酌み交わしながら、お互いが命を助け合い、
ここまで来た長い時間の無事を乾杯していた。

すでにサムの娘も結婚して孫が出来て良きお爺ちゃんとして、サムも穏
やかな生活をワイフと楽しんでいた。


次回を持ってこの話の結末を書いて『第3話、伝説の黄金物語』を終わ
りに致します。

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