2013年6月28日金曜日

第3話,伝説の黄金物語、(90)


 飛んで火に入る夏の虫

その男はスミス商会の情報網の事は全然知らないので、まるでパブロ
が『飛んで火に入る夏の虫』と言った事が正直に本当になってしまった。

サンパウロ青果市場近くの商人宿に泊まり、手下の2名も車を運転し
て、市場外れのカフェー屋を根城にして行動を開始していたが、時々3
人で集まり何か相談している事が確認され、マリオが作業服姿で市場
の景色に溶け込んで監視に動いていた。

側のカフェー屋のテーブルにマリオが座っても、何を話しているかは、
広東語では皆目分からないので困ってしまった。
それよりこちらから相手の動きを電話盗聴で中国人の広東系中華金
融組織事務所に、彼等が掛けて来る電話で、あらかたの話の筋が理
解出来た。

数日過ぎた日に電話盗聴からの情報と同じ粗筋の行動を彼等が起こ
した。パブロが囮になり富蔵の車に乗り、マリオが側に同乗して飛行場
の事務所に行く様に走らせていた。
用心に前もって配下の二人も別の車で、刺客の竜と仲間の二人の車
を監視して後を付けていた。

サンパウロ市内を抜けて郊外に出ると、スピードを上げて走っている
パブロが運転する車の後ろを竜達の車がぴったりと付いて来ていた。

街道からわき道に入り飛行場に行く田舎道に入った時に、右側の助手
席と後部の席に座っている男二人が窓を開けるのが確認されて、富
蔵達の配下の男が車の中から用心にシュマイザーのマシンガンを構
えて狙っていた。

竜達が乗車している車のスピードが上がり富蔵の車を追い越してすれ
違いざまに、撃つと感じられ、配下の男が短く至近距離から狙って窓
から身を乗り出した男二人を狙って短く一連射した。

身を乗り出していた二人が動揺した瞬間、周りに車も居なかったので、
そのままの猛スピードで配下の車は、竜の車の右後ろに激突させた瞬
間、窓から身を乗り出して居た男二人が車外に勢いよく放り出され、
アスファルトに激突すると、激しく打ちつけた鈍い音を響かせて転がり
ながら脇の崖下に落ちて行った。

竜の車はハンドルを取られると、スピーンしながらわき道の崖下に転
がり落ちた。それと同時にクラッシュする大きな響きと爆発音がして、
ガソリンタンクが燃え上がった。
富蔵達の車2台は停車することも無く、現場から走り去った。

直ぐに黒煙が上がり、車が道路脇の崖下で大きな火の塊となって燃
え出していた。周りの潅木にも火が移り、バリバリと勢いよく燃え盛り、
通りかかった車が停止して見ていた
が、誰も手出しが出来ずに、見物しているだけであった。

そこにオートバイに乗車した男二人が飛行場方面から来て停止した。
サムと富蔵であった。
入念に周りを見て歩いたが、そこに消防車が到着すると二人の姿は、
いつも間にか居なくなっていた。
その昼過ぎ、遅いランチ時間に皆が集まり、今日の報告をして他の
情報と比較していた。
サムが食後のコーヒーを手に、『邪魔者が一人消えて行った・・』と
皆の前で話していた。

スミス商会の電話盗聴で、中国人の広東系中華金融組織事務所が、
かなりの衝撃を受けているようだと、報告が来ていた。

中華金融組織事務所の組織の裏を支える張本人の竜と、手下が
一挙に死んでしまったからであった。
翌日の新聞は『交通事故で車両がスピンして横転、崖下転落で爆発
炎上して搭乗者3名が焼死した』と短く出ていた。原型が分からない
様な姿の焼け爛れた車の写真が出ていた。
追突させた損傷も崖下転落と火災の為に問題にもされなかった様だ。

しかし、広東系中華金融組織事務所では、この件はどこかで裏で動
いていた組織があることを感じて居る事が盗聴記録から判明してい
たが、しかし巧妙に盗聴されている事は感ずかれてはいなかった。
日本人の組織も戦後の動きは早く、県人会、日本人会などが再構
築され、移住地でも大きく動き出していた。

商店も再開され農業組合組織も戦前以上に強く動き出し、中華組
織以上に動き出していた。
富蔵は裏方として資金的な援助と融資も支えていた。
スミス商会やダイアモンド商会の支えと、支援も大きな力であった。

中華金融組織事務所の発言力と株を持つ男が、ケープタウン経由
で香港に行くオランダ船からの航海途中で行方不明になり、インド
洋でその姿が消えてしまった。

船室には旅装一式が残され、かなりのドル現金もそのまま船事務
所の金庫に預けたままで消えていた。この件は事故原因不明で処
理されてしまった。

ペルーの中華金融組織事務所支部の幹部とサンパウロから訪れ
ていたボスの幹部が、マチュピチュ遺跡見物に行き、遺跡見物後
に裏山のワイナピチュ山に登頂してかなりの衆人環境の中で、
崖下100mも転落して二人とも即死してしまった。

原因は高山病における目まいから、抱き付いた一人を道連れに
して転落したと目撃情報が発表されていた。
短い時間に重要な幹部がブラジルとペルーでの組織から居なくな
り、殆ど活動停止状態に落ち込んでいた。

富蔵達の組織は強固に固まり、運営されて益々その力を蓄えて
いた。その裏にスミス商会の強力な各種の組織的な支援があった
からだと感謝していた。

『組織は力なり、大きな活動資金はビジネスの力なり、人の輪は
黄金の重さなり』と聞かされていた。

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