2013年6月9日日曜日

私の還暦過去帳(379)

人は見かけによらず、

先日、パソコンで何気なく動画投稿サイト、YouTubeを見ていたら、
スーザン・ボイルさんが熱唱する歌声が耳に聞こえて来ました。

私は最初、彼女の姿を見ても関心もなく、ただあまりのアクセス数の多い
投稿サイトだと思いながら見ていたのでした。
彼女が歌いだすと同時に、神経はパソコンのモニター画面に釘付けとなり、
耳をそばだてて聞いていました。

歌唱力はまさに人を引き付ける力があります。
澄んだ歌声とボリユームある声量の響きで、私は圧倒されて見ていました。
終るともう一度最初から聞いていました。

この世には天分の才能があっても、花開く事もなく朽ちて行く人も多いと
感じていました。

その時、45年近く前にアルゼンチンのサルタ州で私が働いていた農場で、
かなり年配のインジオが竹笛を作り、自分で吹いていました。

その響きがなんとも心に染み渡る感じが致していました。

私が最初に聞いたのは水揚げポンプの見回りに、夜のあぜ道を歩いてい
た時でした。
何処からともなく聞こえてくる澄んだ笛の音色に心奪われて、立ち止まって
聞いていました。
水揚げポンプのジィゼル・エンジンの微かな音に混じって聞こえて来る笛の
音色は、何か心の底からの笛の響きが出ている様な感じが致しました。

水揚げポンプ場の見回りが済むと、音につられて何処で吹いているか見に
行きました。
農場労務者達の小屋でしたが、独り者が居た少し離れた小屋で響いてい
ました。
小屋の前に薪として何処からか持って来た材木の上に座って聞いていました
が、小屋の前では焚き火が微かに燃えていて、ヤカンがその火に吊り下げ
られていました。
その側で男が笛を吹いているのが見えましたが、一曲終ると、側のヤカン
からマテ茶のボンベにお湯が注がれ、それを飲んでいるのが分かります。

私は相手に気ずかれないように静かに座っていましたが、マテ茶を飲み終
わると男は次の曲をまた吹いていました。

まさに心に染みる旋律で、その音が闇夜を突き抜けて、遠くジャングルの
中まで響いているかと思う様でした。

しばらく聞いていましたが男が笛を吹くのを止めて、小屋の中に入りました
ので私も家に帰る事にしました。
微かに焚き火の明かりが瞬き、夜風に煙が流れるのが分かりました。

しばらくして畑で会ったその年配のインジオに、竹笛の作製を頼みました。
しかし、今の時期は良い竹が採れないので、無理だと断られましたので、
いつでも良いからと頼んでいました。

忘れた頃に、私が水揚げポンプをいじっていた時に来て、部落に帰り、植え
付けするトウモロコシの準備をするからと言って、竹笛を一本持って来てく
れました。
明日の朝、町に出るトラックに乗せてくれと話していましたので、了解して
その場は別れましたが、その夜、月明かりの下で聞かせてくれた笛の音を
聞いていて、涙が出て来ました。

側で寝側って居る犬も、耳だけは音の方を向いていました。
黒々と巨大な壁となって静まり返るジャングルの中にも、染み透る様に響い
て居ました。
隠れた、心揺さぶる音を奏でる才能がある人が、この世の中には居るのだと
その時感じました。

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