2013年5月24日金曜日

第3話、伝説の黄金物語、(81)


 首謀者の涙、 

共犯者がいることが確認されて、皆が慌てていた。
予想が完全にひっくり返ってしまったからだ、確証は残された共犯者の
電話番号が重要で、貴重な証拠となっていた。
共犯者が何人かもまったく推定できない状態であるが、すでに次の襲撃
目標も決められていたことは皆を驚かせた。

彼等はナチスドイツに敵対する連合軍に協力する全ての人間を対象に
している事が分った事だけでも、彼等がどの様に組織を編成して行動に
移すかも、少しは推定されて来た。これだけの活動を、裏で支え、バック
アップする人物か、団体かを先ず探すことが重要と決めた。

かなりの活動資金が裏で動いていると感じていた。スミス商会の保安幹
部が、電話盗聴の手配をして、今夜の内に盗聴装置の取り付けを終了
するように上手く動いていた。

夜が明けない内にその電話番号の家に取り付けられた装置は最新鋭
の小型盗聴器で、近所に店が並んでいる中で、小さなユダヤ人会計事
務所に話がつけられて、そこの二階を借りる事が夜が明けると同時に
出来た。

初老のユダヤ人は子ども達も育って、ワイフと二人で会計事務所を維
持していたようだ。すでに言葉の訛りなども無いようなポルトガル語を話
し、ブラジル社会に溶け込んで、何処を見てもユダヤ人の素振りは無か
ったのが幸いしていた。

2階の狭い部屋で机の上に置かれた盗聴器のスピーカーから、微かに
通話時には声が聞こえてきた。スミス商会の幹部達も動き出し、それぞ
れに分担してダイヤモンド商会の協力で事態を、これ以上に悪化進展
する事を阻止することに全力を挙げていた。

夜が明けると同時にホテルに居た医者2名は、郊外の飛行場に直ぐに
移動させていた。
大きく金網で囲まれた中の事務所は、警備の守衛が居るゲートを2ヶ所
も通過しなくてはならず、最終的には番犬が放されえている居住区域は、
普段は他の住人が入ってくる事が不可能であったので、少しは安心で
あった。医者達は翌日の定期便で無事に何事も無く戻って行った。

そして、一晩で全ての対応をして翌日には全ての手配も済んでしまった。
しかし、とんでもない話が飛び込んできた。医者たち二人居た部屋が間
違って襲撃者達2名に襲われて、そこに居た男性が殺されてしまった。

医者を警備していた護衛が直ぐに部屋に戻ったが、そこには警察とホテ
ルの保安係りがすでに来ていた。警備の男が帰り際に、病院の外で屋
台の年寄りから襲撃者の風体と、彼等が乗車していた車両情報を幾ら
かの金銭と引き換えに聞き込んで来た。
車のナンバーも書き止めてあった。

僅かなタイミングで重大な事になることは避けられたが、気の毒に間違
って殺害された男性が気の毒であった。
スミス商会保安課の部屋に皆が対策本部を作り、皆が集まって来たが、
すぐに襲撃者のナンバーからその人物と住所が判明していた。
盗聴装置が順調に稼動して、多くの情報が集まって来ていた。ユダヤ人
の会計事務所と対策本部に電話が常時繋がれて、刻々と新しい情報と
彼等の動向が分かって来た。

ダイヤモンド商会から襲撃者を支援している人物がブラジル奥地のマッ
トグロッソで広大な牧場と金の採掘もしているドイツ系だということが知
らされて来た。
支援者は自分で行動など一切行わず、資金協力だけしている様であった。

富蔵は直ぐにマットグロッソ近くの支店で働いて居る、パブロに連絡を入
れ、その男の情報を集めさせた。その男はドイツ人達が多く住むリオグ
ランデ・ド・スールから来た男で牧場近くで金鉱を発掘してそれが成功し
て、かなりの資産を築いている事が判明した。

襲撃者達にその資金的なバックアップが居た事が判明して分かった事は、
これからの対応が易しく成ったと感じた。富蔵達はサムへの襲撃から動
き出したナチ狂信者達の行動を阻止して、壊滅させる事を考えていた。

まず資金提供者のドイツ系2世の男を見張ることも手配していた。資金的
な援助が無ければ身動きは出来ないと考えて、大本を切断して資金源を
完全になくすことも重要と感じていた。

その機会が直ぐにやって来た。ドイツ系2世の男がサンパウロに出てくる
事が電話盗聴で判明してすぐさま行動が開始された。秘書と2名でサン
パウロまで飛行機で飛んで来ることが分かり、すぐさまその対応が成さ
れた。飛行場に到着して迎えの車を装い、二人を連れ去る事が計画され
ていた。

ダイヤモンド商会の社長とスミス商会社長が幹部達と協議していたが、
ドイツ系が多く住むリオグランデ・ド・スール地方の長老を説得して、連合
軍に協力を取り付け、ブラジル社会でドイツ系の存在を危うくしない様に
説得することが決まった。
そのドイツ系二世の親が、第一次大戦の軍の勇士で、そこの長老的な
存在であることも判明した。
欧州戦線が終末に近くなりドイツの現状と今の実態を証拠に、連合軍か
ら得た情報写真と記録フイルムが用意され、ユダヤ人の迫害や、祖国
ドイツにポーランドや、オーストリアからのドイツ人系の撤退も記録フイル
ムで見せ、敗退する戦場の現実を見せる事が決まった。

マットグロッソから飛行機でサンパウロに出て来た二人を高級車で出迎
えていた。丁重に、まさに彼等がビジネス取引で電話で話していたことを
盗聴器で聞いて、銀行の出迎えの様にして、こちらから彼等の銀行幹部
の名前を言って、出迎えに来た様に仕組んでいた。

これも全て電話盗聴で得た情報があればこそ出来た事であった。全て完
全に上手く行った。丁重に高級車に出迎えられ、助手と運転手を前に、
何も疑問一つ持たずに彼等は乗車していた。

高級住宅の一角に来て、同じ所を数回ぐるぐると回り道をしてから、大き
な邸宅に車が滑り込んだ。
丁重にこれも部屋に通され、ゆっくり寛ぐ様に勧めて安心させ、夕食まで
庭のプールでひと泳ぎする様に執事が勧めていた。
プールサイドにカクテルが運ばれ、オードブルの皿も並び何処にも隙は
無かった。

執事がバスタオルとガウンを手に、あと20分で夕食となりますと告げ、
その夜の重要な幕が開いた。大食堂に正装して並んだダイヤモンド商会
の幹部とスミス商会の幹部達が起立して彼等が食堂の大広間に入って
来るのを待ち構えていた。

それと同時にピアノの生演奏が始まり、給仕達がカクテルやウイスキー
などの飲み物を配り始めていた。皆がグラスを手に談笑の輪を作り、正餐
のテーブルに各自が着席するまでには、すっかりとお互いが打ち解けて
会話を交わしていた。

食事の前のシャンパンの乾杯では和気藹々の様子さえしていた。
食事が終わり、最高級の葉巻やタバコの盆が回され、コニャックのグラス
が配られ、全ての用意が済むと、現在の欧州戦線とその動きの様子の
最新記録フイルムを鑑賞と言ってカーテンが閉められ、壁にスクリーンが
下ろされ映写が始まった。

始まって2分もしない内にシーンと座が静まり返っていた。画面は凄惨な
戦場の有様を克明に、一部は当時では珍しいカラーで映し出していたか
らであった。
そして、それは連合国の前線従軍カメラマン達が命を掛けて撮影したフ
イルムであったからだ。
ダイアモンド商会の社長やスミス商会がアメリカやイギリスの情報機関
から手に入れてきた貴重な最新のフイルムで、ブラジルなどでは絶対に
目にすることが出来ないフイルムの画像があった。

ドイツが敗退を決定したスターリングラードの戦い、サハラ砂漠でのドイ
ツ軍の壊滅、ユダヤ人の悲惨な迫害と強制収容所の有様や、隣国から
ドイツ国内に逃げ込むドイツ人避難民の哀れな有様や、言葉では説明
出来ない事が、目で見るという一瞬の事で全てを理解させていた。

静かな大広間のテーブルにフイルムがカラカラと終わりを告げるリール
の音が響いて、カーテンが開かれ、執事がシャンデリアを点燈すると、
そこには立ち上がりテーブルに両手を置いて、うつむいている、ヨハンと
言うドイツ系の牧場主の男が居た。

その時、部屋にダイアモンド商会とスミス商会の社長が静かに入って来
た。そのヨハンという男の両側に立つと静かに話し始めた。
『悲惨な戦いを止めさせ、これ以上、人々が苦しみ、戦場で屍を晒す事
を止めさせ様ではないか、』と語りかけていた。

『このブラジルは人種のルツボ、ここでお互いが殺し合い、憎み合い、
憎悪の心を復讐にまで育てる事は必要ない・・』と言うとその男の肩に
手を置いた。

『争いは戦いとなり、お互いが傷つき死んで行かなければならない・・、
それも若者達の命だ・・』と言うと、かすかに男の嗚咽が聞こえていた。

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