2013年5月13日月曜日

第3話。伝説の黄金物語、(79)

 
 手術の成功と報復開始、

サムの手術は長時間掛かっていた。
皆が黙りこくって待合室のイスに座り込んでいたが、ワイフと娘は皆に囲
まれて、ただ祈っていた。
その時、ダイアモンド商会の社長が何か小さな包みを持って、急ぎ足で
入って来た。第2次大戦中に中に多くの負傷兵や戦傷者を感染症から救
った、ペニシリンを持って来たのであった。

1942年から実用化された抗生物質は、多くの人々を救ったことが歴史
に残っているが、まさに誰でもが直ぐに手に入れることが出来る医薬品で
はなかったので、ワイフと娘にそのペニシリンを社長が説明していた。

ブラジルでは貴重な医薬品で、感染症からの救いの特効薬として、その
当時はそのペニシリンだけであった。皆がその話を聞くと、ホー!と驚き
と、感謝の眼差しでダイアモンド商会の社長を見ていた。

誰かが手術中のサインが消えたと、連絡して来た。
移動のストレッチャーに載せられたサムが、点滴を受けながら出て来たが、
そのまま特別介護室に移された。
しばらくしてユダヤ人医師二人が着替えて待合室に来ると、まずワイフの
手をとって、『私たちの全力を挙げて手術をしたが、まず100%の確立で
成功した』と明言した。

『感染症が起こらなければまず心配は無い・・、』と言ったが、ダイアモンド
商会の社長が包みを見せて、『ここに十分な量のペニシリンがある・・!』
と言うと、ユダヤ人医師は驚きの表情を見せると、包みを両手に握ると祈
るようにして、皆にその医学的効能を説明していた。

直ぐにサムに化膿症予防のペニシリンの処置がされ、それが終わるとユ
ダヤ人医師は安堵の表情で『これで万全だー!』と言ってワイフと娘の肩
を抱いていた。
皆がそれを聞くと安堵して、スミス商会の幹部が近くのレストランで食事
の用意をしたので、ここは切り上げて皆で軽い食事でも・・、と誘ってくれた。

皆は安心したのか、急に空腹を覚えて、それではお言葉に甘えて・・、と
言うと病院の裏手にあるカフェテリア形式のレストランに移動した。
今日の手術の成功を祝ってワインのグラスを上げ、そこでサンドイッチと
スープの食事をして、スミス商会の保安幹部が呼んだ護衛四名が到着す
ると、サムの病室とワイフと娘に二名ずつ警護が付くと、皆は帰宅して行
った。
富蔵達が飛行場のオフイスに皆で帰ろうとした時に、タクシーを降りたペド
ロが駆け込んで来た。帰りがけの保安幹部も席に戻り、モレーノと富蔵も
ペドロを囲んで報告を聞いていた。
『サムを襲撃した犯人の居所を探し出して、そこに見張りを付けて報告に
来た・・』と皆に言った。普通の住宅街の離れを借りて住んでいる事が判明
した。
ドイツ製BMWのオートバイを使って居る事も分かったが、パンク修理が
大変な後輪をパンクさせて来たとペドロが報告していた。

直ぐにレストランの片隅で作戦を皆で考えていたが、スミス商会の保安
幹部が、ここでは人目に付いて上手く会話も出来ないので、近くの我々保
安課が使うオフイスがあるので、そこに移動しようと誘われた。皆は異議
も無く、スミス商会の倉庫裏手にあるオフイスに車で移動した。

そこに到着すると、ペドロが犯人が潜む家の周りの見取り図を、テーブル
の上に広げた紙に書いて説明してくれた。そこの大家の家も、犯人の住
む離れも、犬を飼って居ないことが分かっていた。
直ぐにスミス商会の社長と幹部に、この事が連絡され犯人を抹殺するこ
とが決まった。

用心に複数の共犯者が居ることを考えて行動を開始した。
スミス商会の保安幹部は、住宅街のど真ん中に住む犯人を狙撃して抹殺
するのは簡単かもしれないが、ことがばれて世間にこの真相が広まったら、
まずい事になるのは見えているので、穏便に誰にも覚られ無いように抹殺
する事を主題とした。

保安幹部は98%は単独犯行と考えられるが、用心はしなければならない
と言って、酸素ボンベの様な物を出して来た。犯人が寝入った所を、この
催眠ガスを部屋に注入して昏睡状態にして注射を犯人に行い、心臓麻痺
と同じ症状で抹殺するというストーリーを説明してくれた。

保安幹部はナチの狂信的な信者を、これ以上増やさない事も重要だと説
明してくれた。自然死であれば仲間達がいても復讐とか、報復にエスカレ
ートする事態は避けられると見ていた。
モレーノもこの案は賛成をしていた、多くの逃亡ユダヤ人達が混乱してい
る欧州戦線の乱れに乗じて南米に逃げてくるルートがすでに出来上がっ
て、サンパウロでも目に付く様になっていたからであった。
ナチ狂信者からしたら目障りで、我慢ならない事であった。

サンパウロの巨大都市に潜むナチ党員や協賛する人間は大勢居ると考
えられ、ブラジルからアメリカやイギリスなどに送り出される資源と、戦争
資材はドイツを追い詰める物と考えられていたから、彼等の狙いも、それ
を阻止する事に動いていた。

スミス商会もダイアモンド商会も用心して、保安幹部を置いて対処してい
たのであった。もう一度皆で、卓上犯人襲撃演習を繰り返していたが、皆
が完全に襲撃行動を諳んじてしまうと、今夜遅くに決行すると決まった。

ペドロが見張りへの食料と、シュマイザー・マシンピストルを手に先に事
務所を出て行った。富蔵とモレーノは保安幹部とコーヒーのカップを合せ
ると乾杯して成功を祈った。
保安幹部が早く戦争を終わらせる為にも、ナチ狂信者達を阻止しなけれ
ばならないと言った。

0 件のコメント:

コメントを投稿

登録 コメントの投稿 [Atom]

<< ホーム