2013年5月7日火曜日

第3話、伝説の黄金物語、(77)

サムの悲劇、

サムも二ユーヨークでの新婚旅行から帰宅すると、前以上に仕事に精を
出していた。
家族でサムの御殿と言われる屋敷に仲良く家族で暮らす姿は、誰でも
がうらやましいと感じるのであった。
ヨーロッパ戦線はスターリングラードの包囲戦でのドイツ側の敗退が決
まり、戦線が崩壊始めていたが、戦局の緊迫はブラジル社会にも直に
影響して来た。
石油製品の逼迫と、工作機械製品の供給が止まってしまった影響が響
いていた。

日本でも戦局が連合軍に傾き始めていた頃であった。資源の供給が止
まり、枯渇して来たからで、富蔵達は大きな組織の中に生かされて、共
存して会社組織を維持して、多くの従業員達を抱えて運営していた。

赤十字活動も富蔵達にプラスに動いていた。辺地の金鉱に働く多くの砂
金掘りたちが 定期的に訪れる巡回医療に感謝として、僅かながらでも
資金を出す様になり、それにつれて多くの情報も集まる様になった。

巡回診療もガリンベイロー達の大きな支援が出来て、富蔵達のビジネス
にも大きく役に立って来た。毎回同じ場所で、定期的に開かれる医療診
察は、そこに定期的に市場が出来、人が集まり、食堂が開かれ、出店が
開かれ、定期的な補給基地として富蔵達が持ち込む物資が売れて大き
な収益も出ていた。

砂金の買取も順調で、公正な対価で払うビジネスは信用の積み重ねで、
ゆるぎない基礎を作っていた。
世界大戦の戦場で消費される物資は莫大な量となり、ブラジルにも大き
な負担と逼迫が来ていたが、富蔵達が細々でも奥地のジャングルの採
掘現場に送り込む石油製品、資材は大きな利益を出していた。
もはや富蔵達の会社が手を出してやる砂金採掘より、大きな利益が出
ていた。

その頃、サムがワイフと支援していたのは、ヨーロッパからの逃亡ユダ
ヤ人の援助と、救援であった。悲惨な状況から辛くも逃れて来た逃亡
ユダヤ人達が、やっと南米大陸に逃れて来て入国が出来ても、その環
境は経済的にも、精神的にも惨めな状態であった。

逃亡ユダヤ人の彼等が持って来た財産は僅かな手提げの着替えと、
洗面用具だけと言う事もあったが、彼等が頭に知識にして持って来た
頭脳は大きな財産となっていた。

富蔵達が後押しした赤十字の医療巡回診察も、軌道に乗り感謝の言葉
を奥地の金鉱などで得ていたが、そこに働く医者などがいつも不足して
いた。
サムがまだブラジルで医師免許が無い、逃亡ユダヤ人の医者が仕事
が無いので、何か出来る事はないか、相談に来ていた。
これもダイアモンド商会の社長と幹部、スミス商会の社長がブラジルの
赤十字の後押しを貰い、政府から、国際赤十字の派遣医師として巡回
医療の医者として認めさせていた。

これで大きな成果をあげていたが、現場での医療も当時のドイツの外
科医として、かなりの高名な人物であったので、田舎の赤十字病院で
は直ぐに全国から患者が訪ねて来るようになった。

サム達がスペインやポルトガル、フランスや、スイス経由で逃れて来る
逃亡ユダヤ人の受け入れをして居る事が知られる様になって、ある日、
サムがサンパウロに出て車で帰宅中にオートバイに乗車したナチの狂
信的な犯人から狙撃され重症を受けてしまった。車のドアを貫通した
拳銃弾が腹部に命中して腸管が傷を負い瀕死の重態となった。

用心していたが突然のナチ狂信者の行動は単独犯行で、組織も無い
人間を特定して看視する事は不可能であった。

病院の手術室に担ぎこまれたサムを見て、ワイフと娘がおろおろとし
て泣き崩れていた。富蔵は直ぐに緊急処置をされたサムをどうにかし
て助けようと、電話と電信で即刻各地に連絡をしていた。

ペドロにも電話して、襲ったナチ狂信者のオートバイの型と色、ナン
バーの一部が判明していたので、それと男の様子を詳しく教えて直ぐ
に探し出す様に命令していた。

それと同時にモレーノから弾く様に電信が飛び込んで来た。
『リオ・ベールデからあと2時間でユダヤ人の名医が駆け付ける・・』と
連絡が来ていた。
それと同時に、医薬品名と用意する機材の名前が書かれていた。
担ぎ込まれたサンパウロの病院では、すぐさまそれらが用意され、
飛行場では車が待機して到着を待っていた。
知り合いの警察署長に頼むと、警察のオートバイが二台で先導して
くれると言う事で、そのオートバイも待機していた。
病院では緊急処置が済んで、輸血も行われていた。

雲間から飛行機が見えると真っ直ぐに滑走路に小型機が滑り込む
と同時に、富蔵がハンドルを握る車に医者二名とモレーノが飛び込
んで来た。医者は白衣を着たまま、医療カバンを手に緊張して様態
を聞いていた。

緊急サイレンを鳴り響かせるオートバイを先頭に、サンパウロの病
院に凄まじいスピードで走り始めていた。富蔵はサムの無事を祈り
ながら、ハンドルにしがみついて運転していた。
外科手術では当時のヨーロッパでは名が知られたユダヤ人医者は、
ブラジルで助けられた恩に報いたいと祈っていた。

モレーノは無言で緊張した顔で前方を睨んでいた。
車内の医者二名は手術の手順をドイツ語で打ち合わせしていたが、
消毒アルコールの臭いがするので富蔵がバックミラーで見ると、医
者が自分の手をアルコールで消毒して用意を始めていた。

道行く車を蹴散らして疾走する警察オートバイはサイレンを響かせ
て病院の門を通過して病院の玄関先に滑り込んだ。飛行場からの
連絡でスミス商会の社長と幹部も待ち構えていた。

そのまま手術室まで行くと付いて来た皆に、『これからサムを力の
限りを尽くして手術する・・』と言うと
用意されていた手術着に着替えると医者は予備室に消えていった。

しばらくして手術中のサインが赤く出ると同時に、立ち入り禁止の
標識が出ていた。

0 件のコメント:

コメントを投稿

登録 コメントの投稿 [Atom]

<< ホーム