2013年4月18日木曜日

第3話、伝説の黄金物語、(72)


 親切は人の為ならず・・、

富蔵は歓待を受けて感謝の気持ちでいたが、モレーノもペドロもチリまで来た
事に喜んでいた。全てが無事に終了して金鉱主のオーナーの歓待に、全て
の苦労が吹き飛ぶ感じであった。

モレーノは一段落すると飛行場に行き、DC-2の点検をして給油に立ち会
っていた。帰りはサンチヤーゴから、ブラジル国内、イグワスの滝がある、
フォス・ド・イグワスまで飛び、そこからカンポグランデに生ゴムの集荷に行く
予定飛行路を確認していた。

帰りはアルゼンチン領内は通過のみで、積荷も無く、人間が3名だけの搭乗
では楽な飛行であった。飛行気象条件は飛行場で集めていた情報を元に検
討したが、低気圧の影響で山岳地帯の激変する気象条件の影響を避けるた
めに、今夜でもサンチヤーゴを飛び立つと決めた。

鉱山主の家族達と早目の晩餐が開かれ、最初の乾杯だけで食事が進められ
た。食後のコーヒーを飲む頃には、執事に飛行場から全ての準備完了の知
らせが来ていた。

逃亡ユダヤ人の奥さんがバスケットを用意して、中に飛行中の飲み物と軽食
を用意してくれていた。
鉱山主の家族全員で飛行場まで見送ってくれ、飛行服に着替えた富蔵達と固
く抱擁して別れを惜しんでいた。夕凪の風が止まった飛行場を夜間飛行の経
験豊富なモレーノが操縦桿を握り、飛行灯を点滅させながら離陸して行った。

アンデスの山頂付近は太平洋から吹き込む上昇気流に乗り、軽々と飛び越し
て月明りの夜空を一路ブラジルに向けて進路を向けていた。
明け方、空が朝焼けに染まる頃に、フォス・ド・イグワスの飛行場に着陸した。

スミス商会出張所の社員が早朝にも関わらず出迎えていた。
少しばかりの荷物の積み込みと、給油が行われる間に社員がイグワス滝の
近くのホテルに朝食の用意をしていた。

車を飛ばしてホテルに到着すると、すでに朝食のテーブルの用意が出来て
いた。朝日が差し込むテラスの木陰で鳥の鳴き声と、滝の水音をを聞きなが
ら朝食を済ませると、社員の案内で富蔵達三人は世界でも有名なイグワス滝
の見物に出た。

初めて見る壮大なイグワス滝の流れを見て富蔵達は驚嘆の声を上げていた。
何か自然界の創造の神が造ったと考える様な滝であったが、富蔵達が十分
に満足する見物であった。飛行場に戻ると、すでに積荷も給油も終り、社員
が待機していた。

モレーノが機体の点検をして、積荷の確認をすると社員達にお別れをして離
陸して行った。カンポグランデまでは単調な飛行であった。
到着すると待ち構えていた作業員が積荷を降ろして生ゴムを搭載すると折り
返し、昼には給油も済ませてサンパウロに向けて飛び立った。

そこで生ゴム集荷に関わっていた富蔵達の社員の一人がアマゾン奥地から
天然ゴムの採取をするインジオ達の情報として、アマゾン支流の一つで大規
模な金鉱が発見されたと聞き込んで来た。欧州の戦線拡大で世界経済が紙
の紙幣より、金の延べ棒での決済が有利な取引とされる様になったからで
あった。金価格高騰はゴールドラッシュを引き起こしていた。

その社員の提言で偵察の飛行機を飛ばすと言う事を富蔵達は話し合ってい
た。モレーノは場所的には辺地の未開地域で資材、食料、医療や連絡網な
ど、まったく出来ていない現場に拠点を開く事は、そこを押さえる事と同じで、
早急に協議して行動開始すると決めていた。それには富蔵も大賛成であった。

その日の遅くサンパウロにDC-2の飛行機は到着した。
荷降ろしは作業員に任せて、モレーノと富蔵はアマゾン上流のゴールドラッ
シュをサムを交えて話し合っていた。結論は早急に偵察の飛行機を飛ばす
と言う事に結論が出た。
事は急げという事で翌朝早く、モレーノとペドロが航空写真を撮影して、現
場上空から地形を観察して来ることが決まった。カンポグランデには積荷が
あるので、それを運びながら飛ぶという事であったが、そこで情報を聞き込
んで来た社員を搭乗させ、現場上空に行くという手筈が決まっていた。

アマゾン河支流には砂金採掘場が点在して、かなりの数の砂金掘り、ガリ
ンペイロ達が動いていると言う事も確認していた。

その間、富蔵は溜まったサンパウロの事務処理をして、サムと情報収集を
していた。すでに砂金堀達がアマゾン河の上流から掘り出した砂金の量は
100kg近い量が産出されて、毎週かなりの量がサンパウロまで運ばれ
て来ているのが確認され、その量の豊かさが分った。
富蔵は事務処理中に手紙の中に税務署からの呼び出しが来ていることを確
認したが、明日の朝の呼び出しであったが、丁度良いタイミングの日時で
あった。

アマゾン上流の砂金発掘現場に行く前に済ませておきたいと考えていたの
で、翌日、サンパウロの指定の税務署に出かけた。
呼び出しの手紙を手に、廊下のイスに座って順番を待って部屋に通された
が、難しい顔をした税務官が色々と質問して来た。

富蔵は丁重に返事していたが、その税務官がマジマジと富蔵の手の指輪
を見ていた。突然、言葉つきまで激変して、相手が丁重に富蔵の顔を見
ながら、助手を呼ぶとコーヒーを出す様に命じていた。

事務室の隣の応接室に案内されると革張りのイスを勧められ、扇風機が
点けられ何処か電話で話して居たが、助手に命じて順番を待っている人達
に、今日は急用が出来たから、午後からまた来るように命じていた。
富蔵は内心不安な心でコーヒーカップを手に、応接室に座っていた。

待つ事少々、慌てて部屋に入って来た初老の男が、腰をかがめて富蔵に
自己紹介をした。ヨゼフと言う名前で、税務官は自分の息子だと教えてく
れた。

自分はユダヤ教のラビで活動していると説明してくれ、ラビは聖職者では
なく、教師や指導者、そして律法学者としての役割を持っていると言って、
長老的立場で「律法学者」が分かりやすいのではないかと教えてくれた。

ユダヤ教とは神が定めし律法を守って、人の道に外れぬ生活を行なえば、
終末の時が来たときに必ず神からの魂の救済がある・・・と言う教えであり、
その律法の確立を目指して律法を研究し、研究したものを選んで、ユダヤ
人民に教え導く役割を担っているのがラビと言うわけですと説明してくれた。

富蔵は神妙に税務署の応接室でヨゼフと言う男から話を聞いていたが、
ヨゼフは富蔵の前で膝を折ると、震える手で富蔵の手を握り締め、
『この指輪を手に持っている人は私が知る限り数える人だけです、特に
真ん中にダイアモンドをはめ込んだ指輪は特別です。貴方はユダヤ人で
はないが、何か特別の事をしてくれたと思います・・』
と言うと、うやうやしく指輪にキスをすると税務官の息子を促すと

こんな所では失礼にあたると言うと、税務所前に駐車していた車に、二人
で脇を抱えられるようにして丁重に車に乗せられてしまった。

着いた所は閑静な場所の高級レストランで、ランチには早いが、まずは
お話でも・・、と言うと大きなテーブルに座らせられ、食前酒を前に、税務
官の息子と三人で話を始めた。
話が進み、事情が全部分るとラビの資格を持つヨゼフが改めて感謝の言
葉を言うと、欧州のナチ政権のユダヤ人排斥の惨状から逃げ出す人々を、
スミス商会とも関連して救助活動していると話してくれた。

アメリカのカリフォルニアに行った逃亡ユダヤ人は、これからの戦局の情
勢を変化させる情報を持っていると説明してくれた。

その日の午後、ランチを三人で済ませて帰宅する頃には、ヨゼフ氏が本
業の税務コンサルタントも富蔵達にしてくれる事になり、ブラジル国有地
の賃貸契約も代行を請け負ってくれた。

帰ってからその事をサムに話すと、余りの良い話に彼はびっくりして聞い
ていた。

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