2013年4月7日日曜日

第3話、伝説の黄金物語、(69)


チリ、サンチヤーゴへの飛行

飛行艇は直ぐに水平飛行に入ると、眼下にサントスの海岸山脈を下に見
て内陸に入った。
気流の関係で少し飛行機が大きく揺れて居たが、直ぐに着陸態勢に入り、
サムの飛行場側の湖に着水し、直ぐに水面を滑走して岸壁に着いた。

出迎えの車が二台来ていたが、ひっそりとして静かな岸壁であった。
倉庫の陰になって余り飛行艇は見えないようになっていた。

ユダヤ人達は安心した表情で車に乗り込むと、飛行場事務所の応接室
にひとまず休んでいた。食事と飲み物が出され、チリの家族に無事ブラジ
ル入国の知らせが送られた。
サムとモレーノ達が富蔵を囲んで、今日のブラジル海軍のナチ狂信者達
の襲撃情報の検討と今後の対応を考えていた。
どれだけの情報が漏れたか・・、これが最大の問題であった。

チリへの飛行情報が漏れていたら、何処かでまた同じ様な戦闘機での襲
撃があるかもしれない危険性があった。この事は直ぐにダイアモンド商会
の社長と、スミス商会の社長と幹部に知らされた。
チリへの経由地点メンドッサ周辺が気象条件の急変で本日の飛行は無
理な様子であった。
アンデス山脈を跳び越すのは飛行条件が良くないと、非常に危険な飛行
となるので、慎重にコースの気象情報を集めていた。

その事はスミス商会の幹部が専門的に集めた気象情報をサムに知らせ
てきた。本日の出発は中止する様にと連絡が来ていた。
チリからの気象情報でアンデスの山岳地帯で強風が吹いて、雲が多く視
界が悪いと言う情報が来ていた。

その気象情報とナチ狂信者達にどれだけ情報が漏れたか・・、これが一
番の焦点となっていた。
サムが本日の飛行は中止と決断して、直ぐに電話でスミス商会の担当
幹部に連絡が入れられ、ユダヤ人逃亡者達の宿泊も決められた。
用心に飛行場内の宿舎にベッドが用意され、暖かいお湯が出る風呂も用
意された。

飛行場の警備担当者とも相談して、宿舎は用心して僅かな人しか知らせ
なかった。
警備犬が3匹も連れて来られ、入り口の脇に警備員と目立たないように
隠れていた。その夜、スミス商会の担当幹部が富蔵達を訪ねて来た。
サムとモレーノが今日の海軍警備艇と戦闘機の襲撃の様子を説明して
いた。

現在までの情報として、ユダヤ人達のブラジル上陸の情報は漏れたが、
上陸してチリに飛ぶ経路や飛行時間、出発地点などはこれまでの全部の
状況と周りの情報を総合すると、このプランを知る人数が余りに少ない事、
サムが飛行経路や飛行機の予定など、全てを管理していたので、担当幹
部はサンチヤーゴ飛行計画は漏れていないと判断した。

しかし、サントスの情報提供者達の動きがブラジル海軍のナチ狂信者達
に知られたと言う事は問題だと幹部は話していた。
サントスの拠点倉庫を直ぐにも引き払い、別の場所に移動する様に手配
してしまったと話していた。幹部はユダヤ人逃亡者達と話していたが、メ
モを取りながら聞いていた。
チリに送る電信文も書き留めている様であった。

これは用心して会社のテレックスを使い、一部数字は暗号に替えて送信
されると話していた。担当幹部は今日、皆の働きに感謝して富蔵とペドロ
の負傷にも労わりの言葉を掛けていた。
二人の負傷は行動に支障が出る様な傷ではないので、幹部も安心して
いた。
担当幹部が得た情報では警備艇が沈没した地点は、大西洋の急に深く
なる海域で、1500mも深い海域では沈没船引き上げなどは不可能と聞
いて来た。
原因不明が現在の状況だと、海軍から説明があったと話してくれた。
旧式な戦闘機の墜落も同じ状況だと考えられていた。

その話が終ると皆で今日の成功を祝って乾杯していた。それが済むと幹
部は事務所に電話を入れ、もう一度飛行経路の天候を聞いていた。
天気が崩れて悪くなるばかりで、飛行可能の条件は完全に無くなってし
まった。
用心にアルゼンチンのメンドッサでの給油とアンデス山脈の気象待ちの
時間があるかもしれないので、密かにメンドッサの町の宿泊か、休憩出
来る場所を考えていた。
富蔵は昔、上原氏から聞いた事を思い出した。
それは、アルゼンチンのブエノスに移住して住んでいる遠い親戚が洗濯
屋をしていて、メンドッサに子供のために店を買い、新規開拓で支店を
開店して、繁盛していると聞いた事を思い出していた。

それを確かめる為に富蔵は上原氏の農場に電話を入れてもう一度確認
していた。上原氏は気軽にその親戚の住所と、洗濯屋の店の名前と、電
話番号を教えてくれた。
用事で行くのなら是非とも現在の状況を見てきて貰いたいと話していた
が、一応ブエノスの親にも電話を入れておくと話してくれた。

すでにメンドッサに定住して長く、店も繁盛して、郊外に小さな農場が付
いた家を買うほどに成っていると話してくれた。この情報は何かの時に貴
重な連絡先となると思った。
飛行場での給油とアンデス超えの気象確認での着陸だが、どう事態が
変化するかまったく予測できなかった。

その事は担当幹部も時間で変化する山岳部気象条件の動きを注目し
ていた。
富蔵に妻の雪子から電話があり、上原氏の使いが来て、もしもメンドッサ
に行くのであれば、沖縄から移住して来た弟が持って来たお土産を、少し
ばかりアルゼンチンまで託されたと連絡が来た。

担当幹部は『今日は飛ぶことはまずありえないので、自宅で今夜は過ご
してきたら・』と言われ、サンパウロに帰るので通り道なので、自宅まで
送ると誘われた。
サムとモレーノと話して自宅で今夜は泊まると了解を居て、帰途についた。

幹部の車に同乗して自宅の前で降ろして貰い、その夜は雪子の手料理
で疲れた身体を癒していた。ゆっくりと風呂に浸かり、青あざをマッサージ
していた。その夜は雪子を抱いて朝までぐっすりと寝ていた。

翌朝、幹部が飛行場に行く道に拾ってくれ、飛行場に行くとすでに飛行機
はプロペラをアイドリングしてエンジンを暖めていた。天候が急に変わり
メンドッサまでの飛行経路は何も問題ない状況になっていた。

富蔵は飛行服に着替え、今回の飛行ではモレーノの助手をする事であ
った。モレーノもすでに飛行服に着替えて座席で計測器具の点検をして
いた。
サムとペドロがユダヤ人達に飛行服を着せて、子供には厚い毛布ですっ
ぽりと身体を巻いていた。荷物4個も積み込まれ、サムがもう一度モレー
ノと飛行経路の再確認と、無線のテストをしていた。

ペドロはかいがいしく携帯食料や、飲み物や温かい魔法瓶のコーヒーな
どを用意して座席に座らせ安全ベルトの仕方を教えていた。サムが無線
誘導と、連絡のために通信室に手を振って消えて行った。

爆音が響き、車輪止めが外され、ゆっくりと動き出した。航空燃料が満載
された飛行機は滑走路を滑るように離陸を開始した。
ユダヤ人達が揃って祈りの言葉を声高く唱えるのが聞こえて来た。

モレーノが操縦桿を握り、富蔵に『行くぞー!』と声を掛けた。

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