2013年3月31日日曜日

第3話、伝説の黄金物語、(67)


サントス港での戦い・・、

サントス港は久しぶりであったが、情報提供者達の隠れ家の倉庫が集合場
所になっていた。今回はかなり危険な情報が入って来たので皆が緊張して
いた。

何か大きな情報をドイツから持ち出して来たユダヤ人が一番の標的とされ
ている事が判明していた。マイクロフイルムにかなり圧縮した図面や資料
が一番のナチ狂信者達の目標であることがすでに富蔵達に知らせが来
ていた。
もしかすると欧州戦線の戦局を変える情報であるかもしれなかった。

今回のユダヤ人受け入れの作戦行動は小型のアメリカ製の通信機を使う
ことが可能で、かなりの行動範囲が、安全に移動できる事が確約されていた。

相手方は何処に居るかも分らなかったが、一度でもそれが分り、判明してし
まえば、後は相互にお互いが連絡できる通信網を使えば、即決で次の行動
が判明し、緊急な状態でも逃亡者達の安全と逃げ道が確保出来る状態にし
てあった。

チリの金鉱主の親戚からは、いかなる代価も払うから家族を安全にブラジル
に入国させなるべく早くアンデスの山を越えてサンチヤーゴまで連れて来てく
れる様に、丁重にスミス商会の社長に依頼の電信が来ていた。
同じユダヤ系の組織の輪の中で、彼等の連帯と助け合いの精神の絆は世界
中で繋がっていると富蔵達は感じていた。

今回は情報提供者達のグループから高速艇の提供が決まっていた。
そこにもアメリカ製の小型通信機が設置され、高速で航行する船からも即時、
連絡網で誰でも周波数が同じで、同じ型の通信機を所持、設置していたら電
話機の様に話が出来る状態になっていた。これがどれだけ助けになったか、
それは直ぐに判明した。

サムは中型の水陸両用の飛行艇を操縦して、サントス港の河口辺りに着水
する事をすでに状況偵察をして、確認と潮の流れ、満潮時間や気象条件ま
で正確に把握していた。

高速艇には50口径のブロウニング重機関銃が据付けられていた。
これはいざと言う時に危険を脱出する時に使える様に準備されていた。
これも富蔵達の組織の中で手配され、サントスまで持ち込まれていた重火器
であった。

夜に入りブラジルの貨物船から、翌朝早朝にサントス港沖合いに到着する事
が連絡されて来た。
ブラジル領海内に入る寸前を行動開始と決めていた。
皆が早目に夕食をとると、もう一度今回の作戦で、皆が決められた配置と具
体的な動きを確認していた。

今回は一番危険と考えられるユダヤ人の身柄の安全を考えて彼等の子供二
人は除いて、大人には簡易防弾チヨッキも用意されていた。

モレーノがシュマイザーを抱え、拳銃も2丁所持していたが、その相棒として
ペドロが背中に同じくシュマイザーを持ち、狙撃用の小型ライフルを手にして
いた。小型の防毒マスクも各自用意していた。

富蔵は情報提供者達の中から特に選ばれた若者四人と、ユダヤ人逃亡者達
の脱出安全を図り時には手を引き、子供二人を背負い、抱えて無事に飛行
艇迄連れ込む事を担当していた。
モレーノの懐にはケースに入れた青酸ガスを濃縮したボンベを持っていた。
船内での戦いとなったときに、ドイツの塹壕戦で使われたと同じタイプのガス
を用意していた。
これは何処からかダイアモンド商会の幹部が持って来た物であった。

刻々と時間が経ち、高速艇が河口の倉庫群の運河水路からエンジンの音を
抑えてゆっくりと出港して行った。
その前に全体の配信網に送られたサインは『漁船が出港した』という暗号で
あった。サムはすでにサンパウロの自分の飛行場近くから飛び立つばかりで、
エンジンをアイドリングしていた。全てが1分の違いなく行動開始をしていた。

港に入港案内する水先案内人が乗船した小型のタグボートが動き出したと
言う連絡が入って来た。
高速艇は何処にでもある小型の釣り船の様に改造してあったが、この船が高
速で走り出したらどんな警備艇でも追い着けないスピードを出す事が出来た。

富蔵達は船内の窓から周りの様子を見ていた。広い河口に出て少しスピード
を出し始めると、船内から二人掛りで、ブロウニング重機関銃が運び出され、
素早く銃架に組み立てられ、長いベルト式弾倉が装填されると、キャンバス
をかけて隠された。

モレーノが富蔵に予備の防弾チヨッキだと言って、無理矢理ジャンパー下に
装着してしまった。
モレーノが笑いながら、『俺がそれを装着したら身軽に船に飛び乗れない・・』
と笑っていた。富蔵も動きが少し鈍くなり、重たい感じが肩と胸に感じていた。

それもそのはず、心臓部分には薄い鋼板が入れられていたからであった。
モレーノとペドロがお互いに行動分担の役割を確認して自分の銃器を確認
していた。
船内にラジオ通信の声が響き、不審な飛行機が港の上空を旋回して偵察
するように飛んでいたと情報提供者側から緊急の知らせが来ていた。

モレーノは双眼鏡を手にすると、沖合いに出た高速艇の周りの空を看視し
ていた。彼の動きが止り、双眼鏡の焦点を合せていたが、急に怒鳴る様に
『用心して銃器を構えろ・・』と言うと、双眼鏡を放り出すと肩から掛けていた
シュマイザーを構えて、ペドロにも促した。

微かに爆音が響いて来たが、時間にしたら一瞬の間であった、モレーのが
顔色が変わった。
『あの飛行機は攻撃姿勢に入っている・・!』と怒鳴るといきなりシュマイザー
を連射し出した。ペドロもつられて突進して来る機首に向けて連射していた。

ブロウニング重機関銃のカバーが跳ね除けられ、銃口が動き標的を定めてい
た、突進して来る飛行機の鼻先に、いきなりかなりの銃弾がまとまって集中し
て飛んできたからであろうが、少し進路がぶれた。平行した機銃弾が2列で船
の横を通過していた。

微かに飛行機が横に反れ高速艇の直ぐ脇を通過した瞬間、ブロウニングが
ドドド・・と飛行機を追い掛けるように弾が発車され、点々と尾を引いて曳光弾
がスーッと機影に消えた瞬間、ぐらりと複葉機の戦闘機が揺れたが、そのまま
同じ高度で直進して飛んで行った。

モレーノが、『危ない所だった・・』とペドロと顔を見合わせて居たが、モレー
ノは弾倉を2本も撃ち尽して、ペドロの弾倉も空になっていた。
飛行機の爆音が遠くになった時、微かに見える機影が沖合いの海に水しぶ
きを上げて激突するのが見えた。
モレーノは『弾が操縦士に当った可能性が高い・・』とつぶやいていた。

高速艇の操舵室に居た男が貨物船が見えてきたと怒鳴った。
すぐさま発火信号が送られた、弾き返す様に点滅する信号が帰って来た。
それは短く『準備完了』と言う返事であった。
急に船はスピードを上げ、貨物船に突進して行った。

サンパウロのサムには、『発進せよ・・』と通信が送られ、それも瞬時に
『了解ー!』と言う返信が戻って来た。
貨物船がスピードを落として高速艇と平行して航行始めた、縄梯子が2本海面
近くまで落とされ、救命胴衣を着けたユダヤ人達が不安そうに下を見ていた。

モレーノとペドロが猿の様に縄梯子を駆け上がり、まず子供二人を抱えると
インジオ達が使う背負いと同じ要領で布で背中に子供を背負った。

波で上下するリズムを見て、それぞれ子供を背中に縄梯子をスーッと降りて
きた。高速艇にカバンが4個ばかり投げ下ろされ、貨物船から大人が3名が
皆が見守る中、降りて来た。

女性は途中で身がすくんで動きが止り、富蔵が縄梯子を駆け上がるとグイ
と腕で女性の胴を抱え、引きずる様に降ろして来た。

下では若い衆達が手を伸ばしてその女性を受けていた。ユダヤ人達を船内
に抱える様に連れ込むと同時に縄梯子は引き揚げられ、高速艇は轟音を上
げて貨物船から離れて疾走始めた。

ユダヤ人達が祈りの動作で感謝の意を皆に表していた。子供達は硬直した
表情で母親に抱き付いていた。
すぐさま救命胴衣の下に大人だけ防弾チョッキをつけ、これから何が起こる
か分らない用心とした。
船はサムの水上飛行艇との合流場所に向けて岸近くに疾走していた。

朝もやが切れ、突然に警備艇が現れると停船を発火信号で命令して来た。
船首には小型の砲が備えられ、それはキャンバスで覆われていたが、機関
砲も甲板に見えていた。

甲板には制服の水兵の姿も見え、小型警備艇は機関砲をゆっくりと旋回して、
高速艇に向けて来た。
狭い船内では緊張が走り、ラジオ通信で情報提供者の本部に緊急連絡を入
れて問い合わせしていたが、直ぐに、サントス港外に警備艇が出動する予定
は一切無いと知らせて来た。

モレーノがペドロに『狙撃ライフルで機関砲の射手を狙え・・』と言うと、大
袈裟な身振りで笑いながら甲板に出て手を振り出した。
警備艇がゆっくりと近ずいて来た。

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