2013年3月19日火曜日

第3話、伝説の黄金物語、(63)


二人の抹殺計画、

スミス商会の保安と情報担当幹部が話してくれた事は、富蔵には少し
ショックな話しであった。
『ブラジルの資源をドイツ移送に、その要員確保と訓練と実行に、日本
 の家族、親類縁者を人質に強制するという話であった』

すでに二人に死刑宣告と同じ、抹殺の計画実行が立てられていたが、
この計画は危険で、ブラジル在住の日本人移住者に対して、ドイツへ
忠誠させて、戦争協力させる計画であったからだ。

それは同盟関係の日本人を使い、多くの農業従事者がいる日本人を
使い、絹の落下傘素材、生ゴム、製薬原料、等の生産と集荷をさせる
考えであったようだ。
特に富蔵が狙われたのは、金やダイヤモンドなどの重要な採掘と集荷、
運送に関係しているからだと言われた。

もはや戦争は壮大なエネルギー消費と、資源の食い潰し競争の様で
あった。
それが滞ったり、停止したり、枯渇したら即、戦争は負けるという運命
を背負っているので、手段を選ばず、かつ迅速に実行する事を考えて
計画していたと考えられた。

ダイアモンド商会の社長が戦局の分析をして皆に解説してくれたが、
世界に情報網とビジネス人脈の幅と深さは、この世界でもトップに並
ぶ人物と言うだけの知識を持っていた。

『いかに現在のドイツが強力だとしても、工業力、資源、その補給と
いう現実的な面からしたら先が見えている』と話した。そして・・、

『また機械化した師団を先頭に世界最優秀と言われた軍事力も、19
世紀にフランスのナポレオンもモスクワを目の前にして破滅的な敗北
をして敗退して、ドイツ帝国自体も第一次大戦で、ロシア戦線で苦戦
と苦渋の敗退をしているのを教訓としていないと付け加えた。』

『ドイツ軍は広大なロシア戦線と貧弱な補給路、厳冬ロシアの冬将軍
とも戦わなければならない消耗戦には耐えられない・・』と言葉を結ん
だ。皆はシーンとして社長の言葉を聞いていた。

もはや時間的な有余はなかった。
芽を摘む様に、動き出した計画の中心的な人物を二人抹殺する事
は、敵として相対する国同士の争いでもあった。

富蔵は少し悩んだ、永年通っている道場の師範が相手で、その抹殺
する候補だから、なおさらであったが、富蔵は決心した。
すでに富蔵は組織の中で働き、生活して、組織から守られ、庇護さ
れて居る事を考えれば、決心は早かった。

自分はブラジルで家族と仲間と親戚を持って生きているので、後に
は引けないと覚悟していた。
夜遅くなりダイアモンド商会の社長と幹部がテーブルに座り、富蔵
達と向き合っていた。議題は抹殺する二人のこれからの運命であ
った。

ダイアモンド商会の社長が低い声で話し始めた。
明日、駐在武官が道場で練習した後に、師範のアパートの近くで、
二人が食事をする事が決まっているから、そこを襲うと言う事を皆
に説明した。

今回は武器で襲うより、事故に見せかけて大型トラックを使い、坂
道を登ってくる武官の車を狙い、見晴らしの良いレストランに着く前
の一瞬の隙を突いて、坂道の曲がりのカーブで車の横っ腹に衝突
させ、押し潰すという計画であった。

それはいつものように武官の車に同乗した師範を襲う一番の良い
チャンスだからと感じた。衝突させるトラック運転手はプロのスミス
商会から派遣される男を使う事が決まっていた。

今回の計画は相手が外交官の旅券を持つ大使館員であるから、
狙撃などと言う世間が目を見開いて注目する計画では、余りにも
目立ちすぎる事が心配され、今回は世間で毎日の様に起きている
交通事故に見せかけて、新聞見出しの3行程度の文字で消え
て行く様に計画されていた。

それを話し終えると、社長は欧州で拡大する戦火の様子を説明し
てくれた。それから重要な事だが、ドイツがユダヤ人排斥を始めて、
多くのユダヤ人がドイツ国外に逃げ出しているが、まず有能な人
材を優先して逃がすルートをスミス商会と協力して確保して、それ
を維持する事を考えていた。

その人材の能力により最終的にアメリカや、ブラジル、カナダ、
アルゼンチンなどに潜り込ませる事を計画していた。
すでにフランスから、リオやサントス港経由のブエノス行き、南米
航路の船に乗船させる手筈が組まれていたが、これも人脈と連帯
するビジネスの仲間達が利害関係で一致していた。

ダイアモンド商会のフランス事務所の信頼できる配下が、逃亡
ルートの組織的な手筈を組んでいた。
時期が来たのであった。世界情勢は緊迫して、サイコロは投げ
られ・・、運命の行く手が目の前にはっきりと現れて来た感じがし
て来た。

明日はその運命でも、僅かながらドイツの、これから先の運命を
狂わせる歯車を2本折る事を実行する日であった。
12時の真夜中を過ぎて、すでにその実行が今夜と言う時間に
なっていた。

富蔵達が帰宅する前に社長が『今夜の決行時間まで休んで、今
日の現場を見届けて貰いたい』と言って、大型トラックが、万が一
にでも失敗したら、坂の曲がり角で徐行するカーブで二人を狙撃
する様に頼んで来た。

決行まであと数えるほどの時間しかなかったが、富蔵の心は
平常心であった。

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