2013年3月2日土曜日

第3話、伝説の黄金物語、(58)

リオ刺客の最後・・、

信号拳銃弾が打ち上げられ、赤い星が瞬くように風で流れるのが見え
ていた。 富蔵がハンドルを握り、道路端に車を移動して、全て身支度
してリオの刺客の車を待っていた。
轟音を伴い、大型トラックが通り過ぎていったその後ろに、ぴったりと後
にへばりつく様に車が走っていた。
 若い男が一人、こちらをチラリと見て通り過ぎた。

富蔵は瞬間、この車だと直感で感じていた。中々巧みな運転だと感じ
たが、これでは襲う事もかなり難しい事が分かった。
相手の車を停車させる事も、横から銃撃を加える事も、真ん前にトラッ
クが居るので無理と感じた。

トラックの後ろからはモレーノの車も、情報提供者の車も追っては来な
かった。今のように携帯電話や、トランシーバーなども無い時世では情
報は何も分からなかった。

トラックの後ろにぴったりと付けて走っている車を追尾しながら時々、後
ろを見ていた。運転する男が富蔵達の車に気が付いて、窓から何か投
げたと瞬間感じた時に、富蔵は無意識でハンドルを大きく切り、舗装道
路から少し道脇の緑地の草原を走った。

バックミラーを見ると、後ろから来ていた車がハンドルがぶれたのか、
路肩に移動して停車している。瞬間、富蔵はパンク用のスパイクを投げ
られたと直感で感じた。

危うい所であった。しばらく走り、また追い着いた。今度は用心ししてい
た。散弾を詰めた拳銃を左手に構えていた。30mばかり後ろから付い
ていたが、相手がまたパンク用のスパイクを投げると考えていたので、
拳銃の撃鉄を上げて相手の車の窓辺りを狙っていた。

その瞬間、腕が窓から出て投げようとする一瞬の隙を狙って、毒が仕込
まれた散弾で、腕を狙い1発だけ発射していた。

パーン!と言う小さな短い、風とトラックの轟音に流された音がしていた。

富蔵は軽くブレーキを踏み、車間距離が大きく開いた。サムがその瞬間
『危ないー!』と叫んだ、相手の手にシュマイザーのマシーン・ピストル
を握るのが見えたと言った。

直ぐに極端にスピードを落とし、かなりの車間距離を離して様子を見てい
た。すると突然、前を走行している刺客の車がグラリと揺れた。直ぐに
トラックの後ろから離れ、微かに蛇行を始めた。

サムが刺客の車と平行して走り、シュマイザーを横から撃ち込んで射殺
する事を提案した。 富蔵は瞬間、散弾が腕に命中して、その仕込まれ
た猛毒が身体に廻り始めたと感じた。

富蔵はサムに『散弾が相手の腕に命中したと思う・・、』と言うとかなり
離れた後ろに着けて走っていた。急に刺客の車が速度を落とすと、路肩
に突っ込んで停車した。

それを見届けると、富蔵もゆっくり間隔を離してその車の後ろに停車した。
周りはジャングルの残りの森林が道路近くまで茂り、遠くには農場らしき
切り開かれた様な場所も見えていた。

時々通過する車の音だけが響き、後は風の音だけが響いていた。 車両
の通行が途切れた時に、サムがシュマイザーで狙いを付け、富蔵はワ
ルサーPPKを構えると半分開いたドアから崩れ落ちそうな刺客を確認す
ると、半分座席から出た左側の胸を狙い慎重に撃った。

消音器が音を殺して、殆ど銃声は響かなかった。刺客の身体が微かに
動くと、運転席から草むらに転げ落ちた。首の動脈を触っても事切れて
いるのが分かった。

刺客は微かに口からアワを吹き、腕には小さな血液のシミが2ヶ所あった。
サムが直ぐに運転席の銃器などを後ろのトランクに投げ入れ、刺客もトラ
ンクに運び込むと富蔵にサンパウロに戻るように話して、これからモレーノ
達の安否を確認して来ると言った。

『気になることだから・・』、と直ぐにサムはそれだけ言うと、車に戻りユ
ーターンして20km地点に車を走らせて行った。
富蔵も刺客の車を運転するとサンパウロのガレージに一人で急いだ。

ガレージに到着して、軽くクラクションを鳴らすと、ガレージのシャッターが
上がった。 車のエンジンを止めると、情報提供者とその助手の黒人が
『事は上手く行った様だな・・、』と言うとトランクを開けて、黒人の助手が
刺客の遺体を直ぐにキャンバスに包むと運び出して行った。

情報提供者がダイアモンド商会の社長に電話を入れているのが分かった。
それは一言、『全部済みました・・』と簡単に言うと受話器を切った。
富蔵がトイレを済ませて戻ると、サムから20km地点でモレーノ達の車
を見つけたと電話が来ていた。やはり追跡始めた瞬間、スパイクを撒かれ
て二台ともパンクしてタイヤ修理をして居たと報告が来ていた。

誰も怪我する事無く、事故も無く、隠密に終了したので、タイヤパンクな
ど問題ならなかった。 富蔵がガレージに帰って来て、2時間ほどすると3
台の車が一緒に帰って来た。その日のランチ時間にダイアモンド商会の社
長から車が差し向けられて来た。

着いた所は、静かな住宅地の中にあるレストランであった。 そこにはスミ
ス商会の社長と幹部も何人か来ていた、皆が席に着くと、ワインが開けら
れ、グラスに注ぐと、社長の掛け声で乾杯がなされ、遅いランチを皆がゆ
っくりと食べていた。

今日の出来事が、まるで嘘の様に感じていた。 食事が終り、コーヒーと
コニャックが出され、葉巻やタバコを吸いながら、皆が話しの輪に入った。
ダイアモンド商会の社長が、欧州で不穏な流れが出て、緊張が高まって
いると話したが、これが続けば紛争が勃発するかもしれないと話した。

スミス商会の幹部も、今回の事件でドイツ勢力の殆どを壊滅させたので、
これらの組織再構築をして、人員を訓練して、新規ルートを開発して、
ブラジルに根を下ろすのは3年は十分に掛かると話した。

その時、電話が来ているとボーイが情報提供者を呼びに来た。彼は控え
室の電話を取ると、何か話していたが、リオの刺客への協力者2名が動
き出したと連絡が来た。

おそらく、サンパウロに到着する予定時間を過ぎても、刺客から連絡が
無いので彼等がシビレを切らして動いたと感じた。
刺客をリオ街道で追跡していた車も、リオ市内の事務所に戻り、その動き
出した二人の対応をしていた。

刺客の別の隠れ家を、協力者を尾行して発見したと連絡が来た。
そこの隠れ家には、何か隠されている物があるようだと報告が来た。

皆が緊張してその電話の報告を聞いていた。

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