2013年2月28日木曜日

私の還暦過去帳(351)

  

  訪日雑感(7)

六本木ヒルズを出て渋谷までタクシーに同乗させてもらい、ガード下で降り
ました。
今夜の会合主催者の好意に感謝して歩き出しました。
昔の面影など何も微塵も残っては居ない周りです、何か漂う匂いさえ変化
していると感じました。それはハンバーグの臭いと思いました。

昔は夜の10時過ぎにガード下など歩くと、焼き鳥屋の臭いと、焼き芋屋の
リヤカーが必ず有りました。屋台のおでん屋が赤提灯をぶら下げて、酒と
大書きした字が夜風に揺れていました、道路は今では若者達の通路と化
して、私のような歳の人間は僅かな人が歩いているだけです。

頭上の巨大なスクリーン広告が色鮮やかに点滅して、交差点一杯に広が
って歩く歩行者達の群れを、色鮮やかに染めていました。

きょろきょろした観光客の外人さんが、カメラを構えてその人の流れを写し
ていました。
一人は広い道の中の安全地帯に立ってビデオを構えて写しまくっている
ようでした。

車の騒音と頭上の雑音に近いラップ・ミユージックの重なりが、不協和音
として、これまた渋谷の新しい擬音としての、ダンスミユージック・リズムと
感じました。

若い白人の女の子と黒人の同じ年齢ぐらいの二人が、腰を振り、腕を絡ま
せて歩道で調子をとって遊んでいる姿を見ると、サンフランシスコのユニオ
ン・スクエアなどの繁華街の中心地が田舎に見えると思いました。

ホテルに戻る道すがら、ネオンと色鮮やかな看板に惑わされて、フラフラと
歩き回っていました。そこには私が知らない夜の11時の姿が夜光虫の様
に光りきらめくネオンの瞬きと、まぶしさに惹かれた昆虫の様に、私は歩い
ていました。

路地の奥から、ビートの効いたリズムが響き、パンプスタイルの若いカップ
ルが歩きながらキスを交わして出て来ました。

足取りはそのジャズのビートに乗った感じで、若い女がホットパンツの小さ
な尻を振って、長いブーツの足でステップを踏んでいました。その様な光景
を外人さんの若者が目を輝かしてカメラで写そうとしていましたが、その若
い女の『なにやっているのよー!』との罵声で外人さんが慌てて、追い払わ
れていました。

客引きの声と、酔客の素っ頓狂の、わめき声が混じり、渋谷の12時の真夜
中が幕開けしようとしていました。
歩道は土曜日の狂騒の疲れからか、駅目指して歩く人達の流れも心なしか
眠たそうでした。
渋谷の新しいさを体感して、肌で感じ、この目で見定めて心に留めて、狂っ
た様に光り、点滅するネオンの色に、サイケ調に飾り立てた若者が側に居
るのも感じなくなりました。

細い通りの酒屋の前で、消火栓の上に焼酎酒瓶を立て、ビールで割って
飲んでいる得体の知れない外人達に、はて・・!、ここは何処かと、わが目
を疑いました。

歩き疲れて、24時間営業の牛丼屋の暖簾を押しました。

威勢の良い『いらっしゃいませー!』と言う声で、ここはまだ日本だと言う実
感と安心が沸いて来ました。
『お客さん、何を召しあがりますか?』と言う声で『牛丼の並一丁お願い・・!』
と言うだけで麦茶が出てきて、『味噌汁かトン汁は?』と言う声に、
『味噌汁でね・・!』と答えて、50年近く前の学生時代を思い出していました。

そして、時代は遠くなりにけり・・、と言う事をわが身で感じて、牛丼を食べ
ていました。
ホテルに帰ると、大浴場に直ぐに飛び込み、『ア・・!』と手足を伸ばしてジ
ェット噴射で軽くマッサージをしていました。湯上りのほてった身体で、静か
なホテルのロビーで、パソコンを開き、メールを見ていました。キーボードを
叩く音だけが響くのみです。

ポーン!と午前1時を知らせる音が今夜の終わりを告げる音でした。

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