2013年2月13日水曜日

第3話、伝説の黄金物語、(53)


 冷酷な報復、

電話が鳴り響き、モレーノがその受話器を取り上げ、その廻りに耳を澄ま
せた男達が取り囲んだ。

『人質を預かった、少し相談したい事がある・・、』と切り出してきた。
『明日、ナポリと言うイタリアン・レストランで昼過ぎ2時に待っている』と言
うと向こうから電話を切った。
場所はサンパウロの中心から外れた、イタリア人達が多く住む地域の下
町であった。

その時、誰かが車を飛ばして来るのが窓から見えた。
直ぐにダイヤモンド商会の顔見知りの従業員と言う事が分かった。

ダイヤモンド商会の社長に、人質にされた秘書のアミーの件で、尽力を電
話で頼んでいたので、何か情報を持って来たと感じていた。
やはりその通りであった。

貴重な情報であった。ダイヤモンド商会では『情報は金なり・・』と言う信条
で、各地に情報網を構築して、ビジネスに役立てて居たが、そこからの情
報でドイツ系の組織がサントス海岸近くで、港の倉庫に根城を作り、サント
ス港に入港するドイツ系の貨物船などで人員や物質など、ブラジルの活動
に必要な物と人材を行き来させていると、言う事が判明した。

場所や住所は一枚の用紙に全部書き出してあり、その倉庫の略図と、彼
等が使用する車の種類とライセンスナンバーも書いてあった。

サムが早速お礼の電話を社長に入れていたが、サントス港近くの情報提
供者の極秘の電話番号も社長が教えてくれた。

皆がホッとして、簡単なサンドイッチの夕食を食べると、今夜の内に行動
開始を皆が了承した。
先ずリオ・ベールデから持ち込まれた銃器を出して整理していた。

モレーノが早速今夜にでも偵察に行くので、用心に消音拳銃を組み立て
用意していた。防弾ベストも4個あるので、胸当て防弾のチヨッキも彼が
試着していた。

相手は訓練され、経験のある集団で、少しのミスも命とりになる可能性が
あった。ペドロがモレーノの助手として今回はペアを組む事になった。

ペドロの小柄な身体に抜群の運動性と機敏な動作を秘めて、モレーノと
彼等の隠れ家の図面を見ながら偵察の計画を練っていた。

モレーノはペドロを事務所から離れた倉庫の陰に連れて行くと、消音拳
銃の射撃を教えていた。弾倉を4個ばかり撃ち尽くすと、軽々と20mばか
り離れた標的の中央を打ち抜いていたが、消音され、押し殺した音は遠
くには響かなかった。

アマンダの兄弟の一人がトンプソン・マシンガンを持ち、他は散弾銃に鹿
弾を入れて用意していた。各自が護身用の手馴れた拳銃を持ち、富蔵は
スコープの付いた狙撃ライフルを持っていた。
サムが自動車を用意してガソリンを補給していた。 それが済むとロープ
や簡易折りたたみのハシゴなどもトランクに入れていた。
緊急薬品などのバックも積み込まれていた。

目立たない普段着で二台の車に皆が分散して乗り込むと闇にまぎれて
出発した。
サンパウロからサントス街道をひた走りに突っ走り、サントス港の近くの
倉庫群の近くまで来た。
場末のカフェー屋に車を停めると、モレーノとペドロが二人で目的の周り
を偵察に車で廻って来た。
前もってダイヤモンド商会の社長から紹介された情報提供者がひっそり
とカフェーのテーブルに座り、皆を待っていた。

サントス街道の下り坂を下りて、港に入る前の町外れの場末であったが、
港の汽笛や遠くで船舶エンジンの音の響きも聞こえていた。

モレーノが戻ってくると倉庫の中はまだ電灯が燈っている事が窓のカー
テンの隙間から見えると話していた。
場末のカフェーで、コーヒーとコニャックを注文して、さりげなく皆が話して
いた。

モレーノが金網のフエンスの中に犬が居るのを見付けて来た。大型のシ
エパード犬の様だと言った。
モレーノが『先ず犬を処分しなければ何も出来ない・・』と言った。

情報提供者は名前は明かさなかったが、犬は1匹だけで周りにも番犬は
居ないと教えてくれた。
倉庫の裏から50mばかり歩くと、港に繋がる水路があると教えてくれ、
そこには荷揚げの岸壁も作られて、停泊する船まで連絡船が出せるよう
になっていた。

行動にその男から助言を貰い、倉庫の図面を見ながらもう一度詳しく説
明を受けた。

直ぐに行動が起こされ、富蔵がハンドルを握り、モレーノが助手席に、
ペドロが後部座席に座り窓を開け、金網のフェンスの横を通過した。
確かに内側に犬が寝そべっているのが見えた。

もう一度ゆっくり通り過ぎようとしたら、大型トラックが3台ゆっくりと荷物を
満載してこちらに来るのが見えた。エンジンを響かせながら並んだトラッ
クを横目に、モレーノとペドロが窓から消音拳銃を構えて犬を狙っていた。

トラックが轟音を響かせて横を通過するのと同時に、鈍い音がエンジン
の轟音と紛れて響いた。
犬は即死したのかピクリともしないでフェンスの内側で横たわっていた。
まるで寝ている様な感じであった。

素早くペドロが簡易ハシゴを組み立てると物陰から軽々と塀の中に飛び
込んだ。先ず犬の死骸を引きずって薮の中に隠していた。ゲートの鍵を
裏から開けると手招きをして合図をして来た。
離れた所に車を停めた富蔵達は銃器を手に倉庫の敷地内に入った。

サムが車の中で倉庫の外を見張りをしていた。危険な時の合図は懐中
電灯の点滅か、猫の鳴き声としていた。サムが猫の得意な鳴き声で真似
すれば、猫が寄って来ると言うくらいであった。
アマンダの兄弟はそれぞれの武器を構えて倉庫の角と一人は裏に廻っ
て待ち構えた。

防弾チョッキを付けたモレーノとペドロがお互いに助け合う様に暗闇に
紛れて倉庫の入り口に近寄った。ドアの前まで来た時にドイツ語の声が
すると同時にドアが開いた。

二人の男達がドアから出て来た。壁に張り付くように構えていたモレーノ
とペドロの消音拳銃が微かに音を響かせて二人の男を、一人は心臓を
他はこめかみを撃ち抜かれていた。
声も出さずに即死していた。
血が流れ出さない内に、直ぐに物陰に死体を引きずり込んでいた。

倉庫内の事務所から、微かに光が漏れ、中に誰かが居る気配がして
いた。モレーノは用心に弾倉に弾を補充すると、猫の様に事務所に近
寄った。カーテンの隙間から見えた物は一瞬声を失くす光景であった。

富蔵もモレーノの手招きで近寄り、中を見ると血が逆流するほどの怒り
を覚えた。カーテンの僅かな隙間から見えたのは、全裸にされたアミー
が鉄の枠だけの寝台に縛られて拷問されていた。
中には三人の男達がその電気ショックの拷問の様子を見ながら酒を飲
んでいた。

富蔵はムラムラと怒りと憎悪の感情が湧いて来た。リカが誘拐されて
いたら同じ事をされて、彼等は情報を無理に聞き出して居たかも知れ
ないと感じていた。

アミーは失神しているのか身動き一つしなかった。
下のコンクリートが小水で濡れているのが分かり、電気ショックを何度
か与えられて居ると感じた。
声を出さずに手で合図してモレーノとペドロ、富蔵が倒す三名の相手
を決めた。

もう一度拳銃を調べて毒を仕込んだ散弾を確認した。スコープの付い
たライフルは壁に立てかけ、永年手馴れた拳銃を手にすると、胸の防
弾チョッキを絞めなおして、深く深呼吸した。
モレーノが2丁の拳銃を構え、ペドロが両手で腰に拳銃を差している
男を狙撃するように構えた。
富蔵がドアを勢いよく開け放した。

瞬時に数発の銃声が一発の銃声のように響いた。

0 件のコメント:

コメントを投稿

登録 コメントの投稿 [Atom]

<< ホーム