2013年2月8日金曜日

第3話、伝説の黄金物語、(51)


ブラジル政局の変化、

翌日は予定どうりに10時に、未亡人宅で弁護士を挟んで書類が作成さ
れた。不動産の名義にはリカとその娘、マリーが併記されていたが、雪
子は異存なかった。

サンパウロを離れて、小さな地方都市の金持ちの邸宅と言っても、たか
が知れた価格であった。当時のサンパウロやリオなどの大都市からしたら、
比べる事も出来ない安い値段であった。
不動産購入の契約書は簡単に済んでしまった。

購入価格の半分が前金として支払われ、残り半分の小切手は弁護士に
委託され、未亡人が亡くなった時点で、相続人に渡されることに事が決ま
り、邸宅管理なども全て富蔵の負担となったが、たかが知れた金額であっ
た。

未亡人は以前と同じ様にリカの親子と住む事になり、リカも仕事の不在な
どで家を留守にする時は、好都合であった。

サンパウロに戻ってから、富蔵は普通の生活に戻り、新しく加わった仕事
を忙しくこなしていた。
政府郵便公袋は連邦政府機関の書類も含まれていた。

飛行機の定期便が到着すると、そのまま運送トラックに積み込まれるか、
時間がある時は金庫に収納されていた。連邦警察の警備が付いた運送ト
ラックが通って来ていた。

サンパウロ郊外から市内の集配所までは、その頃は舗装道路も完備して
一時間も掛かる事はなかった。
富蔵は基幹ルートの、すでに航空会社の定期便が飛んでいる路線は、と
ても参入する事は出来なかったが、田舎の辺境からの便は、まだまだ安
心だと感じていた。

サンパウロの仕事も雪子との家庭を守りながら、時々訪れるリオ・ベール
デにも雪子は何も言わず、『無理な日帰りをしないで、泊まってきなさ
い・・』と気を利かしてくれて、リカがサンパウロに仕事に来ても自宅に泊
まらせていた。
リカはその時、娘を連れて来てマリーを雪子に頼んで、安心して仕事をこ
なしていた。

リカは決して雪子の家庭に深入りする事無く、年下の雪子をたて、かばい
慎ましく振舞っていた。仲良く台所に立ち、リカは日本食の調理を習い、
リカの言葉を借りるとすれば、『幸せを少しばかり雪子からお裾分けして
もらう・・』という間柄の様であった。
その様なリカの態度と、雪子の心大きな態度が旨く機能してかみ合い、
平穏な生活が出来たと富蔵は感じていた。

当時のブラジル経済と世相はヨーロッパの黒雲が広がり始めた影響で、
動きが出始めていた。
1920年代から台頭して来たアメリカの産業に裏打ちされた経済資本は、
イギリス資本を押しやり、ブラジルにも大きな力を広げて来た。

サムはアメリカで育ち、教育を受け、軍隊に入隊して第一次大戦では参戦
して士官まで成ってブラジルに来た男であるから、祖国アメリカの様子は手
に取るように知っていた。
サンパウロで発効される英語新聞も毎日、目を通しているので、用事で皆
がオフイスなどに集まり、話の後にサムが世界状況を説明してくれていた。

欧州のきな臭いドイツやロシア、イギリス、フランスなどと、ポーランド辺り
まで巻き込んで戦雲が広がって来ていた。
当然の事ながら戦略物資の備蓄、買い付けなども限られた資源を各国が
手を伸ばしていた。

その中の先手として、投資家達と巨大な企業が絡んで南米やアフリカの資
源獲得に動き出していたが、 ブラジルは鉱物資源、農業資源は豊富で、
非鉄金属などは重要なシエアを占めていた。
アメリカとイギリス、それに対してドイツ、イタリア、裏にはロシアが画策し
ていた。

この動きはブラジル内で資源と希少金属、エネルギーに関連して活動する
者には直ぐに肌で感じる事ができた。
ブラジルは今では石油資源を自給できる生産をしているが、戦前は輸入に
頼っていた。

富蔵達のグループはサムがユダヤ系なので、それと大きな取引をしている
スミス商会がユダヤ資本で関係して、富蔵達の後押ししている企業はユダ
ヤ系資本と言う事であった。
これは自然で今までの経緯から無理も無いことであった。

ダイアモンド商会も英国資本の企業であったが、そちらは農産物からエネル
ギー関係まで、手を出してもっと幅広くビジネスを開いていた。戦略物質の
ゴムなども貴重な存在となっていた。
ある日、リカがサンパウロに出てきた時に話をした事が気になった。

それは、『このブラジル、アルゼンチン、ウルグワイなどに関連する貴金
属の取引に裏で割り込む勢力が居るとは話していた。』 その闇で動く勢
力は限られた発掘しかない、貴重な工作機械に使う工業用ダイアモンドを
欲しがっていると話していた。

すでにアフリカで産出する工業用ダイアモンドの殆どは南アフリカに根を生や
す、オランダやベルギーなどの勢力と大英帝国時代からの土着の英国人達
がコントロールしていた。

ブラジルでは、まだ割り込む余裕があると感じられていた様だ、その事が
危険な争奪戦を巻き起こしていた。
国をバックに諜報戦と陰謀と、時には暴力を使い、対抗する者を抹殺、密
かに暗殺までして、それを手に入れようとしていた。

スミス商会の会社幹部からも注意するようにサムを通じて話が来ていた。
すでに陰の戦いは始まっていた。

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