2013年1月26日土曜日

第3話、伝説の黄金物語、(47)


 モレーノの墜落事故、

富蔵は絵美が長男と事故で亡くなってからは用事があるとき以外はサンパ
ウロの自宅とサムの飛行場にあるそこの統括事務所に通う以外は家庭生
活を守っていた。
やはり交通事故の痛ましい、悲しい出来事から急には回復できなかったか
らである。
リオ・ベールデ近くの砂金採掘現場に近い町に置いて来たリカは、金持ち
婦人の家に住みながら富蔵達が計画して設計して居た新しいホテルの事業
に参加して、富蔵の代わりに手腕を発揮していた。

誰でもが富蔵の情婦で彼女と言う事で一目置いていたが、頭の回転が速く、
そして切れる物の考え方が、これまでの世界で培った事と感じられた。
しかし、場末の酒場にたむろする娼婦などの雰囲気がまったく無かったリカ
は、今でもその美貌と才覚で男達を魅了していた。

富蔵の囲い者として町の一番上流階級が住む家から事務所に下男同然の
ペドロに仕えられて出て来る様子は気品と優雅さもあった。
そして、事務所では彼女が居ると言うだけで華やいていた。

町にホテル新設の交渉も彼女が行くと対応する小役人達が鼻の下を長くし
て、まるで浮かれた様に熱心に聞いてくれ、書類などはメクラ判かと思うく
らい簡単に許可が出ていた。
その当時は彼女の指にはダイアモンドの指輪が結婚指輪と同じ指に輝いて
いたので、それを見て男達がため息をついていた。

絵美と長男が交通事故で急死した時はその後かなりリカとの噂が出たが、
長くサンパウロの自宅に家族同然で住んでいた雪子と結婚したので、直ぐ
に噂も消えてしまった。

しばらくは平穏な日々を過ごして心の痛みを忘れていたが、毎日のように
通うサムの飛行場で飛行機の操縦も練習していた。
元々の運動神経と感の良さで直ぐに操縦ライセンスを取っていた。

日帰りの飛行ではモレーノの助手で飛行してサンパウロにその日に帰って
来ていた。モレーノも富蔵と飛ぶのは嬉しいらしくて、いつも誘ってくれて
いたので、飛行技量はメキメキと上達していた。

サムからは緊急脱出パラシュートの名前入りが贈られて、飛行服も身体に
合せて新調され、モレーノが事あるごとに呼び出して飛行していた。

そんな時にサンパウロからリオ・ベールデに帰る飛行中に、エンジン不調
でモレーノが不時着したと言う緊急連絡が事務所に打電されて来た。
帰着時刻を一時間過ぎても到着しないという事と、積載燃料が完全に空と
言う事が時間的に判明したからであった。

夕暮れまじかな時間でサムが直ぐに捜索機を出して飛行経路上を捜索し
ていた。40分程度経過した時点で、電信が来た、『機体が燃えている
様子が判明』と一報が受信された。

ジャングル地帯の森林の中で損傷機体からの炎が、チラチラと瞬く様子が
判明したようだった。
上空を旋回してモレーノが非常脱出したと思われる場所を丹念にサムが飛
んでいた。
暗くなりかけたジャングルの中からスルスルと信号弾が打ち上げられた様
子を確認したサムが喜びの電信を送って来た。
『無事の様子、信号弾確認する』と打電して来た。
富蔵はそれを見たとたんホッと、肩の重い荷が下りた感じであった。

サムはサバイバル用品を詰めたパラシュートを正確に信号弾打ち上げ地点
に投下して、帰途についたが、周りを探して着陸出来る場所を探していた。

3kmばかり離れた所にジャングルが切り開かれ、農場があるのが確認さ
れ、着地出来るスペースを探した。
その夜、暗くなってサンパウロの飛行場にサムの捜索機が戻って来た。

その夜は捜索準備に忙殺され、無事にモレーノを救助して連れ戻す事を考
えていた。リオ・ベールデと通信が交わされ全ての救助の手配が済んだ。

まだ空に星が瞬き、東の空が微かに明るくなった時点で、着陸距離が短く、
低圧タイアを装備した小型複葉機をサムが操縦して、富蔵も同乗して現場に
飛んでいた。

現場上空に到着した時は夜も開けて明るくなっていたが、先ず昨夜確認した
信号弾打ち上げ現場上空を旋回して、無事を目視して確認するようにモレー
ノを探していた。

発炎筒が焚かれ赤い煙がジャングルから立ち上がるのが確認され、微かに
木々の間に飛行服のモレーノが瞬間見えた。

通信筒に入れた文面には、西の方角に3kmばかりの地点に農場がある
という事を、略図を書いて入れていた。正確に10mは違わない場所に低
空で落とされた。

農場上空に到着して、平らな牧草地の中の農道にサムが着陸を試みた。
牧草地はまだ木の切り株が沢山残っていてとても着陸は出来ない状態であ
った。サムが絶妙なコントロールで農道に上手く着陸すると、凄いホコリが
舞い上がった。
それと同時に馬が3頭全力で疾走してくるのが分かった。
若い牧童の様な感じで、飛行機の横に来ると馬から飛び降りて操縦席に
駆け寄って来た。
彼等は夕方、飛行機が飛んでいた事も知っており、飛行機の墜落した様な
黒煙と音も聞いていたので、話は簡単であった。

捜索の協力を頼むと彼等は二つ返事で了承してくれた。
リオ・ベールデからも救援機が来るので、着陸出来る様に場所作りをして
もらった。
道端の潅木を何ヶ所か切り倒してくれたので、農道がもっと長く着陸に使え
る様になり、安全となった。
その頃には農場主が陣頭指揮で家族も加わり、使用人も参加して馬が用
意され、2班に分かれて捜索が開始された。

現地人の若者が先を争って馬で墜落現場に向かって行った。
サムを農場に残してリオ・ベールデから来る救援機の指図をしてもらった。

富蔵は借りた馬で若者に先導されてジャングルに捜索に分け入った。しば
らく行くと道がなくなり馬を下りて歩いて進んでいった。
30分ばかり歩いて、富蔵は腰の拳銃を抜くと空に向けて1発発射した。
パーン!と言う乾いた音がこだましていたが、直ぐに答えが帰って来た。

かなり近い所でパンパンと連続して発射音が聞こえた。
富蔵の『モレーノ・・!、何処に居るのか・・・?』と言う大声に。
『ここだー!』と言う答えが聞こえた。
ジャングルの中にパラシュートを担いだモレーノが見え隠れして歩いて来る
のが分かった。
富蔵は走り出してモレーノに飛びついた。お互いに肩をガッシリと抱き合い、
無事を喜んでいた。
興奮が収まり、農場に戻る道すがら、モレーノが『飛行機の燃料に何か
混ぜられていた』と話した。

富蔵は愕然としていた。

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