2013年1月8日火曜日

第3話、伝説の黄金物語、(42)


 生き残る為に・・、

サンパウロでの富蔵の生活は平穏なものであった。
サムの飛行場にある事務所で普段は仕事をしていたので、そこが事務関係
の総元として機能していた。

リオ・ベールデは実際の運送集配業務の根拠地として動いていたが、今で
は大きく各地に支店を開いて人員を配置して常駐させていたので、物資の動
きや高価な貴金属を、飛行機での運搬なども支店網を使い、上手く動いて機
能していた。

大きく暴利を得ると言う事などは無かったが、着実に毎月の利潤が入って来
て、会社の経営が大きく成ると言う事はあっても、経営が落ち込むと言う事は
絶対無かった。

富蔵が貸している、サンパウロ青果市場の近くの自宅の事務所と倉庫だけ
でも、かなりの収入となり、隣の日本食レストランも妻の絵美の指示で上手く
営業していた。
絵美の両親、上原夫妻の農場も長男がマリアと上手く運営して何も問題なか
った。

富蔵は上原夫妻の結婚40年の祝いに日本訪問をプレゼントしたが、大変
喜ばれて、沢山の土産も富蔵の家族達に託していた。富蔵の家族達にはか
なりの資金を、親と兄弟に分けて上原夫妻に持たせていたが、これは世界の
政局悪化で段々と日本に渡航が困難となる前の良き時期であった。

ブラジルの世の中も変化して、地道に稼ぐ富蔵達にとっても良い環境となり、
砂金探しの流れ者達が活躍出来る場所も少なくなっていた。

そんなある日、突然と言うほど、大量の砂金の運送が舞い込んで来た。
モレーノがサンパウロに出て来ると、富蔵に報告していたが、砂金が毎日2
キロから3キロも採掘出来る場所が発見されたと言う事であった。

場所が狭いが採掘量が多いので、大きなブームになって南米全体から山師
達が来ていると言う話であった。富蔵はリオ・ベールデに飛び、皆と話してそ
こに拠点を作り、資材や食料などを持ち込み、事務所と倉庫を建設して、そこ
で砂金の両替屋を開いた。

資金と大きな運送力と組織力は誰にも負けなかったので、直ぐに砂金堀達
から信用され、食料や資材も暴利を取る事無く、誰にでも公平な価格で販売
したので、輸送が間に合わないくらいの量が売れていた。

そんな時に、その様な場所に付き物の売春婦達が何処からとも無く集まっ
て来て、酒場が開かれ、ホテルが出来て賑やかになって来た。

富蔵がそこを訪れた時に事務所の若い者が富蔵に教えてくれた。
日本人らしき若い売春婦が居ると言う噂で、売れっ子で、とてもそこいらの若
い者など普通に手を出せる女ではなく、器量と言い、若い姿態は皆が振り返
って見るほどの黒髪の美人であった。

富蔵も興味があり、夜にそこのホテルを訪ねたが、成金となった男達がポケ
ットの札束を唸らせて集まっていた。社交場と化したホテルは酒場とレストラ
ンもあり、賭博でも人を集め、懐が豊かに成った男達が泊まり、女達が集まり
賑やかさを盛り上げていた。

その女の存在を教えてくれた若い衆を2名ほど連れて、ぶらりとホテルの前
に来た。
すると現地人の少年靴磨きが近寄り『靴を磨かせてくれ・・』と頼んで来たの
で、色々と話を知りたいので、ホテルの前のイスに座り、子供の前に足を差し
出して靴を磨かせていた。

子供はませた口先で、この辺りの様子を詳しく教えてくれた。
現地人の子供は、ここが辺ぴな村落だった頃からの住人で、何でも目にして
来た事を話してくれたので、何処に繋がりがあるか、人脈が何処から来てい
るか、誰がここを仕切っているか、全てを知る事が出来た。

歳は14歳と言っていたが、とても14歳とは思えない賢い少年であった。

靴磨きが終わり、金を渡して、テラスの横でテーブルに座り、夕食を注文して
先ずは食前酒のピンガを飲みながら若い衆と話していたが、少年が『腹が減
った、何かご馳走してくれない・・』と食べ物をねだって来た。
富蔵は気軽に靴磨きを招いてイスに座らせ、好きな物を注文させた。

富蔵は靴磨きの身の上話を聞いていたが、父親に死なれて母親の手で育
てられ、3人いる兄弟達を助けて母親の生活の助けに、靴磨きをしていると
話していた。

砂金の採掘ブームが起きる前の、それ以前の仕事は一日働いても幾らに
もならないコーヒー摘みとか、牛車を引いて駅までコーヒー豆の運送とか子
供でも過酷な労働であったようだ。

テーブルにステーキが並び、皆で食べ初めてしばらくすると、ホテルの中で
騒動が突然おきて銃声が響いた。それと同時に窓ガラスが割れ飛んで、富
蔵達のテーブルまでそのガラスが飛び散って来た。

罵声が響き、怒鳴りあう声がしてまた銃声が交差する様に何度か響いたが、
それが止むと同時に、うめき声と『助けてくれー!』と言う声がしていた。
二階からは何人かの女達が階段を駆け下りる姿が見えていた。

富蔵達はテーブルの下に隠れて窓を透かして中を覗きこんでいたが、拳銃
の弾を詰め替えていると感じた。富蔵は直ぐに建物の陰に入り、若い衆と様
子を伺っていたが、再度銃声が響き、熾烈な撃ち合いとなった。

銃声がまた途切れたが、その時ホテルの二階で女の悲鳴がして肩を怪我し
た男が、女を人質にして逃げようとしていた。その人質の女が噂の日系と言
われる女性と感じた。
若く、黒髪のほっそりとして彫りの深い顔立ちの女性で、恐怖におびえてい
るのが感じられた。

二階の踊り場で日系の女性は弾除けにされていた。富蔵は物陰から見て
いたが、男の出血が酷く、後わずかな時間しか動けないと感じた。
ホテルの階下では三名ばかりが拳銃を構えて二階の男を狙っていた。

階段の上はテーブルでバリケードされ、女性を抱えて拳銃を構えた男が血
まみれの姿で居たがその男が突然、ダイナマイトの導火線に火を点けると
階下に投げ付けた。
富蔵達が物陰に伏せると同時に下のレストランの中で爆発した。

全ての物が吹き飛び、何人かの人間も吹き飛ばされるのが見えた。
続けてもう一つダイナマイトが飛んで来て、酒場のカウンターの前で爆発し
たと同時に火が出た。
多くの酒ビンが破裂してアルコールが飛び散り、度の強い酒に火が付いた
様だ、メラメラと火が立ち上り、煙は二階に流れて行った。
二階で激しく咳き込む声がして、日系の女性が近くの窓際に来て助けを呼
んだ。

火の手が回り、もう二階には上がれないほど火の手が階段に来ていた。

火の回りが速く、女性は必死で救いを求めて居たが、誰も拳銃とダイナマ
イトに恐れて近くに行かなかった。富蔵は拳銃を手にした若い衆に、二階か
ら不意撃ちされないように掩護を頼んで飛び出すと、
『窓から飛び降りろー!』と叫んでいた。

その頃は火の手が女性の近くまで来て、赤い炎が呑み込む寸前まで来て
いた。

富蔵の『飛べー!飛び降りろ・・!』と言う声に励まされ、中腰に腰を折る
と恐れる様に富蔵の広げた腕に目掛けて3メートルほどゆっくりとジャンプ
した。

それと同時に受け止めた富蔵は日系の女性を抱いて後ろの薮に倒れて
いた。後ろの薮が幸いして軟着陸した女性には怪我一つ無かったが、女性
の服は男の血にまみれて、どす黒く汚れていた。

女性が飛び降りると同時に大きな音がしてアルコール類が爆発する音が
して瞬時に二階も火に包まれてしまったが、危うい所であった。

富蔵は自分のシャツを彼女の肩に掛けると、自分の泊まっている近くの家
に連れて来た。先ずは恐怖に震える彼女を落ち着かせるために、イスに
座らせて暖かいコーヒーにコニャックを垂らして与えた。

彼女がそれを飲んでいる間に、浴室のバスタブにお湯を張り、風呂の用意
をした。彼女の服も胸にも髪にも血が飛び散っていた。時間がかかって、
バスタブにお湯が溜まり彼女を呼ぼうと振り返ると、そこには素裸になった
彼女が立っていた。

血の付いた服は全て脱ぎ捨てられ何も隠す事無く自然なポーズで長い髪
を垂らして立っている彼女を見て、富蔵は心臓がぎゅー!とするショックを
感じた。彼女は富蔵が見ている前でバスタブに入り、ゆっくりと肩まで身体
を湯に沈めた。

富蔵は彼女のくびれた腰、突き出た乳房、福与かな尻などの彼女の肉体
を瞬時に心に焼き付けていた。富蔵が慌てて浴室から出ようとすると、
彼女が『待って・・!』と叫んで、『熱すぎるから少し水を出して下さい』と言
った。

そして『着替えも、下着も何も無いので何か貸してください』と付け加えた。
富蔵は頭に血が登るのを感じ、目の前がしびれる様な錯覚を起こし、自分
の体中の血液が沸騰すると思った。

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