2012年12月24日月曜日

第3話、伝説の黄金物語、(38)


 救助成功、

モレーノから電信が入り、『積乱雲が出て飛行経路の行く手を阻んでいる
ので、着陸して様子を見る間に給油をする』と連絡があった。

帰途の飛行コースの途中で降りて、給油しながら積乱雲をやり過ごしてい
るので帰りが夕方になると連絡して来たが、ポルトベーリョに、夕方には間
違いなく戻って来た。

英国人の女性は飛行場でモレーノの飛行機が着陸するのを待ち構えて、
飛び出して行ったが、モレーノが現場で目撃した遭難者の服の色を正確に
言うと、安心したのか、涙を流して喜んでいた。

確実に生きていることが証明された事で,明日は水上飛行機を飛ばして河
面に着水して連れ戻す事が決まった。行きは4名しか搭乗出来ない飛行
機で、遭難者を2名連れ戻すことを最優先としていた。

医者と富蔵が乗り、操縦はモレーノとリオ・ベールデから操縦して来た助
手が乗った。助手は墜落遭難者の救助も手助けする事が出来、ジャングル
生活の経験もある、タフな男であった。
寝る前には全ての飛行準備が整い、翌朝に備えた。

翌日早朝、まだ明け切らぬ朝の水面に轟音が響き、医者が搭乗すると同
時に、水面を滑走しだした。上空に飛び上がって、ゆっくりと持って来た朝
食を食べていたが、予定どうりに現場上空に到達して、一度上空を旋回し
て近くの河面に着水した。

現場上空では予定の信号弾が確認され、翼を振って答えていた。
モレーノは飛行機で待機して、助手と富蔵、医者の三人がジャングルに分
け入った。

簡易担架を担ぎ、山刀で下枝を切り開きながら30分程度で、お互いの声
がする所まで近ずいた。先ず歩ける英国人女性のご主人が手を振りなが
ら薮から出て来た。
お互いにしっかりと抱き合い、無事を喜んでいた。

負傷が酷い助手はテントに寝かされていた。早速医者の手当てが行われ、
足の骨折の手当をして、強打した胸部を診察していた。そこの肋骨も折れ
ているということで、応急手当を済ませると担架に乗せて、それを助手と富
蔵が担ぎ、医者が側について飛行機に戻って行った。

富蔵達は河の水に下半身浸かりながら水上飛行機に遭難者を乗せた。
狭い機内で、使用した担架は捨てられ、昨日投下された救助資材も岸に
放棄された。

河の水面から飛び立ち、上空に到達してモレーノが電信を送ったが、直ぐ
に感激の返電が来ていた。座席の後ろの貨物室に寝かされた遭難者の助
手はかすかに唸っていたが、英国人の女性のご主人は座席に座って、医
者の手当てを受けていた。

あちこちと切り傷や打撲があったが命には別状なかった。

その後、主人は持って来たサンドイッチなどを食べると、安心したのか深
く眠っていた。しばらく飛んで、一度着水して給油を受けると直ぐにまた飛び
立った。予定より少し遅れてポルトベーリョまで戻って来たが、着水して岸
辺まで滑走すると、すでに車が用意され、英国人の女性と関係者が並ん
でいた。

負傷者は直ぐに車に担ぎ込まれ、医者が付き添って病院に運ばれていっ
た。英国人の女性は、感激の再会を果たしたご主人を抱えるように車に乗
せるとモレーノに、感謝の言葉を何度も言うと病院に向かった。

その夜、仲間達と食事を済ませて、コーヒーのカップを手に、コニャックの
酒を注いだグラスを前に今日の救出作業の話をしていた。

英国人の女性が面会に来た。大きなカゴには溢れんばかりのワインやウ
イスキー、つまみのハムやサラミなどと、チーズも各種入って見事な飾りつ
けのギフト・カゴを持って来ていた。

女性は主人からと言うと、モレーノにカゴを手渡した。
重症の副操縦士の命は助かったと話していたが、主人も3日ばかりで退院
できると言ってその退院祝いをホテルで開くので是非とも招待したいと申し
出があった。

翌日、水上飛行機はリオ・ベールデにここからの荷物と、用事でサンパウロ
に出かける仲間を乗せると飛び立って帰っていった。
モレーノは招待を受けてその日まで、ポルトベーリョに滞在して近場の用事
で飛んでいた。
招待の当日、富蔵達はホテルに出かけて行った。町一番のホテルで退院祝
いの宴が用意されていた。先ず夫婦の滞在する部屋に通されると、正式に
自己紹介をして、丁重に救助のお礼を夫婦で言ってくれた。

5万ドルの小切手が手渡され、それと同時にモレーノが預かった「アフリカの
星」のダイヤのネックレスが彼女に返された。シャンパンが抜かれ、グラスを
交わして乾杯した。それが済んで広間に行くと、そこには南米各地から来た、
ロンドンのダイヤモンド商会の幹部が来ていた。

御曹司の掛け声で宴が開かれたが、富蔵達には良い顔見世となった。
富蔵達のダイヤモンド採掘は始まったばかりで、まだこれからと言う事で、色
々な情報は貴重なものであった。英語を話す富蔵はグラスを手にモレーノを
皆に紹介して廻った。
話が弾み、英語やポルトガル語、スペイン語も飛び交い、南米を舞台に貴重
な財宝を各種商う者達の世界を富蔵は見た様な気がした。
そして彼等の別世界も見たような気がした。

富蔵はその場で彼等の世界に飛び込む決心をした。

御曹司が入院した3日ばかりの間に、田舎のポルトベーリョに南米各地から
見舞いに来た幹部の姿を見せ付けられた事は大きな勉強となった。
敵対する相手の懐に飛び込んでビジネスの発展と活動の平穏さを富蔵は考
えた。そして今がチャンスと感じた。

資金力と企業の実力の差と、政治力を見せ付けられたからであった。

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