2012年12月20日木曜日

第3話、伝説の黄金物語、(37)

敵に塩を送る、

ポルトベーリョでの富蔵達のダイアモンド発掘作業は順調に進んでいた。

ジマイカ人達三名の抹殺後、何も邪魔が入る事無く鉱区の開発が進み、
原石の産出も採算が合う以上の、かなりの利益が出ていた。

初期の採掘としては成功であった。原石はスミス商会を通じて売りさば
かれていたが、行方不明になったジャマイカ人達三名は、英国人の会社
を通して捜索が行われポルトベーリョまで伸びて来た。

リオ・ベールデに居た富蔵達にも連絡が来ていた。
忽然と姿を消したジマイカ人達の消息が何処にも無い事と、ダイアモン
ド探索の記録が全て消えてしまった事が英国人達の焦りとなって探し回
っていた様だ。

ポルトベーリョでのホテルは、彼等が奥地に出かけていったという噂を
流していた。
その噂を真に受けて、捜索に来た英国人達が飛行機を使い、カヌーを使
ってアマゾン河の支流を探し回っていたが、何処にもその姿も、消息も掴
む事も出来なかった。

モレーノの操縦する飛行機で、富蔵がポルトベーリョを訪ねていた時で
あった。仲間と事務所で朝のコーヒーを飲んでいた時に、英国人の女性
が訪ねて来た。応接間に通して要件の話を聞いた。

それは、『捜索に出た飛行機が行方不明になり、昨日その情報がもたら
され、捜索に出た操縦士と助手の2名が生存して救助を待っている』とい
う事を掴んだので、誰か捜索と救助の飛行機を飛ばしてくれないか・・、と
言う事であった。

不時着して負傷して身動き出来ない事態で、緊急に医薬品と救助を必要
としていると言う事であった。英国人女性は手を合わせんばかりに頼んで
いた。

富蔵は英語が分かるので女性の話す言葉の意味が、真剣で誠実で、何
としてでも助けたいと言う心が伝わって来た。

富蔵がその女性に聞いたが、『貴方のご主人ですか?それとも・・!』と
言う言葉に、女性『私の主人です、そして会社の将来を担う経営者で
す・・』と答えた。

富蔵は瞬間、これは噂の英国人会社の貴族で、親族の一人として経営
に参加している社長の息子と感じた。使用人に命じて、その女性にコー
ヒーを出して、席を勧め、モレーノと地図を前にして、遭難行方不明地点
を探した。

女性ははアマゾン河上流のペルー国境に近い地点を指差して、『ここよ
り無線連絡が来て、そこより30km地点のジャングルに飛行機が墜落し
たようだ』と答えた。
女性は『どうしても救いたい、命を助けたい』と何度も懇願した。

『救助捜索の出来る飛行機は貴方達の飛行機しかない、この辺では誰
も経験が無い飛行士ばかりで頼りにもならない』と嘆いてハンカチで涙を
拭いていた。

気品のある英国女性が人前で涙を出しているという事は、切実に何か
があると肌で感じた。
富蔵がコーヒーカップを手に窓際でモレーノと救助の相談をしていた。
女性は二人の前に来ると、床にひざまずいて両手を合せて祈るように
懇願した。

ブラウスの前を開いてネックレスを外すと『これはアフリカの星と言う
名前があるダイヤです、主人が結婚祝いにお守りとしてプレゼントして
くれた物です、どんなに少な目に見ても5万ドルの価値があります、これ
を保証金として差し出しますので、今はその経費は払う事は出来ないが、
直ぐに捜索を開始して下さい』とダイヤを差し出して何度も懇願した。

モレーノが『5万ドルあれば新品の最新式の飛行機が買える・・』と言っ
て唸った。
富蔵がモレーノに『救助活動を開始するかー!』と言った。
モレーノは英国人の女性の手を取って、ひざまずいて居た女性を立た
せた。そして、『貴方の愛するご主人を今から助けに行きますから・・』と
伝えた。

使用人に命じて、飛行機に増油補助タンクを準備させ、医薬品リストを
見ながら電話をして、知り合いの医者に緊急薬品の助言を頼んでいた。

事務所の奥の電信室に行くと、自分で無線のキイを叩いてリオ・ベール
デから水上飛行機をこちらに廻す様に頼んでいた。直ぐに了解の返事
が来ていた。

英国人女性は富蔵とモレーノが飛行場に車で出発する時に、モレーノ
の首に『アフリカの星』のダイヤを掛け、『このダイヤモンドには、お守り
の力があります、貴方が無事に救助活動をして戻ってくる手助けをして
くれます』と言うと彼の頬にキスをするとモレーノ達を見送った。

飛行場ではすでに増油補助タンクが2個取り付けられ、医薬品や救助
用の信号用品など一式を入れたパラシュートが積み込まれた。
天気予報が調べられ、途中の通過地点にも飛行状態が無線で問い合
わされたが、途中の通過地点の天候は晴れて何も問題無いルートで
あった。

モレーノが飛行服にパラシュートを背負い、飲み物とサンドイッチを手
に飛行機に乗り込み、日が登り始めた空に飛び立って行った。用心に
マウザー自動拳銃と山刀が積み込まれていた。

長距離飛行の経験が十分なモレーノの操縦する飛行機は無線送信機
も積まれて、十分な装備を施していた。通過地点を通ると通過確認の
電信が来ていた。

富蔵は事務所で仲間と地図を前にモレーノの飛行を見守っていたが、
英国人の女性は、供の使用人と椅子に座って電信が来る度に新しい
情報を聞いていた。

昼過ぎ電信が飛び込んで来た。『目的地点到着、発煙の赤い煙と上
空地点では信号弾の打ち上げを確認した』という報告であった。

次の電信は、『地上でシャツを振る人間を確認、救助用品を詰めた
パラシュートを真近い現場に投下した』と言う報告であった。
当座の食料や緊急医薬品などが十分に詰められていた。

墜落機体も確認でき、現場は河岸に近い潅木の中と言う事であった。
リオ・ベールデからは夕方までに救助用の水上飛行機が到着すると
連絡が来たが、これで明日の早朝には救出に飛ぶ事が出来ると感じ
た。

しばらくして、『これから帰途に付くと言う事と、パラシュートの荷物を
引きずっている男を確認した』と言う連絡であった。

英国人の女性は胸の前で十字を切ると、祈りの言葉をつぶやいて
いた。

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