2012年12月3日月曜日

第3話、伝説の黄金物語、(33)


 スミス氏一族との契り、

富蔵はスミス氏に招待された夕食に妻の絵美は子供が居るので男三名で出
掛けて行った。
サムがモレーノを連れて車で迎えに来た。絵美と子供に見送られて車に乗り
込み、サンパウロでも一流の高級住宅街にある屋敷に向かった。

富蔵には関係ないスミス家の上流階層で、初めての経験であったが物怖じ
しない度胸があった。
船に乗船してコックの端くれで頑張っていた頃に覚えた洋食のマナーも知って
いたし、船長や事務長などの高級船員達の食事の給仕もして、飲み物から
全てのコースの扱いにも慣れていた。
脱船してアメリカで生活していた時代に覚えた英語とニユーヨーク時代のレス
トラン給仕で覚えた高級レストランでの金持ち達の扱いにも経験があったので、
これがどのくらい役に立ったかと富蔵も今になって考えていた。

スミス氏の邸宅に着いて、玄関の広間に並んだ召使達に案内されて通された
応接間では、すでに大勢の家族と親戚と知人達が集まっていた。
スミス氏の紹介で3人がどれだけの人と握手して紹介されたか、覚え切れな
い数字であった。

それが終ると両親が座るソファーの前に来ると、両親が立ち上がり、もう一度
丁重に救出の礼を言うと手にした鈴を鳴らすと訪問者を制して、

『ここに居る三名が我が息子の長男を怪我一つなく救出してくれた勇士であ
る、その救出計画と実行を企画した若い紳士が上原富蔵氏で その方を紹介
する』
と皆に言うと、中央の階段を数段上がると、富蔵を中央に両脇にサムとモレ
ーノを並べて、シャンパンのグラスを握らせて 自ら三名のグラスにチーンと音
を立てて合わすと、長男のスミス氏に合図して、スミス氏が『怪我一つ無く救
出してくれ、家族と親戚一同感謝致します』と言うと、『乾杯ー!』と叫んだ。

『乾杯』とドーッと、どよめいた声が上がり、華やかにグラスが鳴っていた。
主賓のテーブルに座らされ、宴が始まった。富蔵は豪華な食卓に驚きながら、
何度も乾杯のグラスを空けた。

モレーノが食事のマナーを横で聞くので、それを教えながら食べていた。
モレーノは富蔵がなれた手つきで、上流社会のマナーで食べている様に驚い
ていた。
そして、サムが話す英語会話での仲間の話に加わり、大勢の親戚など共に、
にこやかに英語で冗談を言って談笑していた。

食事が終わりコーヒーとケーキ、コニャックのグラスが配られ、最高級のハバ
ナ葉巻が箱ごと廻され、食後のひと時を和やかに過ごしていたが、富蔵達の
回りは挨拶に来る人が絶えなかった。

父親が『今日はビジネスの話しなどは持ち出さないでくれ・・』釘を差して居
たが、名刺を差し出して『後日私のオフイスで・・』とか、『ゴルフなど』と
誘う人物も居た。

ユダヤ系のサムが富蔵を信用して、兄弟のように親しくしている様を知って、
サムと英語でも話しが出来る富蔵に皆が注目して、使える、頭の切れる人物
と理解した様だ。

それと上流社会の豪華な宴にも、何も動じないマナーで食事をして、飲み物
もそれにあった物を注文できる姿は、若いながら貫禄があった。

富蔵の剣道と柔道などで永年鍛えられた身体と、体格も大柄で、誰からも好
かれ陽気な性格はスミス氏のファミリーに大いに気に入られた。

宴も終わりになり、来客が帰り始めて両親とスミス氏が書斎に3人を呼んで
くれた。ドアが閉められ、大きなテーブルにカバンが2個おいてあった。

父親がおもむろに『皆に約束した5万ドルです、無傷で生きて長男を家族に
連れ戻してくれた事は、金銭には代えられない感謝の気持ちです。どうぞ、
この金を今回の事件で救出に関わった人達と分けて下さい』と差し出して来
た。
『我々のビジネスにはこの様な事件を想定して、仲間で保険の代わりに積み
立ててある金があるのです。今回はまったく驚いたが、我が長男が誘拐され
人質にされるなど考えてもいなかったので、安全に無傷で救助された事は何
よりも嬉しい・・、前に2件も人質が殺されているので、その事がなおさらで
す・・』と言って2個のカバンを前に置いた。

富蔵はカバンを開けてなかを見たが、ドル紙幣で2万5千ドルずつ入ってい
た。富蔵は考えて片方のカバンを押し返して、この金額はブラジルのクルゼ
ーロ紙幣で良かったら貰えるか・・』と聞いた。

直ぐに『明日で宜しかったらオフイスでお渡し致します』と返事があった。
その話が終ると側の包みが開けられ、中から新品のモーゼル・ブルームハン
ドルの大型自動拳銃が出て来た。

『親戚が取引している商品ですが、今日のお土産に・・』と各自に一丁手渡
された。富蔵は前から欲しかった物で、ホルスターの木のケースから取り出し
て、その姿に惚れ惚れと見ていた。

モーゼルC96型の20連発が出来る型であった。木製ホルスターストック
を取り付けるとカービンライフルとして使える大型拳銃であった。
富蔵達3人は感謝して父親からお土産を各自貰うと、家族に今夜の宴に招
待してくれた礼を言って帰宅した。

ドル札で2万5千ドルが入ったカバンは、一番安全な富蔵の隠し金庫に入れ
られた。明日の午後に残りはブラジル通貨で貰う事になったので、モレーノと
市中の事務所に車で行く事が決まっていた。

モレーノが護衛でカバンを守ると言うこともあったので、それが安全な方法で
あった。 事務所に昼休みの後に訪ねた。直ぐに応接間に通されると、コーヒ
ーが接待され、直ぐにスミス氏と弟が出て来て、昨日の賑やかな宴のお礼を
言っていた。

父親が居るオフイスに通されると、イスを勧められ、『貴方達に私達が商う事
業の手助けをしてくれないだろうか?』と問いかけて来た。

『長男が誘拐されて気が付いたのだが、ブラジル各地での砂金や金の買い付
けを我々直接では無く、貴方達が現場で直接買い付けて、その貴金属をサン
パウロの事務所で引き渡すと、その金額の2%を手数料として直接渡す』とい
う話であった。

富蔵は何のためらいも無くそれを引き受けた。そして父親の手を握り『私達を
貴方の事業に加えて下さい』と即答した。

父親は大喜びで、『それはありがたい、これからの事業の危険が殆ど無くな
る』と話して、近所の高級ホテルのレストランに電話で席を作らせていた。

そこまで皆で歩いて行く事になり、直ぐ隣のビルまで行くのに、皆がエレベー
ターに乗り、降下ボタン押す瞬間、飛び乗って来た男二人が拳銃を突きつけて
『静かにしろー!』と脅した。

エレベーターの奥にスミス氏兄弟と秘書や父親が乗り、入り口にモレーノと富蔵
が居た。二人の男は拳銃で威嚇しながら金の入ったカバンはどこかと聞いた。

モレーノが『事務所にあるから・・』とオフイスの入り口をアゴで示した。
『レストランに行くので事務所の金庫に入れて来た』と言うと、用心深く見回し
て二人は『外に出ろ!』命令した来た。

するとオフイスのドアが開いて若い女性の事務員が書類を持って出て来ると、
その場を目撃して絶叫を上げて『ヒエー!』と金切り声を響かせた。

仰天した男二人の拳銃が少し横を向いた瞬間を富蔵は見逃さなかった。蹴りを
入れて、相手の腕を掴むと拳銃の銃口を賊の仲間の方に捻り切り、その男を
楯にしてエレベーターの前で発砲した。

同時に相手も撃ったがそれは仲間を撃ち傷を負わせる皮肉な事になった。
モレーノが抜き撃ちで側の男に連続で発砲して即死させていた。

富蔵が楯にしていた男を廊下に突き倒すと、深傷でもがく男にモレーノは止め
の1発を打ち込んだ。すばやく空薬きょうを抜いて弾を装填すると、エレべー
ターホールの周りを用心深く見て、皆を事務所に招き入れた。

銃声が鳴り響き、逃げ惑う人達も居たが、エレベーター前に賊が二人射殺さ
れて転がっていて後は静かな様子であった。
秘書が警察に電話をしていたが、奥のオフイスではスミス氏兄弟と父親が富
蔵とモレーノに守られて安堵の様子で冷たくなったコーヒーを飲んでいた。

ビルの警備員が駆け付け、事務所の前に散弾銃を構えて警備を始めた。
警察官が来ると警備員と警察に守られて車に乗り込み、事務所に連絡交渉の
秘書をおいて自宅に帰宅した。

富蔵達はスミス氏達を自宅に送り届けて車で事務所のビルに戻り、警察の事
情聴取を受けると直ぐに帰宅が許され、秘書の車で自宅まで戻ると、ホッと
安堵していた。

その夜、スミス氏の長男が花束とカゴに入れた何本かの高級なウイスキーや
コニャックを持って父親のお礼を言いに来ていた。
中のカードには『勇気ある若者と懇意になれたことは神の導きである』と記し
てあった。
この事で、これからどれだけの便宜が彼等から受ける事になるか、富蔵には
まだ気が付かなかった。

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