2012年11月24日土曜日

第3話、伝説の黄金物語、(31)

 人質奪還、

飛行機は途中1回給油すると早朝に到着した。

今回のスミス氏の救出作戦の基本は、賊をおびき出して殲滅する事を考え
ていた。
リオ・ベールデで、皆と話した事は彼等と接触地点の地域で、大きく飛行機
の曲芸飛行を上空で行い、隠れている場所から見物に出てきた所を待ち構
えて奇襲攻撃で、人質奪還を考えていた。

昨夜、遅くにカンポグランデの養蜂農家のホセに電話して聞いたら、養蜂の
箱をつい先日郊外のリオグランデ・ドスールの小さな村に馬車で移動して
100箱ぐらい蜂箱を据え付けたと話していたが、養蜂手伝いの若い男が4
名の男達に囲まれて両手を縛られた中年の男が馬で移動しているのを遠
目で目撃していたので、おおよその見当が出来ていた。

当時はその地域で珍しい白のパナマ帽子をかぶっていた事が決め手にな
っていた。

スミス氏の弟が富蔵にブラジルでは珍しい日本刀を土産に持って来ていた。
サンパウロの骨董品店で購入したと話していたが、誰か日本人移住者がブ
ラジルに先祖のサムライだった人の遺品を持ち込んで金に困って売り払った
と感じた。
錦の袋に入れられた日本刀は飾りではない、戦場刀と言う無骨で鋭利な刀
であった。

富蔵は剣道が好きで、居合い抜きも船に乗船したいた時期に事務長から習
っていたので、是非とも欲しいものだった。感謝してスミス氏の弟からプレゼ
ントとして受け取った。

飛行機がカンポグランデに到着して直ぐに、ラジオ放送局の記者をランチに
招待して曲芸飛行を体験させる事にした。明日、町の上空でサムとモレーノ
の操縦する2機で曲芸飛行をすると言う事を宣伝させるには最良の方法で
あった。

後2日しかない犯人達の接点を考えるとこれが最善の方法と感じていた。
また接触して人質解放交渉に失敗すれば人質の命は無いと考えていた。

サムがラジオ記者を、モレーノが新聞記者を搭乗させて、晴れ上がった上空
で見事な宙返りをして体験させた、当時は珍しい飛行機とその曲芸で搭乗し
た二人は夢中で興奮していた。
その後はラジオ放送が一日中、明日の2機の曲芸飛行を何度も放送してい
た。新聞も朝刊に昼に開催される2機の曲芸飛行の事を詳しく書いてあった。

その夕方、ホセの養蜂農家の倉庫に皆が集まり、養蜂手伝いが目撃した近
所を重点的に捜索して、彼等の居場所を特定する事に全力を挙げる事を決
めた。

暗くなる前に現場に近い蜂の巣箱が設置されている場所に到着して、そこ
のテントを基地にして偵察と現場の下調べをする事を決まった。

日没前に郊外のリオグランデ・ドスールの小さな村の上空を2機で通過して、
家から飛び出して来る住人と牧場の周辺の人の動きを見ると決めた。直ぐ
に行動が起こされ、サムの飛行機にはパブロが、モレーノの飛行機が富蔵
が同乗して下を見張ることにして、離陸した。

爆音高く低空で小さな村の上空を飛び回り、旋回した。
まさに予測したように、郊外のリオグランデ・ドスールの牧場の脇の林から
煙が上がり、二機で並んで爆音高らかにエンジンを吹かして通過する轟音
に誘われて、男達4名が林から出てきたが、富蔵は犬も1匹居るのを確認
した。

まさに彼等が強盗団と感じた。
彼等は夕食の支度でもしていたと感じたが、まさか飛行機で捜索されてい
るなど彼等は気が付いてはいないと感じた。
無用心にのんきに飛行機を眺めている様子は大きなチヤンスと感じた。
2機の飛行機は夕日を浴びながら着陸して来た。

皆がテーブルに集まり、最終の人質奪還計画を決定した。今夜皆が夕食
を終えたら銃器の点検準備を済ませると、馬車と乗馬で養蜂箱が置かれ
ている牧場のキャンプ小屋に集まり、そこから森の外れまで近寄り、曲芸
飛行で林の中から出てきた強盗団を狙撃し一度に全滅させる計画であっ
た。

林の中にはスミス氏が繋がれていると確信していたので、林の中には2
名ほどが忍び込み、確実に安全に救い出すと決めた。

テーブルに紙が広げられ、林の拠点を中心に牧場の草原の開放部分の
正面に3方から狙撃する様に3名の配置が決まった。それぞれのライフル
が用意され、各自10発ばかり練習で標的射撃をしていた。
それにはリオ・ベールデから来た4名から選ばれ、中の一人は富蔵と林
の中に忍び込みスミス氏を直接助け出す役目を担った。

パブロは皆の乗馬を飛行機の爆音などで驚いて逃げ出さないように確保
して、非常の用意をしている役割が決まった。蜂飼いのホセは今回も馬車
を使って皆の食料や飲料水を確保して、負傷者などが出たら直ぐに対応
出来る様にした。

蜂飼いの若い養蜂手伝いの男は道案内で活躍してもらうことにしたので、
拳銃を与えてモレーノが射撃を教えていた。ホセの犬も、モレーノの犬も
今回は活躍してもらうために養蜂キャンプ小屋に連れて行き、賊の犬を
相手に牽制する事が決まった。

翌日の曲芸飛行の為に燃料は3分の一しか積載しなかった。エンジンが
点検され、全ての用意が済んでから、もう一度は役割り分担を再確認す
るとホセの馬車に富蔵と養蜂手伝いが乗り出発した。
その後を、他の男達はパブロを中心に乗馬で養蜂キャンプに向かった。

今回も襲撃開始は信号ピストルを打ち上げる事が決まり、曲芸飛行を見
物に出てきた賊達を狙撃する最適な時間と場所を探さなければならなか
った。
信号ピストルはサムの飛行機と、地上の富蔵が所持していた。
どちらかがチャンスを逃さないように、最良の時に発射することが決めら
れていた。

養蜂業でこの地域の隅々まで知り尽くしたホセの手助けには皆が感謝し
ていた。飛行士のサムと、モレーノの見送りを受けて富蔵達は馬車で夕
暮れの道に消えていった。
今回はトンプソン・マシンガンは2丁用意され、富蔵は日本刀を背中に
背負って、山刀は持たなかった。

郊外の養蜂巣箱の現場にあるキャンプ小屋に到達して、牧場に面した
林の開口部分に、3名、各自が100mの間隔で狙撃拠点を真っ暗になる
までに決めてしまった。
夕方、賊が林の中から出て来た所を中心に、それを囲むようにライフル
で狙撃する最良の円を画いて囲んでいた。

一人がトンプソン・マシンガンを持って林と牧場の潅木の境にみを潜め
て、前から撃ち損じた時に林に逃げ戻らせないように狙って待機する事
になった。

富蔵は同じくトンプソンのマシンガンを手に林に突入する計画で居たが、
おそらく人質のスミス氏を見張っているのは一人と思っていた。

富蔵はその横で賊が全員飛行機の曲芸を見に出て来た所を見計らっ
て、信号ピストルで合図して、狙撃開始と同時に、養蜂助手の案内で林
の中に2匹の犬達と突入する用意を若い助手と綿密に何度も練習してい
た。
生きて助け出さないと、これまでの準備と計画が全て水の泡となると考
えていた。現場まで乗馬して来た馬も飛行機の爆音でパニックを起こし
て逃げられたら、いざと言う時の追跡や現場からの脱出、移動が困難と
なるのでパブロが注意深く見ていることにしていた。
全ての用意が済んで、用意してきた水と食事が配られ、各自が明日の
朝の攻撃開始までの時間を休息に充てていた。

富蔵はトンプソン・マシンガンを点検して、今回は1個の予備弾倉しか
携帯する事無く身軽にして、愛用の拳銃を腰に差し、それを用心に紐で
首にかけて、走ったり、転んだりして拳銃を失くさないようにしていた。
背中には日本刀を背負い、いざと言う時の接近戦の用意は済ませて
いた。
その夜遅くになり、スミス氏の弟が汽車で現地まで乗り込んで来た。
2機の飛行機には搭乗出来ないので、汽車で追いかけて来た様であ
った。
モレーノに連れられて夜も遅くなって養蜂キャンプ小屋に訪ねて来た
が、富蔵から詳しく明日の攻撃準備を聞いて、安心して納得していた。
そして兄の救出の手伝い参加を申し出ていた。

モレーノが飛行場に戻る時に、信号ピストルの発射はサムが上空から
見て判断するのが一番確かだから、遠慮なく最良のタイミングを逃さな
いようにしてくれと念を押していた。
スミス氏の弟はレミントンのポンプ式ショットガンとマウザーの大型ブ
ルームハンドルの拳銃を肩からぶら下げていた。

富蔵は林の開口部の両側の牧場と林の境に待ち伏せする事が、ミス
が無いと考えて左片側の林の陰に隠れてもらう事にした。

林の正面には3方面から三名で狙撃体制をして、その両側に一人ず
つ隠れている事は絶対に有利と考えていた。

その夜、養蜂手伝いの若者は養蜂家ホセのメス犬を目当てに来る、
犯人達の犬を簡単に干し肉で誘って捉まえて殺してしまった。
邪魔な犬が居なくなったので、林に忍び込んで奇襲する事がより安全
となった。

微かに夜明けの空が濃紺の色から輝きだす前に、皆武装して全員が
持ち場に着いた。
シーンと静まり返った林の中に人が居るのかと思うくらい静かであった。

0 件のコメント:

コメントを投稿

登録 コメントの投稿 [Atom]

<< ホーム