2012年11月16日金曜日

第3話、伝説の黄金物語、(29)

意外な落とし罠、

皆で町まで帰る道は遠かった、馬車と乗馬と徒歩で歩く者も居たからだ。
町に近い所まで来たら、制服を着た警官が四名が道を塞いでいた。

検問と考えたが、瞬間、様子がおかしいと感じた。
隣を馬で歩いていたモレーノを見たが、モレーノは微かに目配りをしてパブロ
の馬車の横に移動した。

馬車の後ろを歩いて来た5名の男の一人で、先ほど拳銃で頭を撃ち抜かれ
様としてモレーノに助けられた男が、モレーノに何か短く話した。
それと同時にライフルを持った警官の3名が、いきなり頭の上に発砲して来
た。馬が仰天して暴れ、歩いていた男達が道に伏せた。

富蔵は警官3名がライフルで他の指揮官らしき男が拳銃を構えているのを見
た。その男が拳銃で狙いをつけて馬から下りろと命令した。

富蔵はトンプソン・マシンガンは町に置いてきたので安心だったが、すばやく
馬を下りながら、小型のデリンジヤー拳銃を皮の帽子の中に隠した。
モレーノが近寄り小声で『奴らは強盗だー!』と言った。

屈強なリオ・ベールデから来た男4名はライフルで狙らわれて動けなかった、
銃を地面に投げろと命令された。ぐずぐずして銃を手放すのをためらっていた
4名に、一斉に三名の警官がライフルを威嚇射撃をした。

三名の警官達がライフルのボルトを引いて空薬きょうを出し、弾込めの瞬間
を富蔵は逃がさなかった。

富蔵は両手を挙げていたが、不意に帽子の中のデリンジャー拳銃を掴むと目
の前に居た指揮官らしき警官の顔面を撃った。同時に横の警官一人の胸を撃
ち抜いていた。2連発44口径の弾の威力は凄く、二人が言葉も無く倒れた。

モレーノがピー!と口笛を鳴らした瞬間、犬が警官に飛び掛った。
同時に一人の警官が逃げようとしたので、二人とも拳銃で抜き撃ちで倒した。
一瞬でニセ警官4名のケリが付いた、危うい所であった。

何もかも奪われて殺されて、寂しい原野に埋められていたかもしれないと思っ
た。一瞬、生まれて間もない、我が子と絵美を思い出した。
富蔵は生まれて初めて自衛だが人間を目の前で2人も殺した。

撃たれそうになりモレーノに助けられた男が、指揮官らしき男を指差して、懸
賞金が掛かっている強盗だと教えてくれた。
多くの砂金採掘場や運搬人たちが襲われた様だ。

モレーノはそれを聞くと馬車に4名の死体を積み上げ、犬を放して林の中から、
強盗団の乗馬を近くから探して来た。それに歩いていた男達を乗せ、今度は
急いで町に向かった。
パブロも驚いて乗せられた死体を見ていた。街中に入る前に死体にシートを被
せ警察署の前に来た。
その前に馬車の後ろを歩いて来た男達5名は、乗馬のまま別れてホセの養蜂
農家に、リオ・ベールデから来た男達と馬で向かった。

警察署では死体を見て人だかりがしていた。強盗団が逆に反撃され、全員が
死んだとライフルや拳銃などが並べられ、死体の横に展示された。

モレーノとパブロが巧みに話して、事をまとめてしまった。
警察署長が懸賞金が強盗団4名だから、これは良い稼ぎだと話していた。
銀行に明日行けば貰えると、タイプを叩いてサインすると用紙を渡してくれた。

富蔵はここでは自分はあまり前に出たくはなく、顔を知られない様に用心した。
それが後で災難から逃れられた。
翌日の新聞にはモレーノとパブロが懸賞金の支払い用紙を手に笑っている写真
が出ていた。
しかし、富蔵達の人質救出の騒ぎは一行も載っていなかった。

それには理由があった。この町の警察はかなりの賄賂で動いていたので、パ
ブロ達の救出依頼の話を持って行っても相手にしてくれなかった。

かなりの賄賂が来ていた様で、黙認されて強制労働的なタコ部屋で砂金採掘
をしていたようだ、でも今回の強盗団が壊滅したのは警察として世間からの批
判と疑惑を無くす良い機会だった。

世間では強盗団からも、幾らかの賄賂を貰い、見逃していたと勘ぐられていた。
富蔵達はこの町に一切関わる事無く、町の管轄から外れた所で新たに採掘場
を開くので、彼等からの裏の援助や妬みなどを絶つ事を考えていた。

翌日、モレーノとパブロは銀行に行き、委託されていた賞金を受け取った。
新聞記者のインタビューでモレーノが、昔は賞金稼ぎで今はサンパウロで飛
行機の操縦士をしていると話していた。
新聞は午後にも飛行機でサンパウロに戻ると言う事をコメントして、午後、飛
行機が出発する写真も後で掲載されていた。

全てモレーノが中心のボス的扱いで今回の強盗団の件で処理され、何事も無
く話題にも上がらなくなった。
しかし、リオ・ベールデから来た4人とモレーノ達が帰り、ホセの養蜂農場は静
かになった。富蔵はパブロ達とここで砂金採掘の用意を具体化していた。

富蔵が貰い受けた5人の男達は、この砂金掘りの家業から抜け出す事が出来
ない連中で、助けられた命を感謝していた。
彼等はホセの養蜂農場まで乗って来た強盗団の乗馬の皮袋から見つけ出した
砂金を富蔵に全部差し出していた。

彼等は『ボスの貴方は我々の5名の命を貰い受けて、砂金など何も貰わなか
ったのでこれを貴方の取り分と考えて貰ってくれ・・』と話して来た。
ずっしりと重い皮袋であった。

富蔵は差し出された砂金の袋を考えて、彼等の目の前で当座の資金とグラス
に砂金を入れて各自に渡した。
パブロがワインを出してくると、グラスに酒を充たし、首に掛けた十字架を浸す
と、『このドンに忠誠を誓い、仲間として仕事をするか決めてー!』と言って、
『賛成の者はグラスを取ってくれ・・』と言った。

5名ともグラスを手にすると、富蔵とグラスを合わせ、パブロが短く神に祈りを
捧げると酒を飲み干した。
皆にリオ・ベールデの砂金採掘現場のやり方を説明した。
皆が砂金を手にすることが出来て、ボスが砂金を手にするのは皆と対等と説明
した。リオ・ベールデと同じ、砂金は7対3で配分する事が決まった。

皆が了承して、再度酒がグラスに注がれ皆で乾杯された。
今度新たに開発される砂金採掘現場の図面が皆に示され、赤く印がされた地
図を見せた。地権も買い、全て手続きも終了していることを示した。

するとモレーノに命を助けられたアントニオと言う男が、興奮したように地図を
見て、そこは最良の金鉱があると言った。
『俺もそこに目を付けて、資金が貯まったら採掘を始めようと考えていた・・』
と言った。

富蔵は少し考えると、『アントニオ、お前が組頭として採掘するか?』と聞い
た。驚いた様な感じであったが、すぐさま彼はその仕事を了解して握手して来
た。
パブロが支配人で、リオ・ベールデから来た1名は町の親戚である、ホセの
養蜂農家に間借りした事務所に居て、運送と資材管理や事務を行い、採掘現
場と行き来すると決まった。

これで最初からプロの採掘人達が掘る現場となった。
奪われていた採掘資材や、機械も戻って来た。今まで何処にも無い様な配分
の率で、安心して働ける事を皆が納得していた様だ。

豊富な資金で、機械化した採掘をスタートする前に、現場を厳重に鉄条網で
囲み小屋を立て、犬を増やして、襲撃などからの警備を厳重にしていた。小型
自家発電機も据え付けられ、生活の場も食堂などから最初から揃えてスタート
したので、皆が喜んで働いていた。

富蔵のアイデアで川原の空き地が整地され、水上飛行機でなくても着陸出来る
様に周りの木を切り倒して簡易飛行場が出来上がった。

全てが出来上がり、誰にも干渉されること無く動き出した砂金採掘現場では活
気があり、皆も納得して満足していた。
採掘量も初めてにしては、手掘りで僅かな手作業の量からしたら、数倍もあり、
機械化した現場では少人数でも効率的に稼動していた。

富蔵は長居したここから、サンパウロの絵美が待つ自宅に帰りたくなった。
パブロはしばらくここに残ると話して居たが、ホセの親戚も3名参加したので、
所帯が大きくなった。
皆の炊事もモレーノが偵察に行き、夜に出会った足の悪い男がコックとして富蔵
のキャンプに来てくれたのでもっと賑やかになった。

モレーノが飛行機で迎えに来てくれた。その夜の別れの宴会で、今まで掘り
出された砂金をテーブルに出すと、皆の前で等分に分け与えた。

皆が満足して産出量が多いので分け前も普通の3倍もあると口々に話していた。
富蔵の取り分もそれに比例して、かなりの量となっていた。
その夜、パブロを呼んでトンプソン・マシンガン1丁と弾を渡し、用心するように
言った。

翌朝、モレーノと僅かな身の回り品と砂金を入れた皮袋を持って、川原の簡易
飛行場から飛び立ち、一回給油してサンパウロまで直接飛んで帰った。

サムの飛行場では絵美が子供と大手を広げて飛びついて来た。

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