2012年11月4日日曜日

第3話、伝説の黄金物語、(25)


  サンパウロの平穏な日々、

翌日からモレーノが飛行学校に通学する規則正しいオートバイをスタートさ
せる音が響いていた。

モレーノは砂漠に吸収される無限の水の様に、知識を吸収していった。
全ての費用は富蔵がサムにまとめて預けていた。

それとサムがアメリカから購入した飛行機エンジン代金のドル決済分を手
持ちのドルから貸していたので、彼に必要な物は何でも与えてくれる様に
頼んでいた。

サムも良い生徒だと褒めてくれ、モレーノにパラシュートに飛行服、その他、
蛍光時計や飛行帽子を揃えてくれていた。かなりの金額であったが、サム
がアメリカから取り寄せていた。

電信モールス信号の練習とエンジン整備の技術もサムが教えてくれた。
モレーノは午後帰宅すると、自分から希望して夜間の工業学校へ通学しだ
した。エンジン整備の基本から学んでいたようであった。

サムと話してモレーノの誕生日に大きな工具箱と、それにぎっしり入る工具
をプレゼントした。
サムがその誕生祝のパーテイで、『モレーノほどに操縦を覚えるのが上手
な男は今まで一人も居なかった。』と話してくれた。

それもサムに預けている豊富な資金で、時間の制限無く飛行を許可してい
る事もあった。サムも商業飛行の免許を取る様に勧めてくれた。

時々、サムの助手で地方への配送任務に付いて飛んでいたが、帰りの途
にリオ・ベールデの牧場に着陸して、両親と兄弟達に会って来た。

飛行場も市の建設許可も簡単に出て、町で初めての飛行場建設が進んで
いた。サムはその工事現場も見て指導して、あちこちと指示していたようだ。

帰りの飛行で沢山のお土産の中に子犬が1匹居た。モレーノの愛犬も連れ
て来たので急に賑やかになった。子犬は母犬の後ろを付いてまわり、富蔵
と絵美達を喜ばせていた。

砂金採掘現場に居るパブロもモレーノから貰った別の子犬を飼っている様
であった。平穏な時間が過ぎて、つかの間の幸せが皆の間で営なまれてい
た。

富蔵は絵美が生んだ初めての男の子供を手に抱き、パブロはアマンダ兄
弟の親戚の女性と仲良くなり交際を始めていた。

モレーノは単独飛行も許可され、自由に大空を飛んで、サムの助手をして
いた。アマンダ兄弟達も拡張する町と、繁栄するリオ・ベールデの経済で益
々伸びていた。

上原夫妻も初孫に喜び、訪れた富蔵達と増築した屋敷で楽しいひと時を過
ごしていたし、自宅隣の食堂も繁盛して何も問題なく営業していた。
富蔵もこれまでの人生の内で一番平穏な日々を過ごした時期と感じられる。

富蔵達が平穏な生活を楽しみ、過ごしていた時期に大きな社会変化の動き
が起きていたが、移民の日本人社会では政治に関連する事には無縁の事
が多かった。

富蔵は毎日、子供を連れて近くの公園を散歩するのが日課になり、午後は
近くに開いた武道館で剣道と柔道をコックで乗船していた時と同じ様に練習
していた。

富蔵も生まれて来た子供に幸せを感じて、ブラジル社会に生きる覚悟が出
来て、次の事業計画を練っていた。

最初の砂金採掘現場では機械化した採掘で砂金の量が毎月減少して来て
いた。掘り尽くしたと思われ、2番目の採掘現場でそれを補っていたが、仲間
の二名が自分の故郷の近くで最近金鉱が発見され、ブームとなっている事を
知り帰郷を申し出ていた。
そこはマットグロッソ近くのアマゾン河の上流にある支流で、トラックでまる
1日以上は掛かる場所であった。

富蔵はパブロと話して彼等を応援する事を決めて、資材を集め用意を始め
ていた。
採掘地の地権を買い入れ、柵を作り、小屋を建設して資材を運び込むこと
まで予定をこぎつけていた。

ブラジル時間で時は過ぎて、富蔵の人生時計もそれに合せて動いていた。

アマンダが運転するトラックに資材を積み込み、パブロと仲間二人が出発し
て行った。パブロが飼って居る犬もトラックに喜んで乗っていた。

トラックの荷台にはシートが被せられ、キャンプ用のテントも積まれていた。
早朝の出発で、アマンダ兄弟達も見送っていた。

それから4日ばかりしてアマンダはリオ・ベールデに帰ってきたが、パブロ
と仲間の二人からは何の音沙汰も一週間しても無かった。
富蔵はリオ・ベールデに出向き、アマンダ兄弟の事務所で情報を集めてい
た。しかし、何も情報が集まらなかった。

その夜、サンパウロのモレーノの所に電話を入れ、リオ・ベールデに飛行機
で飛んで来る様に要請した。仲間が三名、行方が分からなくなっている事を
知らせた。直ぐに了解の返事があり、サムにも電話を入れて援助を頼んだ。

翌朝まだ薄暗い内に出来たばかりの飛行場にモレーノが操縦する複葉機
が着陸して来た。サンパウロをまだ星が瞬いている頃に離陸したと話してい
たが、胴体の中に愛犬が居た。
飛行機に給油され、僅かな荷物の中にはトンプソン・マシンガンも一丁含ま
れていた。

モレーノは自分の拳銃と散弾銃を機内にすでに積んでいた。
用意が整うと、モレーノが操縦する飛行機は、富蔵を乗せて離陸して行った。

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