2012年10月19日金曜日

第3話、伝説の黄金物語、(20)


 目には目を・・、歯には歯を、

アマンダの兄弟と家族の一族達が今回の自分達の事業に対する地主達の
勢力を阻止することを考えている様であった。

事を直ぐに解決しなければ、リオ・ベールデ駅前に新規事業で建設している
工事も全てが水泡に帰すことになる。
富蔵が居る砂金採掘現場にアマンダが夜訪ねて来た。親戚の若者が一人
付いて来ていたが、おとなしそうな青年で地主の家で河の運搬船の手伝い
をしていると話していた。
パブロと4人でピンガの酒を飲みながら話を聞いた。意外な計画であった。

話の筋は・・・、
『明日の土曜日の夕方、地主仲間の誕生日が開かれて、盛大なシュラスコ
の焼肉が岸辺の牧場で昼に開かれ、それが済んで、夕方頃から定例の地
主達の魚釣り大会が開かれると言う事であった』

『アマンダの計画は親戚の若者が船頭をする釣り船に、今回は近所の4名
の地主だけでは無く家族や親戚まで乗船するという事であったので、今時
期の釣りは支流の合流地点の流れの速い、魚が集まる所で釣りをするの
で、そこに上流から流れて来た、巨大な流木に船を故意に衝突させ沈没さ
せると言う筋であった』

流木は先日から流れ着いて、増水した水面下に隠れているという絶好の
機会と言う話であった。
アマンダが小声で下を向きながら話した事は重大な意味が含まれていた。
早く言えば地主連中を家族親戚を含めて皆殺しにする計画であった。

増水した河の流れに逆らって泳ぐ事など、とても慣れた者でも無理で支流
が合流する地点は流れが渦を巻いて河に引き込まれるという様であった。
まして酒を飲み、酔って一杯きげんで服を着たまま河に落ちたら、先ず浮
き輪を持つか救命ジャケットを持たなければ助からないと話していた。

その救命用浮き輪も船の両側に取り付けられていたのが、地主の子供の
イタズラで河に流してしまい、今は何も浮き輪も取り付けられていない状態
で船を出すという事であった。
アマンダがピンガのグラスをグイと飲み干すと、『この親戚の若者の妹が
地主の家族に連れ去られ、船上で強姦されて河に投げ捨てられた』と言う
事で、事件もうやむやに消され、遺体も戻らなかったと話してくれた。

この様な話は沢山在るけれど、証拠と、証人が居なくて全て闇に消された
とアマンダが話していた。
富蔵は黙ってピンガの酒をグラスに注ぎ足すと、言葉短く『成功を祈る!』
と言った。
その翌日、リオ・ベールデの町に出ると町中が大騒ぎであった。

地方紙の新聞号外が街中に張り出され、黒山の人がそれを見ていた。

『昨夜、リオ・ベールデ地方の地主達の親睦会で地主家族と誕生日の焼
肉シュラスコを祝い、夕方から釣り大会に総勢9名で船で出て、支流の合
流地点釣り場に行く途中、乗船していた7歳の子供が釣り船の舵を船頭
の助けで握っていたら、水面下に隠れた流木に激突させて船は横転して、
全員が河に投げ出されたが、その子供は船頭が燃料缶に流れの速い河
中から子供を拾い上げ、缶に子供を掴まらせて救助して船頭と乗客の内、
子供一人だけが燃料缶につかまり生き残った様子だと報じていた』

新聞は大きな河川事故と報道されていた。

富蔵はアマンダの家を訪ねたが、誰も居なかった。
大きな事件でこれからの対応をどうするか・・、情報分析を富蔵がパブロ
としていた。ボート転覆犠牲者の中にはリオ・ベールデの建築認可権限
を持つ役人も含まれていた。

一驚に値する大きなこの事件で、この地域とリオ・ベールデの社会が激
変した。
役場では建築再開の再審査の申請をしたら、即日許可が出た。
永く町の役場を支配していた地主達と町の役人が死亡したからであった。
役場では若い有能な係官が書類を審査してくれ、許可も直ぐ出してくれた。

地主の家族で、その跡取りの息子も同時に事故で遭難した家族も居た。
全てが一瞬のもとに、長く旧態前とした勢力が消えて行った。
その後、一週間しても遺体は河に流されて発見が出来なかったが、誰か
が『ピラニアに喰わてしまっただろう・・』と話していた。

その事は遺体も無い場合は行方不明者となり、1年経過して、それから
でないと裁判所で死亡宣告が出され無いという事態になった。
この事で、全ての地主社会が凍結され身動き出来ぬ有様になり、彼等
の地主社会は相続も遺産の処分も出来ずに、死んだ様に静かになった。

アマンダの兄弟達が親戚、一族を集めて町の選挙で新しい役員に立候
補して、地主の代わりに役員当選を果たした。役員の補欠選挙で勝利し
たのである。

その後の新聞では警察の見解として、釣り船の舵を握っていた7歳の
地主の子供の不注意で流木に激突転覆して大事故になったと報告され
ていた。
地主の子供が警察に『自分が船の舵を握っていた・・・』と話した事で決
定的になった。
船頭の若者は子供を燃料缶につかまらせて一人だけでも救助したので、
何も問題にもされなかった。

1ヶ月もするとこの事故の話は誰も口にする事も無くなった。
それより新たに採掘された金鉱で巨額な砂金を産出したから、その話
が全ての話題をさらい大きな採掘ブームに火が付いた。

地主不在の勢力地図が激変したリオ・ベールデには、下から這い上が
ってきた地元の住民が力を付け、勢力を増した。

それは富蔵達にも絶好のチヤンスとなった。

アマンダの兄弟達は一族がまとまり、親戚達が富蔵にドン(首領)と言葉
を掛ける様になった。彼等のシンボルの看板が掲げられた倉庫と事務
所の前で、町の楽隊を呼んで盛大に落成式を開いた。
その前から貸し金庫の噂を聞いていた人達が、金庫の中の様子を見て
借りたいと言う人が何人も出て来た。

富蔵達が驚くほどの申し込みであった。それは散弾銃を持ち、腰には
拳銃を差したガードがお客の求めに応じて二重の鉄格子を開かないと
中には入れない様子は、誰でもが安心の印と感じていた様だ。
保管箱には二重の鍵を掛け、1個はお客に、他の1個は事務所が保管
した。
5時に金庫の扉を閉めて、自動タイマーをセットすると、絶対に翌朝8時
まではどんな事をしても開く事は出来ない事も安心を求める人達の信
頼を得たと感じた。
金鉱など採掘者が多い、また危険なこの地域では絶対必要な施設で
あった。

アマンダの兄弟が富蔵とパブロを食事に招待して、家族して感謝の言
葉を掛けてくれた。
富蔵もアマンダ兄弟の後ろ盾を得た事を肌で感じていた。

0 件のコメント:

コメントを投稿

登録 コメントの投稿 [Atom]

<< ホーム