2012年10月7日日曜日

第3話、伝説の黄金物語、(15)


  河水面の戦い、

丸木舟の人影が近くに見えてきた。
仲間の人質はパンツ一つで、丸木舟の舳先に首に縄を付けられ、手も縛ら
れて座っていた。それ以外は何処にも怪我は無いようだった。

富蔵は皆に合図してオラシオがレミントンのライフルに付けたスコープを見
ながら狙いを付けているのを待っていた。
オラシオの射撃で皆が一斉の攻撃開始としていた。

仲間の船は軽いエンジンの音を響かせて河の真中にゆっくりと進んでいた。
突然、『ポーン!』と水面に鈍い銃声が響いた。

丸木舟が一瞬揺れた様に見えた。人質の仲間が船べりを持って銃声と同
時に横に倒れ、先頭の丸木舟が仲間の人質に簡単に転覆させられていた。
櫂を持っていた男2名は見事に水面に投げ出されてもがいていた。

同時に後ろから付いて来ていた丸木舟も、慌てて水面に飛び込んだ男3人
のショックで簡単に横転してしまった。
河の真中に投げ出され、かなり早い流れにもまれて微かに頭が見え隠れし
ていた。たった1発の銃声で勝負が決まった。

対岸のジャングルの2ヶ所からライフルの発射音がして弾が飛んでくるのが
分かった。富蔵は狙って対岸の岸辺をトンプソン・マシンガンで掃射した。
軽く3、4回に分けてマガジンが空になるまで撃ったが、それで全部の片が
付いた。対岸はそれでシーンと静まり返ってしまった。

仲間の船が人質を河から引き上げて来た。寝泳ぎをしていたので水も飲ん
ではいなかった様だ、安全に怪我も無く、人質の仲間を取り返したので皆が
歓声を上げて喜んでいた。目の前で一瞬で決まった勝負に無駄弾を撃つ者
は居なかった。

見張りを残して皆が小屋に集まり、パブロが胸に付けた十字架にキスをす
ると、人質になっていた男の頭に載せ祈った。皆がパブロの祈りの言葉を
聞いていた。

それが終るとピンガの酒が注ぎ回され、皆で人質の無事の帰還に乾杯した。
仲間の誰でもが、富蔵が一人の仲間の命を助け様として、全力を注ぎ込む
事に満足していた。
見張りが『河の中頃を流されて居た男達が皆、河に飲み込まれてしまって、
一人も対岸には泳ぎ着く者は居なかった』と報告して来た。
『後ろから来ていた丸木舟の3人は、中の一人が泳げなくて他の男に抱き
 ついて3人ともアッと言う間に河の流れに沈んでしまった様だ』と話していた。

1発の銃声で、舟でパニックになった強盗団が哀れにも全滅してしまった。
富蔵も驚いていたが、早速に町の酒場に居る賞金稼ぎの男達に話が付け
られ、生き残って対岸のジャングルに隠れた強盗団の残りを追跡させた。
彼等はライフルを持っているし、強盗仲間の復讐に来る危険があった。

彼等、賞金稼ぎは普段は砂金採掘現場から逃げた労務者や、砂金を持ち
逃げした男を追跡するのを職業としていた。
僅かな金額の金や砂金で働いて居たが、警察の力が及ばないジャングル
の法を守る為には必要な男達であった。

犬が5頭ばかりと男3名を対岸に船で連れて行ったが、本職の追跡人達は
直ぐにジャングルに消えていった。

富蔵はサムが飛行機で迎えに来るのを待っていたが、その間にパブロを連
れて埋められた砂金のビン6本を探しに行った。
何度も、繰り返して見て覚えた地図の様子は、白紙の上に同じ地図を百回
も同じく画ける正確さであった。

リオ・ベールデ駅近くの荷車屋の次男に今度も手伝いを頼んだ、この地域
を知り尽くして危険な場所も、人の動きも知り、馬の扱いも慣れたこの若者
が、素直で運動神経の抜群さを富蔵は気に入っていた。名前はアマンダと
言っていた。

探し物の仕事が済んだら、トララックの運転を教えると約束したので、張り
切って案内してくれた。
馬が3頭用意され、砂金採掘現場から朝早く涼しい内にアマンダの案内で
出発した。
彼にもコルトの拳銃と弾が渡され、散弾銃が鞍に付けられていた。
昼のランチと水を用意していたが、夕方までここに戻る予定で居た。

いよいよ念願のマリアの夫が聖書に書き残していた砂金を掘り出しに行く
チャンスが来た。その事は誰にも話してはいなかった。
ただ次の採掘現場を探して下見をすると告げていた。

馬が朝の涼しい冷気を突き抜けてジャングルの中を進んでいった。

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