2012年9月26日水曜日

第3話、伝説の黄金物語、(10)

 

 

 砂金の復讐

富蔵は砂金の話が現実に近くなって来たと感じた。

パウロは真面目に仕事をしてくれ,片手ながら右手が手首まであるので器用に
掃除から皿洗いまでこなしてくれた。

昼のランチ時間が終わり、リオ・ベールデ地域の地図を買いに、パウロを連
れてノロエステ線の始発駅に近い所まで出掛けていた。

パウロから砂金掘りの色々な情報を聞き、かなりの範囲で現在も掘られて
いる事を確かめたが、鉄道線路一本と貧弱な未舗装土道がジャングルの中
を走っているだけで、食料から資材まであらゆる物が高い値段でしか手に入
らないとパウロは話していた。

富蔵は、今回の計画で考えているのは、死んだマリアの夫が残した地図を
確認して砂金を手にすることであった。

パウロの情報から得た事は、『確かに誰かが砂金を堀当て、それを持って
現場から出る時に襲われ、銃弾が身体に残り、その鉛の毒で弱って死んだ
と聞いた事がある』と彼が話してくれたが、砂金は死ぬ前に隠して誰も見付
ける事が出来なかったと言う事である。

その話が事実であれば、マリアが聖書と持っていた地図は本物である確率
が99%も在ると感じた。

少し暑い街中を歩いて地図を専門で販売している店を探して歩いていた。
一休みするのに小さなカフェーに入り、コーヒーを注文してテーブルに座っ
た。

その時、パウロが顔青ざめ、唇を震わせて顔を隠すように下を向いて動か
なくなった。
そして、微かな声で『窓際に座っている男二人が俺の手を切り落とした』と
言った。富蔵はギクリー!として、じっくりと男二人を見ていた。

ワニ皮のカバンに洒落たシャツを着て葉巻をくわえ、冷えたビールを飲ん
でいた。二人は話に夢中でこちらには何も気が付いてはいなかった。

パウロはコーヒーを飲み干すと急いで店の外に出た。
富蔵は悠然と構えて、ビールを注文して飲みだした。昼下がりのサンパウ
ロは昼寝の時間で街は静かであった。
つまみのピーナツを口に入れながら、テーブルに在った新聞を読むふり
をして、ビールを飲んでいた。顔は新聞で隠していた。
一人の男が立ち上がってトイレに立った時に、腰に拳銃が隠してあるのが
チラリと見え、どうやらカバンの中は札束と感じた。

店の窓を見るとパウロが隠れるようにして中を覗いていた。
顔はこわばり、恐れと恐怖の表情でまさに能面のように成っていた。

富蔵はじっくりと二人を観察して様子を見ていた。ビールの大瓶が5本も
並んでいた。かなり飲んでいると感じて、富蔵は一瞬、悪知恵が湧いた。

パウロの仇を取ってやろうと思った。片手が手首から切り落とされ、生涯
の障害者としての人生にパウロを落とした野郎どもを、ここで仕返しをして
痛め付けてやろうと考えていた。
そこまで答えが出ると後の行動は早かった。飲み代の勘定を済ませると
外に出てパウロを呼んだ、『今日は地図を買うのは中止だー!、あいつら
にお前の復讐をするから手伝えー!』と言った。

パウロは富蔵の話を聞くと黙ってうなずいていた。

街中はまだ昼寝の時間でまばらな人影しかなかった。男がトイレに立った
ので直ぐに外に出て来ると感じて木陰で待ち伏せする事にした。

木陰の横には絶好の路地が反対側の道路まで続いていた。そこを駆け抜
けるとゴチャゴチャとした屋台と店が並んだ場所に出た。様子を見に行って、
あそこに潜り込めば探すのは無理と感じた。

チヤンスと感じた。逃げ道の偵察に行って帰りに、路地の奥で掃除のモップ
箒の柄を手頃の長さに折って持って来た。樫のごつい柄で、棍棒にもなり
そうな丈夫な物であった。

富蔵にしたら、一番得意な剣道の腕で相手を襲う事を考えていた。その
チャンスは以外に早く廻って来た。酔った二人が木陰の方にゆっくりと歩い
て来た。一人がカバンを持ち、何か話しながら葉巻を吹かしていた。

二人が木陰を通過する瞬間、帽子を深く被り顔を隠した富蔵がいきなりす
れ違い様に相手二人の顔面を瞬時に棒で叩いていた。
最初の男はそれで声もなく卒倒して倒れ、二人目は顔面を両手で覆って座
り込んだ。パウロが左手で思い切り殴り倒していた。

富蔵は瞬時に終わった襲撃で、周りの人が居ないのを確認して、サッと
ポケットを探し財布を抜いた。同時に腰の拳銃も取り上げていた。
これで強盗に襲われたと相手が感じると思った。二人とも新品のコルトの
拳銃を持っていた。財布も分厚く現金が入ったワニ皮の極上の財布であ
った。

財布と拳銃をカバンの横に入れるとそれが終わると二人の足の両ひざを
棍棒で皿の骨が砕ける様に叩き割った。
時間にしたら1分も掛からぬ早業であった。

ワニ皮のカバンを手に取ると、路地を二人で駆け抜け、反対側に逃げた。
後は簡単に路地から路地を抜け、駅近くのタクシー乗り場で客待ちの車
に乗り、二人で何知らぬ顔で3度もタクシーを乗り換えて、回り道をして食
堂に帰って来た。

パウロが帰り着いて、がぶりと水を飲み干して、一番先に話した事は、
『あいつらに何人もの人間が足を折られて歩けなくして、ジャングルに放
置され餓死したか・・』今日はその意味でも溜飲が下がったと一気に話した。

富蔵は物置部屋の中でドアを閉めてカバンを開けた。中にはぎっしりと札
束が在った。微かに手が震えるのが分かった。財布の中にも分厚く現金が
入っていた。

銃は新品のコルトのレボルバー拳銃で弾も込められていた。カバンの底
には50発入りの弾の箱が4個入っていた。
丸い筒を開けると地図が出て来た。富蔵が探していたリオ・ベールデの
地図であった。

電球の明かりで見ると地図のあちこちに印がしてあり、二重丸、三角など
の印が見えた。

富蔵もその日、夕食時間になりパウロと共に食堂で働いていた。
何か心の中でワクワクする複雑な気分であった。
復讐と言えども一種の強盗をしたのと同じであったからだ。

その夜、食堂を閉め、ミゲールも帰り、全てが終わって屋上のパウロの
部屋で富蔵は財布に在った現金の幾らかを渡した。
その額はパウロが1年働いても稼げる金ではなかった。

二人はピンガの酒をコップに注ぐと、黙って乾杯した。

その夜、絵美ちゃんと二人で食事をしながら色々な話をしていたが、絵美
が『今日は富蔵さんは何か別人の様に感じる・・』と言って笑っていた。

ベッドに入っても目がさえて中々眠りに付く事はできなかった。
 

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