2012年9月22日土曜日

第3話、伝説の黄金物語、(8)

 
富蔵、サンパウロに出る、

富蔵は翌日は休みと言う安心感か、良く寝ていた。

目が覚めて今日は市場が休みなので外の通りも静かな感じであったが、
何か家の中がざわついていた。
居間に数人の人たちが集まり何か話していた。絵美がそばに寄り、長女
の美恵のご主人の父親が倒れたと話してくれた。

絵美ちゃんが働いている食堂の主人で、小さいながら繁盛していた日本
食のレストランを切り盛りしていた人だと言うことであった。

幸いに休日だったので何も食堂の仕事には問題が無かったが、明日は
どうするか協議していた様だが、絵美ちゃんは『家族経営のレストランで
は中心の調理人が倒れたら、経営を永続させるのには無理かも知れな
い』と話してくれた。

台所の隅でコーヒーを前に、絵美と額を付けて富蔵は話していたが、ふ
と考えて『俺がとりあえず板前をするか・・!』と絵美に話した。
16歳で家を出て、この道一筋で22歳まで働いた事を考えると、大抵は
こなせる腕を持っていた。

絵美ちゃんが驚いて居間から親戚達を連れてきた。長女の美恵ちゃん
の主人と倒れた父親の奥さんとが、『話には聞いていましたが、そうして
くれれば本当に助かります』礼を言ってくれた。

話が決まると後は早かった。今日の休日の予定は全て取り消して、朝食
が済むと食堂を見に行く事になった。

美恵のご主人の車で直ぐ近くの食堂に行き、メニューを富蔵に見せてい
た。定番の刺身定食、天ぷら定食、すき焼きなどがあり、他はどんぶり物
が揃い、特別な物は肉のステーキなどと、これも定番のとんかつなどが
あったが、何も難しくはない献立で、平均的な日本食の大衆レストランで
あった。

テーブルもあまり沢山ある訳ではなく、絵美ちゃんが一人でウエイトレス
が出来る店で、まさに家族経営の店であった。
通いの従業員は掃除と皿洗いが一人、毎日来るだけであったので、富蔵
もその場で当分は手助けすることを決めた。
話が早く決まり、皆がホッとしてイスに座り込んだ。
絵美ちゃんが冷蔵庫からビールを持ってくるとコップに注いで、富蔵に持
たせて、皆にも注いで『富蔵さんー!宜しくお願い致します』と声を掛けた。

その後、奥さんは倒れたご主人を見舞いに病院に出かけて行き、食堂で
美恵さんのご主人が、『父が倒れて一時はどうしようかと考えたが助かり
ました』と感謝の言葉を言ってくれた。

直ぐに絵美ちゃんが厨房の中を説明して、全てのキッチン器具のありかを
教えてくれた。裏には休憩室があり、昼のランチ時間が終われば、少しそ
こで昼寝も出来る様になっていた。

家族がそこで着替えて、時間が有れば憩いの場として使っていた様だと
思った。富蔵はそこを見て気に入り、『しばらくはここで寝泊りするから・・』と
皆に言った。
話が全部決まり、直ぐに上原氏の農場に戻る事になり、美恵ちゃんのご主
人の車に4人で乗り、急いで帰宅した。

帰宅して今までの話を全部すると、上原氏夫妻は驚いて了承してくれ、正雄
にも了解してもらい、マリアとの市場の仕事も夫婦の様で楽しかったと話し
に聞き、富蔵も安心していた。

何か大きく人生が動き出した感じがしていた。

その日のランチは皆がそろい、富蔵の送別会の様な感じであった。
僅かな荷物をトランクに詰めて富蔵は家族に別れを告げてまた車に乗り込
んだ。

別れに奥さんが『次女の絵美を宜しくお願い致します』と富蔵に話して、
『これは今まで貴方が働いたお礼です・・』と封筒を押し付けてくれた。

別れは少し辛かったが、絵美が寄り添う帰りのサンパウロに戻る車内で、
富蔵は『砂金に一歩近くなった』と感じていた。

夕方、食堂に戻り、絵美とトランクを持って車から降りた。
長女の美恵ちゃんがご主人と入り口のドアを開けて、鍵を渡して『宜しく
お願い致します』と頭を下げた。

その夜、富蔵は絵美ちゃんに聞きながら明日の仕込みをして用意を済ま
せると、簡単などんぶり物を上手に作り夕食にしていた。
絵美ちゃんと食べながら話していたが、絵美が突然、『今夜はここで泊ま
るから』と富蔵に言った。

絵美は姉の家に電話を掛けて『明日の用意と富蔵さんに色々と教える事
が在る』と話して居たが、姉もご主人も反対しなかった。

その夜、裏の休憩室が富蔵の寝室となった。中には浴室があり、シャワ
ーとトイレが付いていて、側には材料などを入れる小さな物置部屋もあっ
て全て揃っていた。
休憩室を整理して、使わない物を物置部屋に移して、広くなった休憩室に
富蔵は満足していた。
全ての整理が終わり、絵美ちゃんとソフアに座り、ビールのコップを合わ
せて乾杯していたが、明日からの食堂の仕事が人生の再出発となる自分
の人生に、腕を活かせると仕事であると考え嬉しくなった。

その夜は、今日のめまぐるしい一日の疲れからか、富蔵は何事も無くベッ
ドに倒れ込むように寝ていた。

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