2012年9月30日日曜日

第3話、伝説の黄金物語、(12)


 動き出した砂金採掘、

富蔵は採掘資金だけ出して、陰の支配者となった。
その下で、忠実なパブロが動いていたが、採掘現場とその周りの社会を知
り尽くした彼が実際は取り仕切っていた。
トラックに同乗してパブロが現地に付いて行き、拠点作りを指示していた。

リオ・ベールデの地図に、二重丸を付けてあった場所で採掘が始まってい
た。先ず採掘現場に宿舎のバラック建ての家が建てられ、機材を盗まれな
いように倉庫も作られた。
寝場所と倉庫が出来ると周りには、牧場などで柵に使う鉄条網が張られ、
外部から不意に襲撃などされないようにしていた。

ジャングルの中に砂金採掘の拠点が出来ると一人が炊事のコックで残り、
他は三名ずつ2組に分かれてガソリンエンジンの動力で放水して土を選別
した能率良い採取方式を取り活動していた。
試験採掘が成功して、かなりの量の砂金が出る事が分かり、全員が興奮
する事態となった。
その噂はたちまち広がり、採掘場に人が寄って来て歩合での採掘を希望し
ていたが、彼らは鉄条網に囲まれた採掘現場には誰も入る事が出来なか
った。

炊事のコックをしている男が連れて来ていた犬が賢くて、採掘現場での警
備に大いに役にたち、一つしかない入り口の前で砂金堀の男達が鋭い目
で現場を見ていたが、犬が居るので夜間でも中に入る事が出来なかった。

パブロはサンパウロを行き来して現場を管理していたが、採掘資金がある
ので食料や資材の豊富さは仲間の誰もが認めていた。

ある夜、コックが飼っていた犬が弱って激しい嘔吐をして倒れた。
パブロは直ぐに仲間の全員を起こして、銃器を構え、襲撃を用心していた。
砂金などは大した量は溜まってはいなかったが、機材と道具などを盗まれ
る事がもっと採掘に困ると考えていた。

これからの採掘を問題なく動かす為にも襲撃などは絶対に受けてはならな
いと感じていた。
仲間の一人がインジオの血を引く男で、狩猟の経験も豊富な事でジャング
ルの鉄条網の外を偵察に出た。
しばらくして後ろ手に縛られ、口には木の葉を押し込まれ、首には縄を巻
かれた男が引きずられて来た。
仲間の男が物静かに聞いた『お前達は何をたくらんでいるのか・・?』
『何を見張っていたのか・・?』

口から木の葉を出した男が、試験採掘の量を推測して、溜まった砂金を運
び出す時に襲撃をして全てを奪う計画だったことを素直に話した。

そして、犬が邪魔で肉に毒を挟んで投げ与えたが全部犬が食べなかった
ので殺す事に失敗したと白状していた。
話さなければどんな拷問を受けるか、最悪では殺される事もこの世界では
簡単な事であったからだ。
パブロがサンパウロに戻って来た時に、その話を富蔵に話をした。
今は試験採掘で砂金は僅かな量だが、彼等もその事を毎日看視して現場
を見ているので、何も襲って来る事は無かったが、富蔵は本格採掘を控え
て肝心の運搬がネックとなって採掘を始める時期が難しい選択となってい
た。

その頃、食堂にアメリカ人の男が日本食を食べに来るようになっていた。
富蔵がアメリカに滞在して覚えた英語を話すことでも、急速に仲良くなった。
食堂を閉めてから、絵美ちゃんと3人で酒を飲む事をした時に、自分の仕事
はパイロットでサンパウロで小さな飛行操縦学校を開き、近郊都市に旅客
や荷物も運ぶと話していた。

その夜、富蔵はアメリカで搭乗した遊覧飛行を思い出していた。
リオ・ベールデから本格採掘して砂金をサンパウロに安全に確実に運搬す
るのには飛行機が最上と考えついた。
後は早かった、食堂の休日に現場に飛ぶ事を考えた。飛行士のサムと話し
て格安で現場まで飛ぶ事を決めた。往復2時間、現場滞在は10分ぐらい
でサンパウロに戻ると言う条件であった。

郊外の牧場の中にある小さな飛行学校まで車で行き、そこの牧場にある
小さな湖から荷物運搬用の水上飛行機で飛ぶと予定が決まった。その水
上飛行機はブラジルの各地に有る湖や河などに簡単に着水して荷物や人
員などの運搬に使っていた飛行機であった。

200キロばかりの食料と燃料が積まれ、サンパウロ郊外から朝早く飛び
立った。直線で飛ぶので一時間と言う僅かな時間で現場の上空に来た。
旋回して採掘現場の横の河に着水した。

現場の全員が出迎えてくれ、荷物もあっと言う間に陸に引き揚げられ、約
束の10分間で現場を見て廻った。
誰もが満足した本格採掘のスタートと感じていた。
ピンガの酒がグラスに注がれ、富蔵を囲んで皆で乾杯した。帰りはパブロ
も、降ろした荷物の代わりに搭乗してサンパウロに帰って来た。

休みの食堂テーブルでパブロが皮袋に詰めた砂金を富蔵に差し出した。
800グラムはあるという重さだったが、これは貴方が機材と道具に投資し
た資金の一部だと言って渡してくれた。
これでお互いが納得して砂金採掘をしても、安全に確実に運び出せると
言う確約を見せられた事に全員が満足している事を感じた。

富蔵は砂金を皿の上に出すと、黄金色の輝く砂金の山をマジマジと見詰
めていた。
そしてその4分の1をパブロに紙で包むと彼の手に握らせた。

パブロは片手でそれを握り、『貴方はドンと言う親分の人格が有ります、
貴方に巡り会ってこの人生も無駄ではなかったと感じています』と言うと
砂金の包みを拝む様にしていた。

これで全ての本格採掘の用意が済んだと感じた。

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