2012年10月17日水曜日

第3話、伝説の黄金物語、(19)


 事業の拡大と妬み、

パブロとアマンダがトラックでリオ・ベールデに向けて出発してからしばらくの
間は、富蔵はサンパウロの家で食堂を見ながら、生まれて来る子供の用意
などを新しい隣の家でしていた。絵美と子供用品やベッドなどを買い、部屋を
飾りたてていた。

そして実家の上原家を訪ねて、目立つ絵美のお腹を見せに行った。
夫妻は大変喜んでくれ、長男の正雄もマリアも祝福してくれた。
マリアはすっかりワイフとしての貫禄があり、忙しい農場の経営に参加してい
た。
夕食のテーブルで、近くに出来た日本人の入植地、イタケーラ植民地の土地
の購入の話が出て、サンパウロからも近く、サントスと丁度中間ぐらいの距離
にあり、上原氏の今の農場からも近かったので、これから家族も増えて農場
を拡張するのにも都合が良かった。

話が進むに連れ、家族で投資する事にして、富蔵がその資金を持つことにし
た。砂金採掘事業で少し資金が入ったと言って安心させていた。

マリアの亡くなった主人が掘った砂金も富蔵が探して手にしたので、惜しみな
く資金を出していた。
上原氏夫妻もすっかり安心して家族の一員として扱ってくれ、これからの家族
の発展を願ってくれた。

食事が終わりになり、コーヒーが出る頃に、長男の正雄が『マリアを籍に入れ
た』と話してくれたが、式は後で盛大にする計画と言う事であった。

コーヒーカップで乾杯して、マリアが子供のアナを連れて来て、デザートのケ
ーキにナイフを入れた。ケーキの上にはマリアとアナに正雄の名前があり、
結婚おめでとう!と書いてあった。

その夜、サンパウロの自宅に沢山のお土産の野菜果物を積み込んで車で帰
宅した。家に戻るとパブロがリオ・ベールデから帰っていた。

話によると新しい採掘現場も順調に進み全ての用意が出来て試験採掘が始
まったと教えてくれた。

貸し金庫の建設もあらかた終り、窓も何も無い巨大な土蔵みたいな建物が駅
前に出来た様だ。倉庫も併せて出来上がり、表には『リオ・ベールデ運輸倉庫
会社』と出ている様であった。
富蔵も完成間近い建物を見にパブロと資材を積んだトラックで出かけて行った。
現場に来てパブロがしみじみと『資金力の差がこの建物を見れば直ぐに分か
るー!』と話してくれた。

富蔵は一切今まで現場には顔を出さなかったが、全てパブロが表で取り仕切
っていた。彼が手足の様に動いてくれ、何も問題は無かった。

アマンダの兄弟が喜んで迎えてくれた。夕方暗くなるまで現場を詳しく見て周
り、皆で概略図を画いた様に作られていた事を確認した。

貸し金庫となる場所は、縦15mX横10mの広さで、前は10畳ぐらいの部屋
で頑丈な格子で2重に仕切られていた。大金庫の扉を開ける時は、その前を
頑丈な鉄格子で締め切り、中に居る係員がセフティボックスを金庫の中から
持って来て、鉄格子の隙間から渡す様に作られていた。

大金庫が開いていても、その前に鉄格子が2重にあるので先ずは絶対に破ら
れる恐れがないと感じていた。
しかし、その様な建物を作る富蔵達に妬みを持って見て、やっかみ半分嫌味
を言う人間達が出て来た。土地に長く住む地主達や、砂金事業で小金を持っ
た金持ち達であった。

アマンダの兄弟達は、親戚や知人まで集めて対抗していた。

今ではトラックが2台、大型の牛車が7台、馬を多数所持して、荷物運びのラ
バの群れを持っていた。 彼等の危険な事は役人と結託して事業を邪魔する
ことであった。
その最悪な事が起きて来た、金を握らされた役人が工事に注文を付けて邪
魔をして来て、工事中止の命令を出して来た。
後わずかな工事で完成するのに、パブロもアマンダ兄弟も激怒していた。
地主のボスが新たな勢力として出て来たアマンダ兄弟と家族達を嫌ったか
らであった。

流血の火種が出来た。長く地主達に搾取され、圧迫された底辺のブラジル人
達が這い登るチヤンスを閉ざされるという事は、彼等の言いなりになるという
ことであった。
地主に逆らうと彼等の土地を横切る事も出来なくなる事であった。

富蔵はブラジル人の地主勢力の巨大さが、政治力を持って立ち塞がる感じ
を受けた。ある日、河岸の砂金採掘所で仲間が話す事を聞いた、それは・・、

『有力地主達が4人程度で毎週魚釣りで、ボートを出している』と言う事を聞
き込んで来た。
彼等が居る限りこの地域が閉鎖され、彼等の小作か使用人の地位しか、幾
ら働いても望めなかった。
アマンダにその話をすると、『彼等が生きている限り我々底辺の人間が苦し
み、絶望の生活をしなくてはならない』とつぶやいていた。

富蔵は彼が何か危険な計画を持っていると直感で感じていた。

その危険な企みが何か直ぐに判明し、それは重大なこの地域の勢力を覆す
出来事であった。

0 件のコメント:

コメントを投稿

登録 コメントの投稿 [Atom]

<< ホーム