2012年10月31日水曜日

第3話、伝説の黄金物語、(24)


 モレーノの保証人となる、

富蔵も直ぐに生まれてくる子供の為に、サンパウロに居る事が多くなった。
事業が上手く動き出して、もう止めることなど出来ない勢いであったが、それ
ぞれの事業に適任者が付いて何も問題なく進んでいた。

砂金採取事業はパブロが取り仕切り、アマンダ兄弟はリオ・ベールデの町で
勢力を広げて行った。倉庫と運送業、貸し金庫と隣に銀行が開店し、益々、
旧勢力の地主達が没落したので繁盛していた。

銀行の開店で人が集まるようになり、人が人を呼ぶ事になり町が賑やかに
なって来た。
しかし、没落した地主が相続税で土地を手放し始めた。
一番先はダイナマイト爆破を起こした地主の土地であった。

家族が牧場など諦めて、都会に出て行ったからであった。
爆破事件で4名も死んだ場所などは誰も手を出さなかったが、富蔵は人を介
して話しをすると格安に手に入れた。町まで直ぐで、地形の良い場所で近くに
は河も流れていた。
半壊した母屋もそのまま放置されていたので、土地の譲渡契約が済むと、全
て残骸を焼き払った。

アマンダ兄弟達がそこに家畜を入れ、運送に使うラバなどを繁殖させ、牛など
も合わせて放牧させたが、富蔵には考えがあった、ローカルの小さな飛行場
を作る事であった。
サムの飛行士に相談すると上空から眺めて即決で適地だと勧めてくれた。

サムは複葉機を牧場の草原に着地させて、周りの風向きなど図面に書いて
教えてくれた。5本程度の背の高い木を切り倒して、牧草地も少し土を均せば
小型機では何も問題は無く離着陸出来ると話してくれたので、工事に掛かる
事にした。

富蔵の護衛で付いて来ていたモレーノが飛行機に非常に熱心に興味を示した
ので、頼んで僅かな時間、上空を旋回して周りの地形調査を兼ねて飛んでも
らった。
モレーノは飛行機から降りてくると、興奮と感動に身体が震えているのが富蔵
にも分かった。
撫で回す様に機体を見ていたモレーノが、飛行士のサムにサンパウロの飛行
学校は幾ら卒業まで掛かるか聞いていた。

サムと何か話していたモレーノは肩を落とし、がっくりとして富蔵の所に来た。
そして馬を引いてくると町に帰る支度をしていた。
全ての話が終り後はサンパウロで図面設計をしてくれるという事で、サムは飛
行機で飛び立って行った。

富蔵は町で用事があるので事務所に戻る時に、事件は起きた。
先頭にモレーノと犬が歩き後を富蔵が馬で付いて歩いていた。突然に犬が吼
えながら草むらに突進したと同時に銃声がした。

銃弾が富蔵をかすめて飛んだ、同時にモレーノの手に拳銃が握られ、瞬時に
撃ち返していた。
草むらにモレーノの馬が突進して行くのが見えた。
パンパンと連続して拳銃の発射音がすると後は静かになった。

モレーノが急いで戻ってくると怪我は無いか、様子を聞いて来た。幸いにかす
り傷も無しで助かったが、襲撃した相手はその場でモレーノの反撃で死んで
いた。
胸を撃ち抜かれて、手にボルトアクションのライフルを持って倒れていたが、
止めに頭に1発撃ち込まれていた。

富蔵はモレーノをプロのガンマンと感じた。冷静に瞬時に身を動かして馬上か
ら拳銃で敵を倒す腕に富蔵は驚いていた。

モレーノは富蔵を町の事務所まで送り届けると、警官を連れて現場に戻って
行った。その夜遅く、モレーノはアマンダ兄弟達と事務所に居る富蔵の所に戻
って来た。
飛行場の造成計画の話をして全てをまとめていた所で、彼は今日の事件は
『全て済んだ・・』と言うと座り込んだ。

富蔵はウイスキーをグラスに注ぎ、皆の前で今日の事件の礼をモレーノに言
うと、グラスを合せて乾杯した。
そして、モレーノにサムの飛行操縦学校の保証人になることを伝えた。
彼は飛び上がる様に喜び、ウイスキーを飲み干すと、いきなり踊り出した。
よほど嬉しかったのか、しばらく皆と床が抜ける様に騒いでいた。

興奮が収まり、モレーノが富蔵の手を握り感謝の言葉を述べて居たが、絵美
の出産を控えて、危ない命を助けられた事のお返しとしては安いお礼と感じて
いた。
モレーノが犯人は地主に雇われていた殺し屋だったと教えてくれたが、指名
手配されていた男で、警察は手配ポスターを壁から破り捨てて、直ぐに帰宅を
許してくれたと教えてくれた。

その翌日、リオ・ベールデ駅に富蔵に連れ添って、手にカバン一つ持ったモレ
ーノがいた。
汽車が来ると家族と別れを惜しんでいたが、サンパウロに初めて旅立って行
った。汽車が動き出して、富蔵はモレーノと昨日の襲撃の話していた。

富蔵の問いに彼は『私の犬は訓練しているので、かなり離れた所に潜む人間
でも嗅ぎ出す事が出来る』と教えてくれた。特に銃器を持つ人間は、銃の手入
れにガン・オイルを使うのでその臭いを覚えていて、かなり遠くからでも嗅ぎ付
けると話していた。

富蔵は昨日の現場の様子を思い出していた。襲撃者が持っていたライフルは
ガン・オイルで磨き上げられ、銃床の木は染み込んだオイルで光っていた。

富蔵はサンパウロに落ち着いたら自分の犬を連れてきたら良いと話していた。
富蔵は内心、あの時、犬が藪に突進して吼えなければ襲撃者は慎重に狙い、
自分を撃っていたと感じていた。
突然の犬の吼え声と襲い掛かる犬の気配で、動揺して引き金を引いたと思っ
た。自分も犬を飼おうと決めた。
モレーノが子犬が居るから自分の犬を連れて来る時に、ついでに持ってくる
と話していた。
汽車がサンパウロの到着してタクシーで自宅に帰って来た。
昔、パブロが寝ていた屋上の部屋に、これからの生活の場とする様に教え、
食事は下の食堂で食べるようにした。 夕食の後、モレーノを連れて近所のあ
ちこちを道案内して教えていた。
ある家の前に来たら、門柱に鎖でオートバイが括られて、それには『売ります』
と書いてあった。
まだ新品のオートバイで直ぐにモレーノが興味を示して、羨ましそうに見ていた。
幾らか聞いてみようとしていたら、イタリア系のでっぷりと太った女性が出て来
た、『欲しいのかー!』と聞いて来た。

『息子が事故を起こして、アワヤ死ぬ所であった』と話して、『幾らでも良いか
ら持っていけ・・』と言うと奥から鎖のカギを持って来た。

『こんな危険なオートバイは我が家にはいらない・・』と言うと、さっさと『幾らで
も良いから・・』と言って鎖をオートバイから外すと、目の前で、オートバイのカ
ギをヒラヒラさせていた。
富蔵は財布を取り出して、大体の値段を考えてかなりの紙幣を取り出すと目
の前に差し出した。
こちらが拍子抜けするほど簡単に『チョイと待って、車検証と売買成立の証書
を出すから・・』と家の奥に戻った。

婦人が書類を持って家から出て来ると、そのあとを車椅子に乗った若い男が
泣きながら付いて来た。
『やめてくれー!お願いだから・・』と叫んでいたが、母親が書類を富蔵に押し
付けるとカギを手渡し、『さっさと持っていけ!』と車椅子を必死に捉まえて怒
鳴った。

モレーノがオートバイに飛び乗ると、エンジンをキックしてスタートさせた。
『ドド・・・』と軽いエンジン音が響き、『早く後ろに乗って・・!』と叫ぶモレー
ノの興奮した声がした。

富蔵が後ろ座席に飛び乗ると、タイヤを軋ませて急発進させていた。
後ろで悲痛な泣き声がして、『オートバイを返してくれ・・!』と怒鳴る声がして
いた。
家に帰る途中、ガソリンを満タンに入れて帰宅したが、オートバイをガレージ
に入れてモレーノが笑顔で『明日から飛行学校の通学に使って良いか・・』と
聞いて来た。

富蔵も大笑いでうなずいていた。

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