2012年11月28日水曜日

第2話、伝説の黄金物語、(32)


 スミス氏の救出、

夜が開けても、各自が持ち場に隠れて何処に居るのかも分からなかった。
静まり返った林の中で鳥達が朝の訪れを賑やかにさえずっていたが、人の気
配などは何処にも無かった。

微かに10時ごろになると太陽が輝きだし、町外れの飛行場でエンジンをテ
ストする様な音が、切れ切れに聞こえて来た。

富蔵も養蜂手伝いの若者と犬を2匹で茂みに隠れていたが、静かな林に溶
け込み、その直ぐ先にはリオ・ベールデから来た若者がトンプソン・マシンガン
を構えて身軽な様子で隠れていた。

突然、エンジン音が響き離陸すると感じた。遠目でも見える2機が軽く町の
上空をゆっくりと旋回しだした。複葉機の翼の先が赤く塗られた、飛行士サム
の愛機が緩やかにこちらの牧場の林の上空まで来ると、いきなり低空で爆音
高らかに木々の上をかすめて飛び去った。行動開始の合図と感じた。

富蔵は自分の銃器を再確認して点検していたが、背中に背負った日本刀の紐
も結びなおして背中で刀が飛び跳ねない様にした。腰の拳銃は最初の2発は
散弾を入れた蛇撃ち様の弾に交換していた。水筒から水を飲むと、養蜂手伝
いの若者にも飲ませ、行動開始の全ての用意を済ませていた。

町の上空では花火が上がり、軽く宙返りをする飛行機が皆の関心を集めてい
た。突然、2機の飛行機が平行して牧場の上空に飛来すると、エンジンの轟
音をわざと響かせて強盗団を誘うように飛んでいた。

それが終る直ぐ後に、若い4名の強盗団の連中が林から出て来た。
手には各自ライフルや散弾銃が握られ、腰には拳銃を差していた。

上空では華やかなキリモミ飛行や赤い発炎筒の煙を引いて宙返りなどが始
まった。サムの飛行機が真っ直ぐ上昇すると急にこちらに飛んで来ると、
ポーン!と45度の角度で信号弾が円を画いて飛んだ。同時に重なった銃声
が響き一瞬で4名の姿が吹き飛んだ。

富蔵達は林に犬を先頭に突進した。養蜂手伝いの若者がホセの犬に引か
れて前を進み、馬が囲いに6頭繋がれ、飛行機の爆音で暴れていた。

側にテントがあり中に誰かが居ると感じ、マシンガンを構えて藪を透かして
見るとまさにスミス氏がテントの中で両手と両足を縛られたまま、簡易ベッド
に座っていた。
しかし、富蔵達はギョッとして動きを止めた。側に黒人の男が調理用の大き
な包丁を構えて立っていたからであった。コックらしく白いエプロンを腰に巻
いて、側では湯気が出ているフライパンと鍋があった。

突然、林の外で拳銃を速射する連続した音が響き、同時にマシーンガンの
トトト・・、と断続的な轟音が響いた。
コックは一瞬ひるみ、逃げ様と構えたその隙を富蔵は見逃さなかった。
犬が2匹、コックに向かって突進して行った。

富蔵もトンプソン・マシンガンを猛烈な連射でその男の頭上に撃ちまくると、
近くの藪を制圧する為に用心に弾倉が空になるまで掃射していた。

コックが度肝を抜かれて呆然と犬を相手に必死に逃げ惑っていた。
空になったマシーンガンを捨て、背中に背負った日本刀を抜きながら犬達
に包丁を振り回すコックに突進した。
相手が包丁一本しかないことに安心して、先ずテントに居るスミス氏の縄
を切った。

自分の拳銃をスミス氏の手に握らすと、コックと対峙して犬を避けようとし
た一瞬の隙を付いて相手の手元に飛び込み、小手一本を決めて相手の
腕を切っていた。浅く切ったのだが、鮮血が飛び散り男がその場にへたり
込んだ。

犬達がコックを囲むように激しく吼えて威嚇していた。
富蔵は救出成功の信号弾を林の中の木々の間から空に打ち上げると同
時に、2機の飛行機が轟音と共に上空を通過して行った。囲いの馬が狂っ
たように暴れていた。

スミス氏の弟が駆け込んで来るとスミス氏としっかりと抱き合って無事を喜
んでいた。
富蔵は養蜂手伝いの若者を呼び、コックの傷の手当てをさしていたが、コ
ックは命乞いをしてうずくまっていた。
全てが一瞬で決まり、味方には誰も死傷者などもいなかったので安心した。

4名の賊は、ただ一人だけ重傷だが動ける男が居て、拳銃で反撃したので、
先ほどの銃撃戦となったようだ。でもこれが幸いして全てが終ったので、今
は皆の顔に安堵の表情があった。パブロが現場に皆の乗馬を引いて来た。

ホセも馬車を移動してくると、皆に食事の用意を始めていた。まずピンガの
酒を開けると、コップに注ぎ回してスミス氏を囲んで乾杯した。
食事が配られ皆が空腹を充たすと、スミス氏の弟が警察に連絡を取る為に
馬で町に向かった。
リオ・ベールデから来た若者達4名は現場に残り、富蔵達はスミス氏を連
れてホセの養蜂農場に移動したが直ぐに、サムとモレーノの二人が駆け付
けて来た。
皆の無事を喜び、賊のコックまで生け捕りにしたので、これまでの数件の事
件が解決すると喜んでいた。

その日の夕方までには、スミス氏弟の尽力で町の警察と連邦警察にも交
渉して、今日の現場と捉まえたコックも引き渡され、コックの証言で町の警察
官の内通者も逮捕され、前回の人質の遺体も掘り出されていた。

全てのケリがついて、その夜は皆がホセの養蜂農家の庭先で大きな焼肉の
宴を開いた。スミス氏兄弟が皆の手を取り感謝の言葉を言って、皆の労をね
ぎらっていた。
翌日、スミス氏の警察での事情聴取が終わるとサンパウロに戻る事になった。
サムの飛行機にスミス氏兄弟が乗り、モレーノの機には富蔵とモレーノの犬、
持ち込まれた大量の銃器類が汽車に持ち込めないので飛行機で持ち帰る
事になった。
パブロは新しい砂金採掘現場の管理と今回のスミス氏の事件での後始末を
する為に居残り、リオ・ベールデから来た若者達4名は列車の一等車で帰宅
する事になったので、飛行機の出発を見送ってくれた。

途中、給油で一回着陸してサンパウロ郊外のサムの飛行学校の滑走路に降
り立った。そこには連絡を受けたスミス氏の家族が全員で待ち構えていた。

先ず奥さんと子供達がスミス氏と抱き合い、涙を流して喜んでいた。
その隣で、スミス氏の弟が富蔵をスミス氏の両親に紹介してくれたが、父親
は喜びを全身で表して富蔵を抱きしめて感謝の言葉を何度も言ってくれた。
母親も同じく感謝の言葉を何度も言って、富蔵を明日の夕食に招待してくれた。

富蔵はその招待がこれからの人生を、大きく変化する事になるとはまだ何も
気が付いてはいなかった。
サムとモレーノの二人も招待されていた。

食事の招待が富蔵を巨大なユダヤ資本の組織に足を踏み入れさせる第一歩
となった。

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