2012年12月31日月曜日

第3話、伝説の黄金物語、(40)

ドンと呼ばれる資格

ブラジルでの富蔵達の仕事も順調に動いて、何事もなく平穏な日々がしばら
く続いた。富蔵はサンパウロでサムの飛行場の事務所に通い仕事をして居
たが、モレーノはリオ・ベールデの飛行場を中心に飛び回って居た。

週に2~3度は必ずサンパウロに飛んで来て、忙しい時はサンパウロで泊ま
っていた。 モレーノにも彼女が出来て、リオ・ベールデに新居を構えて家庭を
築き幸せな時を過ごしていた。
運送業も貸し金庫を合せて繁盛して町では大きな事業となっていた。

パブロもポルトベーリョとリオ・グランデ・ドスールを行き来して事業を見ていた。
子供も出来て現地に溶け込み、彼の親戚も集まり事業を益々強固にして繁栄
させていたので、全ての事業で大きな収益が出ていた。

時は進み、時代は動きヨーロッパでの動きが激しくなり富蔵達にもその様な
話が伝わってきた。
スミス商会やダイヤモンド商会などと、仕事を通じて入る情報は正確で遠い
国の情勢が刻々と入って来ていた。
それと同時に日本からの国策移住が進められ、ブラジル各地で移住地や入
植地が出来ていたので、富蔵も上原氏の両親を通じて話を聞き、興味を
持っていた。
その頃には富蔵も現地人の間では、トミーと呼ばれ言葉も不自由しなくなって
居た。
その富蔵にも二人目の子供が生まれて平穏な幸せな時期をすごしていたが、
ある日、出かけたリオ・ベールデに滞在して居る時に、近所で建設された日本
人の入植地で日本人が襲われ、何人か怪我をして若い女性が連れ去られた
と言う事を仲間が知らせて来た。

日本人達が助けを求めていると言う事を富蔵は聞いて、じっとしておれずに仲
間のアマンダに相談して、三人ばかり腕の立つ若者を急に集めてもらった。
トラックに十分な武装をして乗り込むと、四名で1時間ばかりの入植地に向か
った。

日本人移住地の集会所に着いた時はまだ騒動が収まる事無く、入植者達が
不安な様子で薄暗い集会所で相談をしていた。
富蔵達が訪ねると最初は不安の表情で居たのだが、富蔵が日本語で『騒動
が起きて困っていると言う事で、同じ日本人として手助けをしたい・・』と申し出
た。
直ぐに中の責任者らしき男が丁重に挨拶して、事の事態を説明してくれた。
土地の境界線からの争いだと説明してくれたが、隣の牧場主が境の隣接する
日本人の家を襲い、その家の子供の18歳と15歳の姉妹を連れ去って、そこ
の土地から立ち退くまで姉妹を人質に取った事がことの発端であった。

富蔵は若い日本人の姉妹を気ずかって、直ぐに馬を出して牧場主の家に連れ
て来た若い男を走らせた。
伝言は簡単な一言であった。事が解決するまでなんであろうと若い日本人女
性には指一本触らない様に警告させた。そして・・、リオ・ベールデのアマンダ
兄弟達が後ろに居る事も相手に知らせるように話しておいた。

急いでトラックを町に引き返させ、アマンダを連れて来るように頼んだ。
移住地では富蔵達に夕食が出され、事の成り行きを上手く解決してくれるよう
に移住地の長老達が頭を下げて頼みに来て、娘の両親が床に頭を着けるよう
に救助を頼んでいた。
町の警察より先に来た富蔵に皆が驚いていた。食事が終わりしばらくして、車
の騒音がしたので外に出るとトラックが2台、その前にフォードの自家用車が
止まっていた。
モレーノが車から降りてくると、富蔵から事の次第を聞くと憤然として牧場主の
行為をトラックの荷台に乗せてきた若い衆達に説明すると、口々に牧場主の
横暴を非難した。
その時、馬で牧場主の家に話しに行った若い男が馬を飛ばして戻ってくると、
『相手は驚いて了承した』と伝えて来た。

直ぐに牧場主の家の前までトラックを連ねてフォードの車を先頭に押しかけた。
アマンダ兄弟の二人とモレーノと富蔵4名と、護衛の若い男が5名ばかりが周
りを囲んで玄関口の前に立った。

玄関は開け放され、明かりが外まで点けられて、牧場主が青い顔をして出て
来た。
モレーノが前に進み出て、『リオ・ベールデ運輸倉庫会社』のドンで日本人
移住地の相談役が貴方に話しに来たと伝えると、家の奥から日本人姉妹が連
れて来られ、先ず富蔵に引き渡された。

富蔵は近寄ると『何もなかったか?』と聞いた。安堵で喜ぶ姉妹が、うなずくの
を見て直ぐにフォードの車で移住地に送り届ける様に指示した。

案内された応接間で酒が出され、富蔵が『今回の揉め事が上手く解決出来る
様に来た』と話すと、相手も了承して地図を出して境界線を示して来た。

牧場主も富蔵達の押しのある威圧感に日本人移住者の言葉の分からない人
達に接する態度とは正反対の態度で小さくなっていた。
手短な交渉でお互いが譲り合うと言うことで明日、町の登記所で移住者達を
交えて正式に境界登記をしてサインする事が決まった。
グラスに酒が注がれ、明日の約束の時間を確認すると乾杯した。

富蔵達は帰りに移住地の集会所に立ち寄ると明日の登記所の事を詳しく説
明して、時間に登記所に集合するように説明した。
移住者達とは感謝の言葉で別れたが、帰り道の車の中で、 モレーノとアマン
ダ兄弟が

『貴方はドンの資格がある男だ・・』と言ってくれた。

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