2013年1月12日土曜日

第3話、伝説の黄金物語、(43)


 運命の出会い、

富蔵は日系女性の名前も知らなかったが、丁度良い湯加減で気分の和ん
だ頃に、彼女が自分の名前はリカと教えてくれたので、名前で呼んでいた
が下着も着る物も何もかも店で焼けて、着ていた服も血だらけで、とても
着れる様な状態ではなかったので、

富蔵は、「リカ、今からお前の着る物を探してくる」と言って部屋の外に
出ると、外でドアを叩く音がしていた。
誰かー!聞くと、先ほどの靴磨きの少年であった。富蔵は直ぐにこの子供
に聞いて服を探そうと思った。
先ほどの靴磨きの少年がニコニコしてドアの前に立っていた。

富蔵は少年に脱ぎ捨てられた服や下着を見せて同じ物を探すように命令し
た。少年は笑いながら全てを納得したような顔で「お安い御用・・」と言うと、
黙って手を出して金を要求して来た。
金と彼女の服と下着をスカートに包んで少年に手渡した。
「この服はどこで買ったか知っている・・」と富蔵に言うと、あっと言う間に
消えて行った。

富蔵はとりあえず自分の肌着とワイシャツを用意しておいた。
そして興奮した自分を落ち着かせるために、冷たい水を飲み干していたが、
興奮は収まる事無く、脳裏に彼女の裸体の姿が焼きついた画像の様に思い
出されていた。

バスタオルで身体を包んだリカが出て来ると富蔵のワイシャツを素裸の上か
ら着ていたが、小柄な彼女の身体がすっぽりと隠れてしまった。下は何もは
いてはいなかったが身体が全体隠れて、洗った髪の毛をバスタオルで包ん
でイスに座り、彼女も冷たい水を飲んでいた。
その時、ドアの外で靴磨きの少年の声がして、「服を買ってきた・・」と戻っ
て来た事が分かった。
少年は町で一番の高級洋服屋の主人に、リカの事を話すと、5分で全部用
意してくれたと話していた。リカはその店では最上のお得意様であったようだ。

包みを開けるとリカが満足の笑顔を見せて隣の部屋に行き、着替えていた
が、彼女がいつも購入していたサイズとデザインを知り尽くした店の主人の
計らいで、満足の服であった。
リカは普段着の服に着替えると先ず少年に礼を言うと、燃えた店の様子を
聞いていた。
すっかり燃え落ちて灰になった様だが、彼女は富蔵に若い衆を二名ばかり
貸して下さいと聞いて来た。
「自分の部屋に置いていた耐火金庫を取りに行くから・・」と話した。

富蔵は少し驚いたが、直ぐに先ほどの二人の若い衆を呼んで歩いて店の
焼け跡に出かけて行った。まだ微かに煙が残っていたが、彼女が住んで
いた二階の部屋の下辺りに間違いなく耐火金庫が灰の中に転がっていた。

まだ暖かい耐火金庫を灰の外に押し出して来ると、それを見て安堵の表情
をしていた。富蔵に小声で「自分の全財産が入っている・・」と教えてくれ
た。この耐火金庫はサンパウロで買ったドイツ製だと話していたが、中が
燃えていたらその中身を全額補償するという優れた金庫だそうであった。

若い衆が二人で小型ながらやっと持ち上げられる重さで、靴磨きの少年が
何処からか借りてきた手押し車に載せると、富蔵の居る家に戻って来た。
部屋に金庫が運び込まれると、彼女は金庫を開けるので、皆を部屋の外
に押し出して一人で金庫の扉を開けていたが、富蔵だけ呼ばれると手助け
をしてくれと言う事で金庫を開ける手伝いをしていた。

簡単に金庫が開くと、中には砂金の袋や現金、貴金属、宝石などがびっ
しりと収納されていた。
金貨も奇麗にそろえて紙筒に入れて何本も入っているのが見えていた。

リカは現金を札束で取り出すと、部屋の外にいる若い衆と靴磨きに幾らか
ずつ手渡していた。
それが済むと皆に礼を言うと、当分はここに居ると言ってドアを閉めてし
まった。富蔵にも服の借りたお金と言って、かなりの金額を手渡していた。

それからリカがホテル2階の最後の場面を話してくれた。
ホテルが燃え上がり、2階で人質にされて、その時はこれが最後と覚悟した
が、男が急によろけて膝を突いて、抱き抱えられた身体を離したので、男が
首から下げていた宝石入りの皮袋をもぎ取り、その男を押し倒して逃げたと
話してくれた。

リカが部屋の隅に隠していた皮袋を持って来ると富蔵に見せてくれたが、
小さな手の平に入る様なナメシ皮の袋であった。
リカが話してくれたがそれはエメラルドでもダイヤモンドより高価な最上のエ
メラルドであった。
彼等の射ち合いはそのエメラルドの争奪であったと教えてくれた。

手の平に少しエメラルドを出して明るい電球の下で見るとその素晴らしさが
富蔵にも分かった。
エメラルドの話が済むとリカが疲れたと言って、今夜はここで泊まると言う
事を富蔵に聞いていた。
地味な普段着の服装をすると物静かに感じる女性で、これが化粧して派
手な洋服を着ると、見違える様な女に豹変していた。
でも妖艶な彼女の身体の線は隠す事は出来なかった。

その夜、寝る時刻になり富蔵が彼女にベッドを譲ってソフアーに寝ようとす
ると彼女が強引にベッドに富蔵の手を曳いて連れて行った。

富蔵は彼女に『妻子があるから・・』と断った。
すると『今晩だけでも忘れてくれ・・』と彼女が懇願した。
そして『私が商売女だから・・・?』と悲しそうな顔で聞いて来た。

彼女は真顔になり、『今回の事件で命拾いをしたので、完全にこの世界
から足を洗いたい』と富蔵に告げた。
『今まで日本人の血を引きながら、一度も日本人の肌を味合うことも無く、
今まで何事も無く、身体を痛める事も無く生きてこられたのは、貴方に出
会う為だったかも知れない』と言った。
そして、『どこか知らない土地に連れて行ってくれ・・』と懇願していた。

身寄りも、親戚も無く、ブラジル人の母親はすでに亡くなり父親の日本人
も行方が知れず、おそらくマラリアで死んでいるだろうと話していた。
富蔵は少し可愛そうに感じたその目は、ウソは言っていない事を示して
いた。

それだけリカが話すと富蔵の前にひざまずいて、両手を合わせて
『お願い・・!』と懇願した。
そして『貴方がもし私の身体に不安があれば、私は神に誓って絶対に
病気などは一切無い事を誓える』と富蔵にすがるように言って、
『もしもその様な事があれば貴方が護身用に所持している拳銃で撃ち
殺して下さい』とも言った。しばらくして・・、

ホテルの2階で、これで最後と思った時に、男から逃れられて、渦巻く
炎の中で耳元でささやく母親の声が聞こえたと話してくれ、『直ぐに助け
に来るに日本人が居る』と聞こえたと言った。

それと同時に『飛べー!飛び降りろー!』と言う声がして貴方が見え
たとリカが話した。
富蔵の心に衝撃が走り、言いようの無い感動さえ感じていた。
何か運命の出会いと感じた。

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