2013年1月23日水曜日

第3話、伝説の黄金物語、(46)


日本人の流浪歴史、

先月の終わりから、半月ほどメキシコに旅行していました。

バッハ、カリフォルニアの突端、カボに滞在していましたが、富蔵と同じ様
にメキシコに移民して、メキシコ各地で、事業や農業を起こしてまた消えて
行った日本人が居る事を知りました。

富蔵はブラジルに腰をすえて、家庭を持ち事業を起こして成功して、また
家族の悲劇にも巻き込まれて、どん底まで落ち込んで人生の道を歩いてい
たのですが、メキシコでも、1897年の榎本メキシコ移住者達が最初で
すが、メキシコ各地に移住した日本人達が1941年の第二次大戦前まで
に、1万2千人程度いたようです。

ブラジル移民の18万人程度、ペルーに移住した2万6千人程度からした
ら僅かな人数ですが、メキシコ革命時期にキユーバに転住したり、アメリカ
に移動したりした人達も居たようです。

移民会社が送り出したメキシコ移住には3社あり、熊本移民合資会社、東洋
移民合資会社、大陸殖民合資会社の取り扱いによるものが殆どですが、そ
の他にバッハ・カリフォルニアへの漁業移民が海外興業株式会社により漁師と
して送り込まれています。

その末裔か知りませんがカボのホテルの受付に4世という女性が居ましたが、
名前だけ日本人で、日本語の言葉も話せない女性でした。

顔形はメキシコ人の特徴でしたが、何代もの現地人との混血で名前だけ日本
人として残ったと感じます。メキシコの現地人達の結婚年齢は低く、昔は20
代では殆どが結婚して居ると言う話でした。

ひっそりと現地に溶け込んで名前だけ残り、自分には日本人の血が流れてい
ると言う人の言葉は遠き昔の日本人の歴史を感じます。

今ではブラジルの日系人達が、推定で27万人もの数が日本に出稼ぎに来
て、祖国の土を踏み、歴史のユーターンをしていますが、これも時代の変化
と思います。

富蔵達が活躍した時代も第二次大戦を挟んで、大きく変化して中には消え去
り、時代に埋没して行った人達もいました。
戦時中は日本人の指導者達や、知識階級などがブラジル政府に拘束され収
容されています。
それを逃れた日本人達も、特定の地域から自由に行動する事も出来なく、日
本人同士の集会も禁止されていた時期があったのです。
その様な世代の狭間の中でブラジル社会も大きく変化して動き出していたので
した。
富蔵達のビジネスも不穏な陰を広げる欧州の政治情勢を影響して活動が激し
くなって来ていたのである。

富蔵が妻子を同時に交通事故で亡くして、その事故から難を逃れた次男と、
長く同居して家族同然に生活していた日本人移住地から来ている雪子が、次
男の面倒を見ながら、オフイスで働いていた。

事故の全てがかたずいて49日の法要も済むと、絵美の遺言となった言葉を
皆が知っていたので事は早かった。
上原氏夫妻が移住地の両親に丁重に挨拶に出かけて、雪子の事で了解を得
て、婚約者という事で指輪も雪子に贈られた。

幼い次男はまったく雪子を母親同然に懐いて、本当の母親が亡くなったと言う
事さえ理解していなかった。
富蔵も仕事に追われて日が経つに連れて、絵美の言葉を心に思い出しなが
ら、まるで絵美の姿を感じる時があった。
それは絵美が着ていた服を雪子が着て次男を抱いて部屋から突然出て来た時
など、一瞬我が目を疑う事があった。

背格好が同じで、絵美が着ていた服などは何処もいじらなくても、ぴったりと
身体に合って着れると言う事はサイズがまったく同じと言う事であった。

富蔵がリオ・ベールデからサンパウロに戻って自宅に夜遅く帰って来た時であっ
た。食事を雪子が用意してくれ、富蔵もウイスキーを飲んで寝付いた次男を子
供部屋のベッドに雪子と見に行った時に、雪子の背中を見ていると衝動的に抱
きたいと感じた。
子供部屋からの帰りに、寝室の前で雪子を抱かかえると、ベッドルームに連れ
て行き、灯りを消した窓明かりの微かな中で雪子を初めて抱いていた。

富蔵は久しぶりに抱く若い雪子の女体を感激の思いで抱いていた。
絵美の思いは雪子に置き換わって、男の感情を激しく燃やして、全て雪子に
注ぎ込んでいた。
その夜は雪子を抱いて眠りに付いたが、その夜から絵美の夢は見なくなった。

翌朝、昔と同じ様に朝食は冷えたパパイヤの切り身とオレンジジユースに、ト
ーストのパンにバター、大きなカップにコーヒーがミルクをたっぷりと入れて用
意されていた。
ニコニコと笑顔で雪子が、かいがいしく富蔵に給仕していた。
その日から雪子の指にダイアモンドの婚約指輪が光り、次男もいつものように
ママと雪子にまつわり付いて、楽しそうであった。

その事があってから、富蔵の心の重い何かが吹っ切れた様に感じて、昔の
絵美に対して接していた様に雪子にも同じ心で接して、それが誰の目に見ても
富蔵の心が癒えたと感じていた。

その夜から雪子は富蔵のベッドで寝るようになった。

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