2013年2月2日土曜日

第3話、伝説の黄金物語、(49)


 ブラジルのコネ社会、

ダイヤモンド商会の社長から手紙が来た。
サンパウロのサム飛行学校の事務所で、富蔵達が仲間と運営方針を話し
ていた時であった。
事務員がサムに宛てた手紙を届けて来たので、その場で開封され皆の前
でサムが読み上げた。

ダイヤモンド商会社長の誕生日招待と、商談の話であった。
それには短く、『ブラジル政府郵便の委託運送関連の事項』と記載され
ていた。
これまで何度か話が出ていたが、委託郵便公用袋の定期運搬の話と皆は
思った。どえらい話が転がり込んだと感じた。

サムが興奮して皆に説明したが、それは業務委託運送でも、一番の安定
荷物として、信用と実績がなければ委託されない荷物であった。
公用袋は連邦政府の管轄で動かされ、連邦警察の警護が付いていた。

早速、サムが代表でダイヤモンド商会の社長に誕生祝いの招待受諾とその
お礼を兼ねて、政府の郵便委託運送の話を聞いてきた。

簡単に言うと、前回の営業飛行機墜落のトラブルの件で、社長の顔を立て、
上手く話をまとめて、納めてしまったお礼も兼ねていた事が分かった。
彼の友人である郵政公社の幹部から話を聞いて、その話を廻してくれたの
であった。

月、水、金の3回をマットグロッソの奥地からサンパウロに荷物を運ぶ事
で、現在の業務からしたら飛行回数を1回増やせば問題なく運送が出来る
事が分かった。
安定した営業ビジネスと、信用を獲得する事になり、これまで以上に会社経
営が安定すると皆が感じていた。

荷物が、有る無いに関係なく年間契約で国庫から政府小切手で支払いが
受けられるという条件であった。
砂金や貴金属の宝石などより安定した運搬業務であった。

ブラジルのコネ社会では学校関係、会社組織、人種、ビジネス社会などの
繋がりの中で出来たコネが大きな力を持つ事なので、この話は最高のビジネ
スチャンスとなった。
全ての現在の組織と運営で、その政府委託業務が出来ると言う事は、収入
がいきなり40%程度増える事にもなった。

この事は交際費を増やし、会社としての営業も考えなくてはならないと皆が
考えて、富蔵の提案でリオ・ベールデ近くの砂金採掘現場に近い町に置いて
来たリカを使い、対外交渉と営業交渉の係りにする事を提案して皆が了承した。

営業本拠地のリオ・ベールデからは各地に連絡網が出来ており好都合であり、
サンパウロのサム飛行場は飛行学校と事務の統括本部としてまとまっていた
ので、これからの政府委託業務は何も問題は無かった。

その様な話が皆と合意してまとまり休憩となり、つまみと酒が出され、皆が久
しぶりに打ち解けて話をしていた。
政府郵便委託業務も上手く行きそうに話がまとまり、富蔵も妻子を亡くした心
の痛手も、雪子と結婚して残った次男と平穏な生活を取り戻して元の生活リ
ズムを取り戻していた時であった。

酒が身体に回り、話が弾み、皆の色々な話が出て笑ったり、驚いたりして
いた。するとサムとモレーノた立ち上がり、コップをスプーンで叩いて皆の注
意を引くと、大声でいきなり『富蔵おめでとう・・!』と言った。

きょとん!としたと富蔵に『何か分かるか・・?』とサムが聞いた。
富蔵は首をかしげて、考えて居たが『何の話かー?』と怪訝な顔で聞いて
いた。サムが神妙な顔で『リカがお前の子供を生んだ・・!』と言った。

富蔵は一瞬、ポカーンとした顔で聞いていたが、しばらく会っていないリカを
思い出していた。
電話では何度も話して会話があり、心も通じていた。

しかし、妊娠しているとか・・、出産するとか一言も言わなかったし、また誰も
教えてくれないし、話が無かった。

モレーノが神妙な顔で、『リカに頼まれて今まで秘密にしていた、貴方の妻
子が事故で亡くなり、また色々な事が重なり、彼女が絶対に出産すると言う
強固な意志と希望を止める事など出来ないし、出産して子供を手で抱くまで
誰にも言わないでくれと頼まれていた』

とそれだけ言うと写真をポケットから取り出すと、先週で丁度3ヶ月に成る可
愛い女の子だと言って富蔵に見せた。

呆然と立ちすくむ富蔵を皆が囲むと、肩を抱き、握手して祝福した。
アマンダの兄弟が『貴方の亡くなった子供の生まれ代わりと思う』と言って
写真を見せた。
富蔵は写真を手に、へたへたとイスに座り込んだ。
写真を見ると微笑を浮かべたリカに抱かれた可愛い黒髪の赤子が写っていた。
サムが『母子とも健康でリオ・ベールデ近くの同じ家に住んでいる』と教えて
くれた。
サムは言葉を続けて、『ブラジルはカトリックの世界、その教義は厳しい掟
があり、それと本人の固い意志で子供を生んだのであるから、我々がとやか
く言う事は出来ない、神に祝福されて生まれて来たので貴方の友人として、
この事業の仲間として大いに歓迎する』と言った。

皆が拍手をして賛意を表して、何処からかシャンペンとグラスが用意されモ
レーノが景気よくシャンペンの栓を抜くと、富蔵にグラスを握らせ乾杯した。
富蔵はシャンペンを飲み干し、少しアルコールが身体に回ると、心も落ち着
いて皆を見回して、感謝の言葉を言った。

『ここ1年以上は色々な出来事があり、何も知らなかった事が心悩ます事も
なく精神的なストレスも受ける事無く過ごせたのかもしれない・・』と皆に言っ
た。
その夜写真を手に帰宅すると、夕食が終わりコーヒーが出て食卓の前で神
妙に雪子に向かい会うと、写真を彼女の前に見せ、手短にリカの出会いか
らの事を告白して話した。

雪子は動じる事もなく、富蔵が話し終わると机の引き出しから手紙を取り出
すと写真を取り出し、『私にリカからの挨拶状が来ています、妊娠して出産
を決意して、貴方と富蔵が結婚した経歴を考えても是非とも産みたい事の意
志を持っていたので産んだと言う事が記されていた手紙です、写真も同封さ
れていました。
私が逆の立場でしたら私もどんな事があっても産みます。』と富蔵に答えた。

『モレーノの飛行機に搭乗を頼んでリカと子供に会いに行きますから・・・、』
と雪子が言った。

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