2013年2月21日木曜日

第3話、伝説の黄金物語、(56)


 非情の戦い、

富蔵達がサンパウロ南部の高級住宅地域に着いた時は、日も暮れていた。
刺客が居るアパート側の公園に着いてから、モレーノ達が居るレストランに同
席して、これからの皆の分担行動を手短に話していた。

モレーノが受け取った小口径ライフルでアパートの出口から出て来た刺客を
狙うと言う事が決まり、それをペドロが掩護して周りを見張るという事になった。

サムがモレーノ達が乗ってきた車を運転して、富蔵がモレーノ達が狙撃して逃
げるのを拾うという手はずに決めたが、チャンスがあれば刺客達を車内で狙撃
して倒し、その車で遺体を乗せて逃げるという選択もしていた。

サムは追跡されたりした場合は富蔵の車を逃がす為に妨害と護衛も兼ねて
いた。モレーノが双眼鏡をケースから取り出すと、テストしていたが、これは使
える物だと話していた。

全ての打ち合わせが済んで、皆がコーヒーで乾杯すると一人ずつ分かれて持
ち場に消えた。
富蔵は車を運転すると、アパートの入り口の前にある緩い下り坂の60mぐら
い離れた道端に停車した。モレーノが狙撃して駆け下りてくるのには丁度良い
距離と配置であった。
すでにモレーノは茂みに隠れて伏せていると感じた。

アパートの入り口を見張らせる良い場所にペドロが身を隠すように大木の陰
に隠れていた。背広の下に隠したマシンピストルのシュマイザーの膨らみも
目立たなかった。

アパートの入り口横の駐車場には車が二台しか駐車していないので、どちら
かに乗り込むと感じていた。サムはペドロの近くの道路端に駐車していた。
これで逃げ道を用意して、それも二重に用意が出来たと感じていた。

何かの時はペドロはサムの車に飛び込むと決めていたが、用心にサムはコル
ト45口径の自動拳銃に30発の長い弾倉を取り付けて膝の上に置いていた。

富蔵は手馴れた愛用の38口径の拳銃に、サントス港の襲撃の時と同じ散弾
を2発最初に装填していた。
富蔵は余り得意でもない射撃をカバーする為に、蛇撃ち様の散弾に猛毒を仕
込んでいた。殺すか殺されるかの瀬戸際では意外と緊急に対処できる弾であ
った。

皆が配置について、時間がゆっくりと流れていたが、時折道路を疾走して行く
車があるだけで通行人の姿も見られなかった。
一番上の場所で見張りと護衛でシュマイザーを抱えて隠れているペドロが、
微かに合図して来たのを確認した。 刺客の二人が動き出したようだと感じた。

狙撃するモレーノ の姿は何処からも見る事は出来なかったが、微かに薮が動
いた様に感じた。
男二人が両手にカバンを持つと入り口から出て来たのが見えた。緊張が走り、
富蔵も膝の上に置いた拳銃を握りしめた。

刺客の男二人は、カバンを車のトランクを開けて荷物を入れていたが、一人
が先に運転席に乗り込みエンジンをスタートさせたその瞬間、運転席に居た
男がハンドルにうつぶせになり、動かなくなった。

トランクに荷物を入れていた男は異常を察知して身構えたその瞬間、ゆっくり
と仰向けに倒れて行った。
ライフルの消音効果が良いのか殆ど富蔵の車の中までは銃声は聞こえなか
った。

ペドロがモレーノに走り寄り、渡されたライフルを掴むとサムの車に走り込んだ。
それと同時にモレーノが刺客達の車に走り寄り、運転席に横たわる男を助手
席に引きずると、車のトランクの側に倒れた男を後部座席に抱えて投げ込む
と、車のエンジンを吹かして発進させた。

モレーノが逃げる様に合図して来たが、その時、サムの車がヘッドライトを点
滅させたのを見た瞬間、光りの中に、向かい側の道にひっそりと無人で駐車
していたと思っていた車の中から、若い女が窓を開けて、自動拳銃を突き出
してモレーノを狙っているのを見た。

富蔵はハッとして無意識で拳銃を窓から突き出すと連続して2発、女を撃っ
ていた。

パン・パンと連続して銃声がすると散弾で窓ガラスが割れ、ギョッとする光景
が見られた。顔を血だらけにした女が拳銃を両手で握りしめ、フラフラと道路
に降り立つと富蔵を狙って道路を横切る様に歩き出した瞬間、丸いヘッドライ
トが疾走してくるとブレーキを掛ける間も無く女を跳ねた。

女をボンネットに跳ね上げ、そのまま公園側道路の縁石を乗り上げると大き
な立ち木に激突した。
ボンネット上の女は大木に挟まれ無残な姿を晒していたが、瞬間ボーン!と
言う音と同時に火炎が車体下のガソリンタンク辺りから噴出すと一瞬で車を
包み込んだ。

富蔵が気をとり戻してモレーノの運転する刺客の車を見ると、駐車場から出
て、道路を走り出す所であった。それと同時にサムの車が、横をペドロを
乗せて走り抜けて行きながら、逃げろと合図をして来た。

富蔵は車を発進させ様と窓から横の道路を見ると、車から手の届く様な近さ
に自動拳銃が転がっていた。ドアを開けて手を出して拳銃を拾うと同時に急
発進させた。開けた窓から立ち木に激突して炎上する車の火炎の熱が感じ
られたが、まだ時間的には2分も経過はしていなかった。

その夜、ダイアモンド商会が指定する場所に車を停めると、ガレージのドア
が締め切られ、狭いオフイスのソファに情報提供者が皆に座るように勧め
て、ウイスキーを出して来た。
それから電話を2ヶ所ばかり掛けると、皆で乾杯するとグッと飲み干した。

彼は先ほどラジオを聞いたと話して、『女を跳ねたタクシーは運転手も乗客
も両方とも死亡した』と話した。
黒人の助手が無言でガレージに入ってくると、先ずカゴを差し出して色々な
食べ物を出してくれた。
それが済むと、ガレージの脇に停車していた車から刺客の遺体を引きずり出
して、服装を調べて財布から、ホルスターに入れられた拳銃まで、全ての
物をテーブルに並べて、直ぐに服を剥ぎ取るとキャンバスの包みに入れてし
まった。慣れた手つきで無駄がなく、短時間で終った。

情報提供者は直ぐ荷物を調べ、カバンを開けるとスタンドの光りの下で書類
を見ていたが、急に電話に飛びつくと、『リオの刺客の居所が分かった・・』
と声を出すと、何処かに連絡して指令していた。ガレージのベルが鳴り、誰
か訪ねて来た。入り口のドアが開き、ダイアモンド商会の社長と保安係りの
幹部が現れた。

富蔵たちを見回すと一人一人握手して、肩を叩き、感謝の言葉を掛けていた。
彼は『これで生き延びられた・・、これで殺される心配は無くなったが、用心は
しなくてはならない・・』と言うと、保安係りの幹部が持つカバンをテーブルに置
くと、『これは会社の保安、警護の裏金だから』と言うと、分厚い札束を富
蔵達に手渡してくれた。
モレーノには自分の飾り指輪を外すとモレーノに手渡し、『2カラットのダイア
がはめ込まれている』と言うとウイスキーをもう一度皆のグラスに注ぐと、
『我々のビジネスの繁栄と連帯に・・』と言うとグラスを鳴らして乾杯した。

電話が鳴り、情報提供者が受話器をとると、『リオの刺客の居所が分かり、
見張っている』と報告が来た。
社長は『リオの刺客に死を・・』と低い声で言うと、キャンバスに包まれた遺体
にグラスの酒を垂らしていた。

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