2013年3月7日木曜日

私の還暦過去帳(353)


   訪日雑感(9)

バスが動き出して、町並みを見ていたら昔の面影など何処にも在りません。
高層ビルとか、小さな個人ビルがひさしを並べているだけです。

池尻まで走っても、すっかり様変わりした姿は続いていました。頭上はまる
で覆いかぶさる様に、高速道路のコンクリートが延々と続いていますので、
道路が薄暗い感じで、昔の広々とした感じが消えていました。

私が思い出すのは玉電がゴトゴトと2両連結などで坂を上っていた時代です、
今では地下鉄となって二子玉川まで急行では10分も掛からず行くと聞いて
驚いていました。便利になったものです、三茶のバス停に来て、そこでも驚
いていました。
まったく何処を見ても昔の有様は見る事は在りませんでした。
友達と夜遅く歩いた飲み屋の横丁などまったく、はて・・!と目を凝らして
探して見たけれど検討も付きませんでした。それくらい変化している街頭の
様を見ていると、今浦島と言う言葉が頭に横切りました。

下北沢方面に行く道が、あれだと言うことだけは分かりましたが、三茶から
上町を経由してネギ畑の中を走っていた玉電の終点辺りはビルの陰で皆目
分かりませんでした。学生時代に植木屋のアルバイトで良く通った所の辺り
は、全部ビルが並び、まるでコンクリートでかさ上げされた様な感じを受け
ました。
世田谷の町も、瓦葺の家などは表通りなどでは数えるほどしか残っては居
ませんでした。母校の校門前で降りて、収穫祭の準備をしている学内を見
て歩きましたが、遠い昔の学生時代を思い出しながら、あの辺にはまだ陸
軍自動車学校の古い宿舎が残っていたと思いながら見て廻って居ました。

あちこちで学生が準備作業で賑やかに飾り付けなどをしていました。
収穫祭は来週ですが、静かな学内を見て廻るのも久しぶりで、思い出が心
に浮かんで来るのが分かりました。来週また収穫祭に出席するのでそれを
楽しみにそこを出てバス通りに出て馬事公苑の方向を見ましたが、建物で
何も見ることは出来ませんでした。昔は入り口が見えていたのですが、ここ
も大きく変わっていました。
しばらく歩いて空模様が怪しくなり、またバスに乗り私が36年も前に住んで
いた所を見に行く事にしました。雨が降り出さぬ前に歩きたいと考えて居ま
した。
NHK技術研究所前で降りて、昔の覚えのある横道に入り、小田急祖師谷
駅の方角に歩き出しました。道は完全に綺麗に舗装され、家は殆ど見慣れ
ない新築の住宅でした。私が住んでいた一角は全て家並みが様変わりして、
どこかと探すのに苦労致しました。
やっとそれらしき所を見つけると、そこは見知らぬ建物が在り、我が家が在
った場所は全て取り払われて、建て代わっていました。

私の家を買った人の表札を見つけて、写真を写していましたが、長男を幼
稚園の帰りに迎えに行った野菜畑などは何処にも在りませんでした。
幼稚園の送迎バスが止まった場所は家が立ち並び、狭い道路がもっと狭
く感じていました。
長男を背中におんぶして歩いて家まで帰る間に、背中で寝入っていたのを
思い出していました。長男に最初の自転車を買ってやった表通りの自転車
屋さんがまだ残って居ましたので、覗いて見ました。そこを見てから、また
歩き出して、その辺りから見た昔の国立大蔵病院は陰も形も無くなり、立派
な病院に立て替えられて、名前まで変わっていました。

その横の住宅公団大蔵団地がまだ残っていました。
当時出来たばかりの頃は、子供達が沢山遊んでいた覚えが有ります。

団地と病院の間の道を抜けて今の公園がある辺りに、映画撮影用のスタ
ジオがあり、時代劇の「椿三四郎」などの撮影で三船敏郎氏がハカマ姿で、
スポーツ・カーで撮影に来ていた姿を見た頃です、昔、回りはネギ、大根、
白菜などが沢山植えられて、多摩川が見える辺りは国際家畜の養鶏所が
並んでいました。

今では公園緑地帯となり、まったく昔を思い出すことは出来ませんでした。
東名高速の下を抜けて、私が学生時代に住み込み書生をしていた、屋敷
を訪ねましたが周りは住宅が並び、稲作がされていた田圃もすでに在りま
せんでした。
44年ぶりの懐かしい道を歩き、柿の赤く熟れた実を見て、この辺りには
まだ世田谷の残りが有ると感じていました。

ポツポツと降り出した雨にカサを差して歩いていましたが、50年近く前に
一抱えもある大木が並んでいた農家はすでにゴルフ練習場になっていま
した。
住み込み書生をしていた屋敷のご主人に挨拶に行き、元気なお顔を見て、
子供も育ってしまい、誰も居なくなった静かな屋敷で生憎と奥様が外出で
不在でしたが話が弾み、しばらく時間の経つのも忘れて話していました。

大きな鯉が泳いでいた池は無くなっていましたが、遠い昔の思い出が近く
を走る東名高速の音にかき消される様でした。屋敷を出て、バス道路ま
で歩く道すがら風は冷たく吹いて、雨が全ての思いを洗い流した様に感じ
ました。

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