2013年3月12日火曜日

私の還暦過去帳(354)


  訪日雑感(10)

秋雨がパラパラ降る中を、傘を差して歩いていました。
二子玉川から和泉多摩川や国領に抜けるバス道路をポツポツと歩いて
いましたが、東名高速道路の架橋の下で少し降り出した雨の様子を見
ていました。
雨が降リ出して、タクシーなどの空車が殆ど在りませんでした。

私が今日の予定で是非とも見て置きたい家と場所が有りました。
それはアメリカに行くまで住んでいた最後の家ですが、18歳で東京に出
て来て世田谷周辺ばかり住んでいましたが、最後の最後は狛江の第6
小学校近くの家でした。
32年間一度も訪れた事が無いので、是非ともこの目で見ておきたいと
考えて居ました。近所に住んでいた方と、ワイフが文通していくらかは知
っていましたが、この目で見るまでは信じられないと言う感じでした。

国立大蔵病院近くの家を売って、増えた子供達の為にも買い換えた家
でした。アメリカに移住を決意した家でも有ります、私の人生の区切りと
して重要な家です。
ぱらつく雨の下で不意にタクシーが速度を落としたので、みると空車でした。

手を上げると直ぐに止まってくれ、『狛江第6小学校の側まで・・』と言うと
気軽に了解してくれ、走り始めました。
昔は田圃やレンコン田が広がっていた地域です。多摩川の土手辺りま
で見渡せましたが、今では建ち並ぶ家で何も見ることは出来ませんでした。

タクシーでは5分も掛からずに小学校横の水道道路に到着いたしました
が、そこで降りて歩いていく事に致しました。私が狛江を出る時に、近くに
都営住宅が出来ると聞いていましたが、それも昔に完成して、今では少
し古ぼけた感じの都営団地になっていました。

時代の移り変わりが激しい日本の街中です、昔を思い出させる風景は
全部消えていました。狛江保育園を目当てに歩いて行き、懐かしい我
が家が在った所に来ましたが、まだ所々に畑が少し残っていました。

近くに有った養魚場はすでに無く、長男と仲良しの子供がそこに住んで
いた場所はすっかり家が建ち並び、様変わりでした。

我が家があった場所はもっと細分され、建売で6軒最初に建った住宅
は、今では8軒に増えていました。すでに33年前に建てられた家は全
部消えていました。
日本の住宅の寿命の短いことを知りましたが、何か寂しい感じが心に
湧いて来ました。
私がアメリカに行くまで住んでいた家は取り壊され、両隣が敷地を半分
にずつ取り、3階建ての狭い家が2軒出来ていました。

奥の家はこれも取り壊され、2軒に増えていました。入り口の左側の家
はこれも同じで取り壊され、2軒になっていました。

狭い場所がもっと細分化され、小さな家となり、それが3階建てと言う
様な感じの背の高い小さな住宅と変化していました。
私は一瞬、心に浮かんだ事は、これでは日本人の住居と言う根本的な
変化で、人間の心まで小さくなって行ったと感じました。

微かに秋雨が降る中にしばらく佇んでいました。

現在の我が家は、この住宅全部の敷地相当に1軒だけ建っていると感
じました。アメリカに住んでいると、感じる事も無かった事が、胸に突き
刺さる様に湧いて来て、確かあの辺りで雨降る早朝の朝に、二階の窓
から隣の畑を見ていたと思いました。

スヤスヤと寝ている我が子達を見て、一度しかない人生をこの子供達
の将来に賭けて移住しようと決心した瞬間を思い出していました。

親兄弟、親戚も無い遠い異国のアメリカに、家族5人全員の将来を賭
ける事などです。
アメリカ移住を決心して、家を売り払い、ビジネスも同じく売り払い、ト
ラック、乗用車も売り払い、借りていた倉庫も解約して、全てのケジメを
付けて郷里に里帰りして、両親に子供達の顔を見せ、先祖の墓参りを
して旅立って行った日本を、この目で見て確かめたのです。

あの時の雨と同じ霧雨の様な、シトシトと降る雨でした。

道の真ん中に立って両側の家を見ていたら、何かキュー!と心に込み
上げる何かが有りました。

あの時、決心してアメリカに渡り、子供達の成長を楽しみにアメリカに
根を下ろした事が間違いではなかったと思いました。
人生一度限りの命です、何も悔いが無いと心に思いました。

狭い箱庭の様な感じの家です、その様な家並みが小田急線和泉多摩
川駅まで続いていました。
ゆっくりと歩きながら見た風景は畑などは殆ど無くなり、昔よりもっと小
型化した住宅が並んでいました。私が知る昔の風景からしたら、東京
はコンクリートでかさ上げして、高層住宅になり、郊外ではもっと家を
小さく建てて、細分化していると思いました。

駅から新宿まで出る間、高架になった小田急線から見る風景も様変わ
りして、何も昔の面影を探る事が出来ませんでした。

満員電車の中で人に揉まれながら、スシ詰めの感じを久しぶりに体感
して、新宿駅の巨大な人の流れに、渦のように巻き込まれた木の葉の
様におどおどと歩いていました。

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