2013年3月9日土曜日

第3話、伝説の黄金物語、(60)


 欧州での戦火の匂い、

見張りを残して、皆はダイアモンド商会社長のリオの別荘に、裏門から
入った。
ひっそりとした邸内は人の気配が余り無かったが、皆が車から降りると、
使用人が丁重に迎え入れてくれ、主人がサンパウロから直ぐに到着す
ると告げて、部屋に案内してくれた。

皆はひとまず部屋で寛ぐと、出された軽食と飲み物に手を出して、ラジ
オのスイッチを入れニユースに聞き入っていた。
出火した倉庫はすでに全焼して跡形も無く焼け崩れ、何も現在は出火
原因が分からないと話していたが、出火原因の調査が始まったばかり
で、全てが焼け尽くしているので、相当に調査の時間が掛かる様だと
ラジオが話していた。

ラジオの二ユースを聞き終わると、モレーノと情報提供者が、リオの組
織協力者の身柄をどうするか話していた。
皆が倉庫の襲撃に出ている間は、ガレージの中に手錠で監禁されてい
たが、その男の身柄処分をどうするか、現在は決めかねていた。
一応はダイアモンド商会の社長が到着して決めると話が決まった。

食事が済んで、一息ついた時に、社長が到着した事を使用人が知らせ
て来た。
社長の書斎に案内され、皆が安堵の顔で今回の襲撃成功を話していた。
会社の幹部も2名連れて来ていたが、早速捕まえてガレージに居るリオ
の協力者を尋問する事にした。
協力者の男は目隠しされ、後ろ手錠で、ガレージのイスに座らせられて
いた。

ガレージの隅で社長達幹部がイスに座り尋問を聞いていた。
情報提供者が座らせられた男の耳の横で、声低く質問していた。

『倉庫に何を集めていたか?』と聞くと、男の返事は無く、黙って天井
を見上げるように無言であった。何を聞いても男は沈黙を守り、意志の
固い事を見せ付けてくれた。

情報提供者がサジ投げて、モレーノにバトンタッチをした。
モレーノは拳銃を抜いて、弾倉を開け、弾を抜くと、その一発で座った
男の額を叩くと、弾倉に耳元で『バシャー!』と音を立てて装填すると、
ロシアン・ルーレットを始めた。

最初の一発は、撃鉄が『ガシャ・・』と音を立てて、男のこめかみで鳴
り響いた。男の唇から血の気が引き、足先が震えるのが分かった。

モレーノがもう一度耳元で、『何を倉庫に集めていたか?』と聞いた。
男の顔に苦痛の表情が走り、モレーノがゆっくりと引き金を引いて、キリ
キリという撃鉄が競り上がる金属音が微かに響かせながら、バシャー!
と引き金を引いた。

突然、男がうわごとの様につぶやき、
『助けてくれ・・、殺さないでくれ・・』と哀願していた。
モレーノは冷酷に眉間の押し付けた拳銃の引き金を、微かな音をさせな
がら引き絞っていた。
男が絶叫する様に『やめてくれ・・!話す、話す・・!』と喚いた。

モレーノは『では・・全て話せ、言え!』と耳元で命令するように言うと、
『自分の車のトランクにそのリストがあり、中のスペアタイアの収納して
ある下に隠してある』と白状した。

急いで外の駐車場に置いてある協力者の車のトランクが開けられ、スペ
アタイアが出され、中から小さな書類のファイルと、それにずっしりと重
い黒皮のカバンが出て来た。

社長の書斎にそれが運ばれ、書類がテーブルに広げられ、丹念に調
べていた。
情報提供者と社長幹部が、ドイツ語の書類を見ながら何か話していたが、
社長がスミス商会の社長に電話するのが分かった。
富蔵にも書類に何か真剣な、重大さを秘めて居る事が分かった。

社長は電話が終ると、モレーノに向かって『感謝します、この書類のフ
ァイルは金銭に代えられない 価値が有ります』と話すと握手して『この
事のお礼は後で致します・・』と話した。カバンからは工業用ダイアモンド
と札束、金の延べ棒が入っていた。

富蔵達のビジネスはブラジル奥地の砂金とダイアモンド採掘と、それに
関連した、運送業と僅かな田舎の金融機関のビジネスだけで、国際的
な世界情勢から見たビジネスなどは、とてもビジネス・チャンスをそこか
ら見つける事は出来なかった。

明日の朝、皆でサンパウロに飛行機で戻る事が決まり、それまで休憩
となったが、社長達は忙しく電話で対応していた。
モレーノや富蔵達も気が緩んで自室に戻り、少し昼寝をしていた。
目が覚めてテラスの木陰で飲み物などを手に寛いでいる所に、社長と
幹部が訪ねて来た。

手には先ほどの黒カバンがあった。社長は『これは今回、あなた達の
物として納めて頂きたい』と話すと、『工業用ダイアモンドは私が引き
取ったので、その対価は後で現金で払います』話してくれた。

社長はそれから、先ほどの書類の分析結果を話してくれた。
間違いなく欧州では戦火が開かれ、世界が混乱すると判断していた。

世界的なビジネスを開いているダイアモンド商会やスミス商会などは、
その商機を逃がさないように動き出すと富蔵は踏んだ。
そしてそれは重要な価値ある情報だったと思った。

社長は富蔵が日本人と言う事で、その予測できるこれからの動きを話
してくれた。世界情勢など詳しくは無い富蔵に、易しく説明してくれる
社長の言葉が有難かった。

日本では、日独伊三国の防共協定が結ばれ、日本は米英を中心と
した連合国から完全に敵対する情勢に陥ると話してくれた。
近い将来、ブラジルと日本の通商航海条約も停止される危険性が十
分と教えられると考えてしまった。

翌日、早朝に社長達幹部と富蔵達グループは2班に分かれてサンパ
ウロに戻った。
すぐさまサンパウロのオフイスでスミス商会の幹部達も揃い、会議が
開かれ、これからの世界情勢を見て、きな臭い欧州の情勢を踏まえ
て重要な会談となった。

ダイアモンド商会とスミス商会の重要な運輸交通を預かり、富蔵達の
ビジネスの運命も掛かっていた。その話し合いが済むと、富蔵達の
重要な課題として、先ず燃料の確保と備蓄を考えていた。

その夜遅く富蔵は自宅に帰ると、雪子の両親が結婚30周年と言う
お祝いに日本行きの船のキップをプレゼントする事を考えて、富蔵の
両親や家族に少し蓄えた資金と、お土産を持たせる事を考えていた。
両親が土地を増やして、畜産の仕事を広げる資金を欲しがっていた
からであった

後になってそれが正解であった。戦争が始まり、日本との交通が途
絶して、一切の資金的な流れも止り、ブラジルの日本人達も混乱と
限られた行動の中に押し込められたからであった。
世界情勢が緊迫化した様子を秘めて、動き出した事を富蔵は感じて
いた。

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