2013年3月17日日曜日

第3話、伝説の黄金物語、(62)


 時局の激変、

雪子の両親も初めての祖国訪問を果たして、沢山の日本からの土産を
手にブラジルに戻って来た。
時局の緊迫感とは裏腹に、日本の田舎では何も変化など無い平凡な生
活のようであった。
上原氏の家族で、沖縄に残っていた上原氏の弟が家族を連れて、雪子
の両親と同じ船でブラジルに移住して来た。上原氏が富蔵から教えられ
た時局の緊迫を考えて拡張した農場を任せられる弟を呼び寄せた様だ。

富蔵達が欧州の緊迫した情勢から予測して、その準備を済ませてしまっ
た頃に戦火が開始された。ドイツ軍がポーランドに侵攻したのだった。
これにより第2次大戦が勃発した。
ブラジルにもポーランド系移民が沢山来ていたので、祖国を案じる人々
も沢山居た。

緊迫感は切れて、後は世界情勢を間違いなく調査して、見誤る事無く情
勢を分析していた。破竹の勢いでドイツ軍が欧州を制覇する勢いを示し
ていた。

金相場が値上がりして、富蔵も手持ちの砂金や金塊などでかなりの利潤
が出ていたが、それと同時に富蔵達の会社も、前もって準備していたの
で、あらゆる事態に対処する事が出来た。
サンパウロの自宅にある日、富蔵が通う武道館の師範が訪ねて来た。

彼は日本からブラジルに武道の普及で来ていたが、裏では日系社会と
その人脈を利用して、日本政府の特務的な役割を担っていた様だ、その
噂はかなり前に聞いていたので、富蔵は用心していた。
富蔵が関係するスミス商会とダイアモンド商会の情報を欲しがっていた。

富蔵は用心して、あいまいな受け答えをしていたが、練習に行く武道館
の師範であるので、邪険には出来なかった。
そこでダイアモンド商会を訪ねた時に、社長に相談していた。

直ぐに内部調査が行われ、イギリスの情報機関から聞き込んで来た情報
を富蔵に知らせて来た。それによればドイツ大使館の駐在武官が道場に
通って来る仲で、かなり親しく付き合いがあるようだと言うことであった。

何か裏で動いて居るという予測がして来た。武道館の師範が動いている
事は、すでに目的があると感じていた。
危険な事か・・、それとも、この時局でブラジルの資源を目当てに触手を
広げているドイツと日本の連帯の為か・・、それまでは予測は出来ないが、
出来ない予測が不気味であった。

スミス商会の情報網に武道館の師範の動きが引っ掛かって来た。ドイツ
大使館の駐在武官と定期的に密談をしている事を掴んで来たのである。
その駐在武官はドイツの情報機関に属している事も判明した。動きが急
になって来た。

ブラジルに来る前は日本で2ヵ年ほど駐在武官をして、日本語もかなり勉
強して分かる様だと言う事も判明した。一連の動きから富蔵を標的に何か
彼等が動いている事を感じた。
ダイアモンド商会の社長が、戦火が広がれば戦争資材の急激な需要が
必要になる事は、 誰の目にも分かる事で、彼等が直ぐに何かの行動を起
こして来ると睨んでいた。

戦略物資のひっ迫した感じはブラジルにまで押し寄せてきていたので、
富蔵達のサントス港の倉庫に積まれた生ゴムの原材料は貴重で価値あ
るものであった。

ある日、道場で汗をかいて練習をして、富蔵が帰り支度をしていると師範
が声を掛けて来た。今夜、日本町で酒の一献杯でも交わしたい言う話で
あった。富蔵はその夜は予定がすでにあり、丁重に週末なら予定がない
と返事していた。

師範はそれでは土曜日の夜7時にガルボンブエの桜レストランでと言う事
を言って来た。富蔵は話しだけならと考えて、了解していたが、帰宅すると
直ぐにダイアモンド商会の社長に電話を入れていたが・・・、

電話の向こうで『直ぐに今夜、オフイスに来る様に』と社長から言われた。
重要な動きがあった事を掴んだという事であった。

サムにも連絡が行っていた様で、サンパウロに出て来ていたモレーノと
一緒に車で迎えに来てくれた。
三人でサンパウロの社長のオフイスに出向くと、そこにはスミス商会の社
長や幹部も来ていた。
話は簡単であった、英国諜報機関が接触して来て、ドイツに戦略物資を
渡さないようにと言う要請であった。

これまでの経緯の説明を受け、これからの欧州とアジアの動きを社長が
説明してくれた。それを話し終わると、社長が富蔵を見ながら『彼等と会う
予定が週末の土曜日だから、3日間あるので、その間に彼等を抹殺する』
と言う事を冷酷に話していた。

理由は簡単であった。『まだ接触する前なら彼等を抹殺しても理由が分か
らないのと、何の話しか分からない時に、彼等が死んでいけば富蔵が怪し
まれる事も無く、突然に全てが立ち消えてしまうから・・』と説明を受けた。

『冷酷な様だが、これで死人に口無しで、死人は生きて戻らない』と言った。

彼等は計画前の予備の情報接触とその収集をしている段階で、早く言え
ば芽を摘んでしまうと言う一番安全で、簡単な予防措置と言った。

そして話が終ると、最後にスミス商会の保安情報の幹部が、『我々の盗聴
に引っ掛かって話が全て得られたから』と言う事であった。
そして我々のビジネスの団結とそれを阻害する者は、何処の誰であれ、
抹殺すると言明した。
早く言えば死刑の宣告が二人に出たのと同じであった。

すでに盗聴で得られた情報を元に抹殺の実行計画も立てられていた。

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