2013年3月13日水曜日

第3話、伝説の黄金物語、(61)


欧州開戦前夜・・、

雪子の両親を移住地からサンパウロに呼んで、日本行き招待の話を明か
した。
飛び上がって喜ぶ雪子の両親達を見て、雪子が涙を流さんばかりに、顔
をクシャクシャにして喜んでいた。

富蔵は奮発して1等船客の乗船券を手配していた。
現在の富蔵の財政状態からしたら大した金額ではなかったが、移住地な
どに住んでいる人々からしたら、豪勢な日本行きと成っていた。
1等船客の荷物は殆ど制限が無かったので、富蔵も大きなトランクを5個
ほど持たせていた。
上原氏夫妻にも話して、アフリカのケープタウン経由で沖縄の那覇にも寄
航するので、荷物を沖縄の家族にも渡す様にしていた。

訪ねて来た上原氏に世界情勢が緊迫して来た事を知らせ、これからの日本
とブラジルの関係も悪くなると言う前提で考えた方が良いと忠告していた。

雲行きが怪しくなった欧州を見て、富蔵が両親や兄弟達が何かの時に、
安全に生活に困らない様に近所の山林とその脇の畑を買う様に手配してい
た。
雪子の両親達は家族に見送られてサントスの港から日本に旅立って行った。
富蔵も一度日本に帰国してみたいと思ったが、現在の状態では半年も暇を
作る事は絶対出来ない相談であった。

忙しい中に、日本から両親達の喜びの手紙が来ていた。雪子の両親達が
日本に持参した資金で予定の敷地が買い込まれ、残りの資金は貸家を3軒
ばかり田舎で近くの陸軍官舎用に貸し出されていた。

リオ・ベールデの根拠地に鉄道駅から引込み線を引いて、備蓄の石油タン
クの建設を考えていた。運送用の燃料はストライキなどでもひっ迫して、ドラ
ム缶で蓄えていたが微々たる量であった。

ダイアモンド商会の社長がサンパウロのサムの飛行場にも備蓄タンクの設
置を勧めてくれたので、それも工事する事にしていた。今は10キロリット
ルのタンクで、1ヶ月も持たなかった。

ダイアモンド商会が引き取った工業用ダイアモンドの代金分を使い、250
キロリッタのタンクを2基建設すると決まった。
主に航空燃料を備蓄する事にしていた。

その勧めが、欧州戦争が突発して、どれほどの役に立ったか知れなかった。
燃料が無ければ富蔵達のビジネスも先ず成り立たない事であった。

アマゾン奥地から生ゴムを集める事も軌道に乗せて、ルートを作りサントス
港近くの倉庫に現物が積まれた。
金塊の値段がジリジリと値上がり始めて、政局が緊迫して来た情勢が富蔵
にも分かった。

早目に工事を始めたので、建設資材も備蓄用の燃料も何も問題なく集める
事が出来た。
ダイアモンド商会が石油の先物買いをして、かなりの石油を買い占めてい
たのも、強いバックアップで、富蔵達にもそのおこぼれが廻って来た。

ドイツの新興勢力は壊滅したらしく、その後は殆ど情報が途切れていた。
ダイアモンド商会の社長はスミス商会と協力して、イギリスとアメリカの情報
機関に接触して情報を得て調べていたが、それも僅かなドイツ大使館の駐
在武官達が動いているだけの、裏の情報が入って来た。

彼等ドイツ勢力からから押収した秘密書類から、サントスの港町に居た一人
の協力者を探し出し、その協力者も闇に消してしまった。

全て協力者と言えども、抹殺してしまった事は、手掛かりさえ全て消してし
まったと言う事で、当分は彼等の組織再編成も無理と感じていた。

ダイアモンド商会とスミス商会の世界を繋ぐ情報網と、富蔵達の泥臭い現場
の情報網が組み合って、戦局に傾く欧州情勢を利用して、ビジネスチャンス
とその用意を準備してしまった。

リオ・ベールデには予定どうりに鉄道駅から近い、富蔵達の敷地まで引かれ
た引き込み線を使い、石油備蓄タンクが出来上がり、貨車のタンク車が石
油を運び込んでいた。

サンパウロのサムの飛行場もすでに備蓄が完了していた。
サムの飛行場は二重に防御柵をして、備蓄タンクの周りには土を盛り土手
を作り、外部に見えないように100mばかり離れた場所に目隠しの林を作
る為に植林もされた。

サムの発案でアメリカから飛行機のエンジンオイルや部品などもまとめて輸
入されて来た。
ブラジル政府の郵便委託輸送も大きな力となり、政府の割り当てと統制価
格で燃料を手に入れる事が出来た。

独ソ不可侵条約が締結され、もはや開戦前夜の様相を見せて来た。

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