2013年3月23日土曜日

第3話、伝説の黄金物語、(64)


 
襲撃成功、

襲撃する時間まで富蔵達は軽く食事をして、コーヒーカップを前に善後策
を話していた。万が一、このトラックで交通事故に見せかけて襲う計画が
破綻したら、その場で二人を射殺する事を緻密に図面を画いて話していた。

モレーノと遅れて来たペドロが持参していたシュマイザーを使う事を決め
ていた。これは最後の最後で取る手段であった。

モレーノは消音拳銃と予備の弾倉だけで曲がり角の潅木に隠れて居る事
を決め、富蔵がハンドルを握って坂道をトラックの後ろから走り、もしもトラ
ックが仕損じたら、そのままトラックの横を走り抜けながら、駐在武官のハ
ンドルを握る姿にマシンガンの一連射を与えて走り去るという実行計画で
あった。射手はペドロが担当していた。

最後の襲撃確認は潅木の陰に隠れたモレーノが見届けて、二人への止め
の射撃をするという事が決まった。モレーノは少し降りた下り坂に車を停車
させる事にしていた。

この襲撃は練習などはまず出来ない相談で、ぶっつけ本番で実行するし
か時間がなかった。サムは別の車のハンドルを握り、いざと言う非常事態
に備えていた。
予定時間が来て皆が、新しく入れてたコーヒーで乾杯した。

スミス商会の幹部から駐在武官達が出発したと連絡が来た。
それぞれ、持参の銃器を点検すると車に乗り込み、目的地に出発した。
富蔵達が乗車した車が丘の上のレストラン近くに来た時には、すでに大型
トラックが道路工事の土砂やコンクリートを積んでエンジンをアイドリングし
て待機していた。

側には見せかけだけの工事現場があり、徐行のサインが出され、坂下に
は旗を持った男がヘルメットを被り工事現場の標識の横に立っているのが
木々の間から小さく見えていた。全ての準備が出来ていた。

富蔵は確認の為に車の窓を開け、タバコにライターで目立つように火を付
けた。トラックの運転手も窓を開けてライタを光らせ、タバコの煙を吐き出し
た。その横をサムが運転する車が通り抜けて行き、坂をゆっくりと降り始め
た。
下の工事現場の標識の横で光りが瞬き、旗が振られるのが目視された。
それと同時にトラックがエンジンの轟音を立てて動き出した。その時、駐在
武官と師範が乗った車が曲がった坂道を、ゆっくりと登ってくるのが見えた。

富蔵は帽子を深々と被りなおすと、トラックの後ろを付いて坂道を降り始め
た。トラックが加速するのが分った。あと残りの2カーブ目の曲がり角が犯
行予定場所で、時間的に絶妙なタイミングを計り、トラックが加速している
のが分った。
富蔵は自分が握るハンドルが、汗で湿っているのが分った。
トラックが絶妙なタイミングでカーブの曲がりに進入しようとしていた。
同時に駐在武官がハンドルを握る車のボンネットが見え、曲がりに差し掛
かった。

トラックがスピードを少し上げてブレーキを軋ませながら、タイヤから白煙
を上げて、のし掛かる様に車の横のドア辺りに突っ込むのが分った。
異様なタイヤ音と、物が潰される音と、人間の悲鳴と、絶叫が一瞬聞こえた。

トラックの荷台から土砂とコンクリートが飛び散るのが見えた。
駐在武官の車が一瞬で消えていた。トラックが車を側壁に押し潰して原形
が無かった。潅木の中からモレーノが飛び出して来るのが見えた。

流れ出したガソリンが坂に細い筋を引いて流れていたのを見たモレーノが、
いきなり火の付いたタバコを投げた。『ボーン!』と言う鈍い音がして、する
すると火炎が逆に登りだすと一瞬にトラックと押し潰れた車を包んだ。

それを見届けると同時にモレーノが自分の車に乗り込み、その紅蓮の火炎
から逃げる様に急発進して坂を下って行った。
富蔵もトラックの運転手が座席から逃げ出し、微かに『早く逃げろ・・』と合図
するのを見ると、モレーノの車を追い掛けて坂を走り降りた。

遠くの高級住宅の窓が開き見物する姿が微かに見えていた。
火炎を見た車が何台か近寄って来たが、トラックの運転手が、『車の燃料
が爆発するから逃げろ・・』と言うと、あっと言う間に集まった車が消えてし
まった。

その頃にはトラック全体に火が包み込んで燃えていた。
その様子を離れた場所からサムが車窓からジッと見ているのが分った。
何処か遠くに消防車のサイレンの音が聞こえて来るとサムの車も消えて
いた。

皆の車が隠れ家に戻って来るのは早かった。スミス商会の幹部が待ち構
えて言葉短く『成功した・・』と言うと、その後は無言で酒を用意していた。

グラスに注がれたウイスキーやビールが出され、ダイアモンド商会の社長
がスミス商会の社長と幹部とグラスを合わせ、言葉短く『今日の成功は、
これから我々のビジネス繁栄にも繋がる・・』と言うとグラスを飲み干した。

夜が更けて、今日のトラックの事故処理が開始され、警察と鑑識課が現
場を見ていたが、完全に焼け落ちた車両は無残であった。

トラックの運転手が状況を説明して、積荷が重くカーブでハンドルを取られ
て衝突したと現場を指差して、タイヤの跡などから事故と見なされて、捜査
は型どうりに進みあっと言う間に終ってしまった。

道路工事会社からの責任者と弁護士がドイツ大使館に陳謝と見舞いに、
深夜にもかかわらず訪れ、今回の事故を説明して警察の報告書を後で届
けると言ってその夜の話が打ち切られた。
全ての情報はスミス商会の保安幹部に集められ、皆に説明されていた。

富蔵達が家に戻る明け方には、街角のスタンドに新聞社の朝刊早刷りが
出ていた。モレーノと富蔵が車を道端に停車させて、新聞を覗き込んで居
たが、小さく紙面に『ドイツ大使館の駐在武官が事故に巻き込まれて死亡』
と言う短い記事が載っているだけであった。

富蔵は白々と夜が開けて行く中で、呆然と新聞を手に街角に立っていた。

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