2013年4月4日木曜日

第3話、伝説の黄金物語、(68)

 

 
危機一発・・、

警備艇が近寄るのを高速艇はスピードを落として待っていた。
モレーノが大袈裟な身振りで挨拶して、ジェスチャーで愛嬌を振りま
いていた。
船室の僅かに開けた窓から、ペドロが富蔵の横で慎重に狙撃ライ
フルで狙っていた。
情報提供者達から無線のラジオで、その警備艇はナチのブラジル
海軍の狂信者達が無断で出港させたと警告の知らせが来た。

富蔵はそれを聞いた瞬間、飛行機の襲撃と警備艇の臨検が不自然
に感じ、情報が漏れたと感じていた。
サントスに本部を置く情報提供者達の中から4名の若い衆を選んだ
が、1日前に今回の行動予定を知らせたばかりで、他は絶対に情報
が漏れると言う事は考えられない事だった。

そう考えるとこの船に密告者が居るかもしれないと本能的に感じ、
ワルサー自動拳銃を密かにスライドを引いて弾を装填すると、抜き撃
ちできる様に、ズボンのベルトに隠した。

ユダヤ人の逃亡者達の横に移動して、薄暗い船内の光りで何処に
誰が居るか確認していた。富蔵の目に4人連れて来た若い衆の一人
が、落ち着かないそぶりをしだしたのに気が付いた。金髪のガッシリと
した体格の男であった。

船内の小さな窓からみると、真横に警備艇が接近して、三名ばかり
の水兵が腰には拳銃を持ち、中の一人はカービンライフルを構えて
いた。
警備艇の機関砲に二名の水兵が居るのが分った。銃口はこちらの高
速艇の操舵室を狙っていた。

富蔵はペドロに近寄ると小声でささやいた。『裏切り者の密告者が居
る、あの金髪を注意しろ・・!』と言った。ペドロは微かに親指を立てて
了解のサインを出した。
狙撃ライフルから目を離さず、側のシュマイザーを片手で引き寄せて
いた。

富蔵は直感的に接船と同時に何か起きると感じて、上着の下でワル
サー自動拳銃を握り、安全装置を外していた。ユダヤ人達をかばう様
に船底の入り口のドアの横に押しやって、身を低くする様にさせた。
子供二人は船底の下の部屋に隠れさせた。それと同時に警備艇の
汽笛が短く鳴った。

金髪が拳銃を取り出して隠れているユダヤ人達を狙う瞬間、富蔵が
先に立ち塞がり金髪の男を撃っていた。至近距離で瞬時に、同時に
弾が発射されていた。

富蔵は間違いなく相手の顔面を撃ち抜いていた。
その銃声の瞬間、胸に重い痛みが走った。

富蔵はよろけると同時にモレーノに撃てと声を掛けていた。
ペドロが瞬時に狙撃ライフルで機関砲の射手を倒していた。側の一人
も折り重なる様に機関砲に寄り掛かるように崩れた。

富蔵は胸を押さえてよろけながら窓際を見ると、モレーノが使い慣れ
た拳銃で至近距離の水兵を抜き撃ちで三人共倒すのが見えた。
ほんの僅かな短い時間であった。

警備艇にモレーノが乗り込み、船室の入り口からカプセルのような物
を2個投げ込んで、ドアを閉め高速艇に走りこんで来た。

2mばかりジャンプして飛び込んで来たと同時に高速艇がエンジンを
最高に出力を上げた事が分かった。ペドロが甲板の陰に隠れて警備
艇の操舵室をシュマイザーで掃射するのが見え、窓ガラスが飛び散り、
50mばかり離れた時、ブロウニングの重機関銃が短く警備艇の水面
スレスレの喫水線辺りを集中して弾を撃ち込むのが分った。

時間にしたら10秒もしない短い時間であったが、ズシーン!と腹の底
に響く爆発音が聞こえて、警備艇の船腹が一部めくれる様に飛び散る
様子が見えた。何か船底で爆発した様であった。

高速艇は急激に加速すると、1分もしない内に警備艇から、かなりの
距離を疾走していた。モレーノとペドロが金髪の男を海に投げ込むの
が見えた。

富蔵は胸の違和感を感じて座り込んでいた。
ユダヤ人達は富蔵が撃たれたかと勘違いして、おろおろしながら船底
入り口ドアから出て来た。中の女性は涙声で目の前の至近距離の射
ち合いの銃声で、富蔵がうずくまっている姿にショックを感じている様
子であった。

モレーノが駆け寄ると『撃たれたのか・・』と言いながら富蔵の顔を覗
き込み、左側の胸を押さえているジャンパーの前を広げて見ると、
ヘー!と言う様な顔で、『見事に防弾チョッキの鋼板の真ん中をか
すっている・・』と言うと・・・、
『なんと言う幸運な男か・・!』と叫んで大袈裟に抱きついて来た。

ペドロが船内に入って来ると『警備艇が沈没したのが遠目で見えた』
と言った。
それと同時に『肩先を弾がかすった様だ・・』と言ってシャツを脱ぐと
救急箱から消毒薬を取り出すと、情報提供者達の若い衆に手助けし
てもらいながら、傷口を消毒して包帯を巻いていた。

警備艇の操舵室から撃たれたと話していたが、シュマイザーで応戦し
て、間違いなく相手を倒したと話していた。傷口は弾が皮膚を擦過傷
のように薄く切り裂いていた。
今回の作戦は味方にも富蔵とペドロの二人が傷を負った。

富蔵は防弾チッキの下の胸が青くあざになっているのを見た、あわや
と言う事態の難を逃れたと感じていた。おそらく真正面であれば肋骨
の骨折は免れない事だった感じた。
今回は少し斜めでの相手の発射角度で弾が横に弾いて、強烈なショ
ックが無かったと感じた。
幸運の神が微笑んでくれたと心の中で感謝の祈りをしていた。

子供の顔と妻の雪子の笑顔が重なり、モレーノ達が無理に防弾チヨッ
キを着けてくれた事が幸運の始まりと心に感じていた。

ともあれ無事にユダヤ人逃亡者達を危機一髪から逃して、無事にサ
ムが待機する水上飛行艇まで向かう事が出来たのは幸運と感じていた。

飛行艇がぐんぐんと近寄って来るのが分った。早朝で周りには船の陰
もなく絶好の集合海域と感じた。
モレーノがサムの水上飛行艇が側に来たと富蔵に知らせてきた。
若い衆が4個の荷物を甲板に出し、子供二人を毛布で包んで接続の
ゴムボートの用意をしていた。
サムが操縦席から手を振る様子が見える距離に近寄った。
飛行艇の横のドアが開き、ロープが投げられ、高速艇と繋がれた。

まず救命胴衣付けた女性と子供二人がモレーノとペドロに支えられな
がら飛行艇に乗り移った。
その後、男二人と、 荷物と富蔵が乗り合わせて上手く飛行艇に乗り移
ってしまった。
モレーノとペドロが荷物を軽々と抱えてゴムボートを切り離した瞬間、
轟音を上げて高速艇は走り去って行った。時間にしたら5分も掛かって
はいなかった。

サムが『ウエルカム・・!客人達よ・・、』と声を掛けると、機体の両側の
粗末なキャンバスのイスに座りシートベルトをする様に指示した。すで
に滑走を始めていた。

金属音に近い轟音が鳴ると座席に押し付けられる圧迫を感じ、直ぐに
ふんわりと上空に浮かんだという感触を感じていた。

微かに轟音の音の中にユダヤ人達の祈りの言葉が聞こえていた。

0 件のコメント:

コメントを投稿

登録 コメントの投稿 [Atom]

<< ホーム