2013年4月10日水曜日

第3話、伝説の黄金物語、(70)

アンデスの山越え・・、

飛び立った飛行機は最近アメリカから購入した中古のDC-2の双発機
であった。

サムがアメリカ陸軍航空隊の出身だから、そこで採用され、輸送機と運
用されていたことから、その優秀な性能と4トン半の貨物積載量を聞い
て、その当時改良型のDC-3が1936年からの本格的商業運用と普
及で、旧型になったダグラスDC-2の払い下げられた機体を改良して、
ブラジルで貨物と旅客の混合用にしていた機体であった。

アメリカ軍が第2次大戦中C-47型輸送機として、空の貨車と異名を
取り、約1万機も生産された優秀な機体と旅客運送の革命を起したDC
-3は同じ飛行機であった。

1936年中に就航、瞬く間に当時のベストセラー旅客機となり、1939年ま
でに600機以上生産され、その輸送機の生き残りが頑丈な機体と強い
車軸で現在でもアラスカの空を、鮭の集荷などに、辺地の荒野に低圧
タイヤと新しいエンジンを装着して離着陸して、70年も経て集荷業務を
していると聞いた事が有ります。

モレーノは熟知した機体を操縦して順調に飛行をしていた。巡航高度に
なり、貨物も無く、僅かな人数の乗客ではメンドッサまでかなり早い時間
に天候も恵まれ、到達すると計算していた。
メンドッサまで、片道約2500kmの距離で丁度増油タンクを増設して
十分に間に合う距離であった。

自動操縦にして、モレーノも一休みしていた。電波信号で送られて来る
飛行航路の上を単調に飛んでいた。全て順調に見えたのだが、注意す
る情報としてサムがスミス商会の担当幹部から、緊急に得た情報として
入電した事が、少し気がかりな事であった。

メンドッサの飛行場での出入国管理官がドイツ系でゲルマー二ア協会
に加盟したナチの協賛者である事が判明した。ブラジルからアルゼンチ
ン入国となるので、一応は入国事務を受けなくてはならないので、もしも
その少ない人員の出入国管理官が、そのドイツ人が担当したら、ユダヤ
人達の言葉の発音や、服装などからして、逃亡ユダヤ人達と判明する
可能性が大であった。
ドイツ政府が全力を挙げてユダヤ人逃亡者を追っている時で、ドイツか
ら持ち出された秘密情報の大きさからしたら、何をしてくるか分らなか
った。
モレーノと富蔵は操縦席で額を付けて騒音の中で話していた。
飛行時間は到着まで約5時間、到着時点でメンドッサ飛行場で、そのド
イツ系が勤務しているかが、重要な事となって来た。

すぐさま電信でサムにメンドッサの上原氏の親戚に連絡して、調べて貰
いたいと連絡した。直ぐにサムから上原氏に内密に調査の要請が有り、
アルゼンチンのメンドッサの親戚に連絡が飛んだ。
上原氏は直ぐに事情を察して電話でメンドッサの親戚に頼み込んでい
たのだが、快諾してくれ、仕事上の繋がりもあるので簡単に引き受けて
くれた。
メンドッサの上原氏の親戚は 理由は聞かなくて、何か裏があると判断
して直ぐに動いてくれたと感じた。
丁度飛行場係官達の制服の契約定期洗濯日となっていたので、その
洗濯する制服を車で取りに出かけると返事が来ていた。
ありがたい事で、安心して着陸でき、またユダヤ人達を危険の事態に
追い込む事が避けられると感じた。

飛行時間2時間半過ぎる頃に、電信が来た。そのドイツ系係官は今日
は非番で休みと言う確認を取って来たと連絡が来た。
24時間勤務の翌日は一日非番で休みと言う勤務交替を確認してくれ
た。モレーノと安堵して、その事は心配するからユダヤ人達には話さな
かった。
追い風で、かなり早いスピードでパラグワイ国境近くに入り、パラナ河
近い上空を順調に飛んでいた。
2時間チョッとで、すでに機体も軽いので、950km以上は飛行していた。
メンドッサにはパンパの大草原を飛んで、かなり追い風に恵まれて予
定時間より早く到着した。
微かにアンデスの雪を頂いた山々を見ながら着陸したが、燃料も良
い飛行コンデションに恵まれて余裕に残っていた。

管制官にチリへの飛行経由での燃料補給着陸許可を申請して直ぐ
に許可が出た。着陸して駐機場に停止すると若い係官が車で来ると、
モレーノが機長として富蔵とペドロを乗員として示し、ユダヤ人達の乗
客は機内でパスポートを見ると直ぐに返してくれた。
あっけない簡単な入国審査であった。

係官が帰り際に、『今日の午後のアンデス越えは最高の気象条件だ』
と教えてくれた。直ぐに頼んでいた給油車のタンクローリが横付けされ、
給油を開始した。

モレーノが機体の重量を軽くする為に、燃料は半分だけの給油を頼
んでいた。メンドッサからでは、僅かな飛行距離でアンデスを越えれ
ば直ぐにチリのサンチャーゴまでの距離で給油量は半分で心配な
かった。
若いガッシリとした男が給油していたが、富蔵は監視の為に飛行機
の搭乗口に見張り、ペドロが地上に降りて立ち会っていたが、ユダヤ
人達は機内から出なくて、窓からも顔を出さない様に注意していた。

しかし子供二人は興味があるのか窓から給油の様子を見ていた様だ、
給油が終り、ホースを収納した男がペドロから給油代金を受け取り、
飛行機を見上げると一瞬顔色が変わるのを富蔵は見逃さなかった。

とっさにワルサーPPKを飛行服の隠しポケットから取り出すと安全
装置を外していた。タンクローリの座席から何か取り出すのが見え、
ペドロを跳ね飛ばすと搭乗口に走り込んで来た。
追いすがったペドロを拳銃の銃握で殴り倒すのを見た。

とっさにユダヤ人達に座席の下に伏せるように怒鳴った。モレーノ
が操縦席から飛び出して来たので、早く離陸する様に怒鳴った、
それと同時に階段を駆け上がる音と同時に、男の拳銃を握りしめた
腕が機内に見えた。

富蔵はいきなりその腕を扉の横に隠れて蹴り上げた。カラカラと乾
いた音がして拳銃が吹き飛び、その男の髪の毛を掴むと頭を思い
切り膝蹴りしていた。
かなりのショックで二度ほど顔面に膝蹴りを入れると搭乗口の前
で大きく崩れて倒れていった。
エンジンのパカパカと言う始動する音が響くと、いきなり轟音が響
き出した。
富蔵は気絶した男を引きずり出すとトラックの陰に放り出し、車輪
止めを外して、パブロを抱きかかえる様にして機内に連れ込んだ、
その時は機体は動き出していた。

まだ暖かいエンジンは直ぐにフルにエンジンの出力を上げていた、
機体のドアを閉め、頭を抱え込んでいたパブロを座席に座らせる
と、操縦席に急いだが、モレーノが管制官と交信するのが聞こえ、
離陸許可を復唱するのが聞こえた。

DC-2はエンジンの轟音を響かせながら誘導路から滑走路に出
ると、そのまま離陸して行った。直ぐにアンデス山脈の最高峰のア
コンカグワの山が見えて来た。
午後の夕日に赤く染まる山々の頂は雪が光っていた。
ユダヤ人達がペドロの頭の傷の手当てをしていたが、僅かに血が
滲んでいるだけで心配は無いと感じた。

国境を超え、チリの管制官からの応答にモレーノが答えているの
が聞こえ、今日は最高の天気だ教えてくれた。着陸予定の飛行場
は郊外の民間飛行場で金鉱山のオーナーが所有する飛行場であ
った。
金持ち達の飛行クラブと自家用飛行機の格納庫が並び、業務用
飛行機も並んでいた。
まだ夕暮れ前の明るい内に飛行場に到着した。上空を旋回すると
ユダヤ人達から歓声があがり、すでに駐機場の側には迎えの車と、
その人影が並んでいるのが見えた。

ゆっくりと着地して滑走して駐機場に誘導された。エンジンが停止
して、数人の地上係官が来るのが分った。
搭乗口が開かれ、階段が据えられ、まず制服の係官が笑顔で機
内に入って来ると、
『サンチヤーゴにようこそ・・』と言って、パスポートを見てスタンプ
を押すと荷物も見ないで降りて行った。

まず二人の子供達と母親が手を繋いで降り始めた、階段の下に
は初老の夫婦が花束を抱えて、両手を開いて迎えていた。悲鳴
に近い泣き声がして抱き合う姿があった。
男二人はそれを見て、涙を隠すようにハンカチで目頭を押さえて
いるのが分った。

富蔵とペドロが荷物を降ろす用意をしていたら、若い使用人達
が駆け寄り、荷物を車に運んで行った。モレーノは地上の係官と
話をすると、飛行服のまま持って来たカバンを手に富蔵達を誘
って出迎えの人達の歓迎を受けていた。

鉱山主の執事が使用人を連れて挨拶に来ると、丁重に今日の
飛行の労いをまず言って、『主人はいま家族との再会でのちほ
ど挨拶に伺います』と言うと、まず飛行機を管理をする係官を紹
介して、搭乗して来たDC-2を 滞在中は責任を持って管理す
ると話してくれ、モレーノから鍵を預かった。

後は使用人達が皆のカバンをもぎ取るように手にすると先に車
に運んで行った、執事がモレーノと富蔵ら三人をリムジン高級車
の後部座席に座らせ、執事は助手席に座ると、『まずはお疲れ
ですから、屋敷にご案内させて頂きます』と言うと、運転手に命
じて車を発車させた。

山間の広大な屋敷に到着すると、執事の案内で各自に大きな
部屋が割り当てられ、お風呂にでも入って着替えるように勧め
られ、部屋には使用人が一人付いて世話をしてくれた。

着替えて執事が三人を食堂の広間に案内すると、そこにはユ
ダヤ人家族四名と共に逃亡して来た中年の男が手を差し出し、
身体を震わすように感謝の言葉を腰を低くして何度も言ってく
れた。
それが済むと、後ろから主人夫婦が出て来ると、同じく腰を低く
して丁重に今回の危険な家族の南米入国とチリまで送り届けて
くれた事に、夫婦で何度も感謝の言葉を話していた。
まずはシャンペンが運ばれて、今日の無事の到着を祝った。

オードブルが運ばれ、食前酒も配られ、話も弾んでいた。鉱山
主の膝に子供達二人が戯れて、ポケットから何か差し出すと富
蔵に見せながら、鉱山主のおじいちゃんに
『サントス沖でブラジル貨物船から高速艇に乗り移り、そこで
の射ち合いで、身を挺して弾除けの代わりをして私達を助けて
くれた』と言うと潰れた拳銃の弾を見せていた。

船底の階段で拾ったと言って、おじいちゃんの目の前に突き出
すと、この人は弾も弾き返す身体だと説明していた。そしてメン
ドッサの飛行場でも誰かが拳銃を持って機内に襲い掛かって
来たが、素手で襲った男を倒して、逃げる事が出来たと説明し
ていた。
鉱山主は驚愕の表情で富蔵を見ていたが、富蔵が『防弾チョッ
キに救われました』と言うと、子供を膝から降ろすと、富蔵の前
で膝を付くと、手を握り締めポロポロと涙をこぼしながら感謝の
言葉を言っていた。

主人が床に膝を折り、感謝の言葉を言う姿に皆が驚き、見詰
めていたが、主人が立ち上がると、その事をもう一度みなの前
で説明して、『この方に、この5名が救われた・・』と言った。
シーンとして皆が富蔵を見ていた。

モレーノがシャンパンの栓を景気よく音を立てて抜くと、執事に
頼んでグラスを並べると、『もう一度乾杯ー!』と言うと、ドッと
歓声があがり後は、もみくちゃになるように人が集まり、グラス
を差し上げて何度も乾杯の声が響き渡った。

富蔵とモレーノにペドロが順に酔いつぶれてしまうまで、歓待
は夜遅くまで続いた。

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