2013年4月14日日曜日

第3話、伝説の黄金物語、(71)

秘密情報の価値、

昨日、富蔵は真っ先に酔い潰れて寝てしまったので、余りその後の事は記憶
に無かった。酒に弱い富蔵は何度かの乾杯で酔ってしまった。

テーブルのご馳走も少しばかり口にして、乾杯のグラスを合せに来る人と挨
拶していたが、いつの間にか使用人達に脇を支えられて部屋に戻った様だと
思った。
しかし今朝はぐっすりと寝て目覚めは爽やかであった。シャワーを浴びて風
呂から出ると使用人が朝のコーヒーをベランダに用意していた。

直ぐに執事がドアをノックして富蔵に朝の挨拶をしに来た。ユダヤ人の一人
が今日の午後、アメリカの貨物船でロサンゼルスに出港すると告げ、その前
に朝食でも同席して、お話をしたいと申し込んで来た。
モレーノとペドロはまだぐっすりと寝ていると執事が教えてくれた。

富蔵は願っても無い事だと直ぐに了解して、同席を願っていた。
執事は使用人に命じて、急遽テーブルが作られ、朝食が用意されていたが、
それと同時に中年のユダヤ人が手を差し出しながら部屋に入って来た。

テーブルに座る前に彼はもう一度、今回の助力に感謝してから、自己紹介を
していたが、アメリカのパスポート名のデイヴィドと言った。
出生はアメリカのカリフォルニア州だと言ったが、ドイツ語のアクセントなが
ら英語も堪能で、富蔵とは英語で話していた。
欧州での戦線拡大で、資源の獲得危機が増えてから、商売人達のユダヤ人
迫害がナチス・ドイツ自身の首を自分で絞めていると話していた。

彼は機械生産の重要部品であるベアリング生産に詳しい技術者で、ベアリ
ング無しでは飛行機のエンジンも戦車の車軸も生産出来ない事を説明して
くれた。

そして彼が関与していた生産設備のラインで重要な情報をキャッチしたので、
それをマイクロフイルムに写し、金鉱山主の家族の手助けで一緒に脱出し
て、逃亡ユダヤ人となったと説明してくれた。

富蔵が知らない別の世界のビジネスであったが、ベアリング生産に関与し
てそこから得た機密情報を持ち出した事は、何か重要な戦局を左右する情
報を握っていると富蔵は感じた。
執事が『時間が無いので、港まで車の中でも続きを話しますか・・』と聞いて
来た。
お互いに話は尽きなかったのだが、ユダヤ人は鉱山主とその家族達に、お
別れの挨拶をして玄関先で、一緒に逃げて来たユダヤ人家族と何度も抱き
合って別れを惜しんでいた。
富蔵は鉱山主の家族達に、港まで見送りしながら話しの続きをすると言うと、
主人が執事を呼んで、何事か話していた。

目立たない車が用意され、執事が前に座り、後部座席にユダヤ人と富蔵が
座って、貴重な時間を惜しむように話し合っていた。車の後ろに護衛の車両
が1台付いて来るのが分った。

富蔵にとっては絶対に他では聞けない生の情報であった。彼の言葉が貴重
に感じ、その言葉を噛み締めるように聞いていたが、港までの道は短く感じ
た。
貨物船のタラップ下まで車を横付けして、タラップの下のテーブルで出国ス
タンプを貰うと、富蔵と抱き合い、アメリカに是非とも尋ねて来る様に言うと、
スミス商会の社長や幹部に宜しくと言う言葉を富蔵に頼むと、トランク一つ
を手に、タラップを駆け上がって行った。

その帰り道、執事が『ランチには早いのですが、美味しい日本食が食べれ
ますのでご案内致します。』と言って港下町のレストラン街に連れて行って
くれた。

店に入ると連絡が来ていたのか、日本人の初老の男性が出て来ると、下に
もおかない様子でテーブルに案内してくれた。彼は自己紹介して、昔、船の
コックをしていてサンチヤーゴの港で逃げて、ここに住み付いたと言っていた。

富蔵が驚くような魚の生き作りの皿を出して来た。執事が冷えた年代物の
白ワインを持って来ると、チリ名産ですと勧めてくれた。鉱山主の心からの
気使いを富蔵は感じていた。

執事と二人で午後のひと時をゆっくりとワインを飲みながら日本食を楽しん
でいた。執事が食事をしながらメンドッサ飛行場の様子を教えてくれたが、
会社の連絡網からの情報で細工に話が聞けた。

タンクローリーの運転手の襲撃犯は脳震盪でも起したのか、トラックの陰
に身を潜めている所を、不意に探しに来た同僚の動かしたトラックに轢か
れて即死したと判明していた。

富蔵達のDC-2が飛び立ち、しばらくしての事件で、給油代金も全額ポ
ケットで発見され、タンクローリも全て異常が無く、事故として処理された
と報告が来ていた。

全てそこで逃亡ユダヤ人の情報が埋没して、切れていたので富蔵は執事
からの話を聞くと胸をなでおろしていた。
メンドッサ在住の上原氏の親戚に今回世話になっているのに、預かって来
た小荷物も渡す暇さえなく、急いで離陸して逃げるようにチリに飛んでいた
ので、それを執事に相談すると、お容易い御用だと荷物の引渡しを請け負
ってくれた。

毎週のようにサンチヤーゴからメンドッサに社員が飛ぶのでお預かり致し
ます、と引き受けてくれた。
帰りはサンチヤーゴから、ブラジル国内、イグワスの滝がある、 フォス・ド・
イグワスまで飛び、そこからカンポグランデに生ゴムの集荷に行く予定が
決まっていたので、ありがたい申し出に感謝していた。

チリ土産のワインも渡して貰うように頼んでいた。
板前の日本人に丁重に感謝のお礼を言いって頭を下げると、また来て下
さいと何度も言ってくれた。

執事に今日の接待を感謝して屋敷に戻ると、やっとモレーノとペドロが起
きたばかりであった。今日の日本食の豪華なランチのお礼を言うために、
鉱山主のいる居間に行くと、コーヒーが出されて、側のイスに座るように
勧められると、彼はおもむろに取り出した小箱から指輪を出すと、これを
是非とも納めて下さいと差し出して来た。

それは純金とプラチナで細工され、ダビテの星を図案化して真ん中にダ
イヤモンドがはめ込まれ周りにエメラルドが光り、大き目の見事な指輪で
あった。
これはお守りとして身に付けて下さいと言うと、富蔵の左手を取り、指輪
を指に差し込んでくれた。
富蔵は見ただけで気に入り、そのデザインと型の素晴らしさを見ていた。

それがこれからの富蔵の人生でどれだけ役に立ち、救いになったか分か
らなかった。
それはブラジルに帰り、税金の申告での問題が出た時に直ぐにその指
輪のお守り効果があった。

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