2013年6月18日火曜日

第3話、伝説の黄金物語、(88)


駅前の意外な展開・・、

カンポグランデの駅には列車と同時に車も到着した。

まだ朝早いので、出迎えの人も限られていたが、タクシーは稼ぎ時とすで
に駅構内の前に並んでいるのが見えた。
そこから少し離れた並木の陰に駐車すると駅前の様子を探っていたが、す
でに配下の男二人がひっそりと景色に隠れて立っているのが見えていた。

話し合わせていた様に、新聞を小脇に抱えて出迎え人の様なそぶりで、
改札口の横の駅構内から出てくる人を見ながら配下の男が、先ほどからタ
クシー乗り場の横にいる男に注目しているのが遠目で見えていた。その男
がホテルに居る3人組の一人だと直感で感じた。

沖縄ソバを食べに行き、帰ってこない男の為に、残りの男一人が迎えに駅
に来たと感じた。富蔵は絶好のチャンス到来と感じた。

サンパウロから金塊を持って来た男のカバンを手にすると、タクシー乗り場
に居る男に富蔵とペドロも消音拳銃を新聞紙に挟んで小脇に抱えて用意す
ると歩き出した。

配下の運転手がサンパウロから金塊のカバンを持って来た男の足に手錠を
掛けて、動けないようにして、右手の利き腕に片方の手錠を掛けてそれを
足の手錠に結び、完全に動きを封じていた。窓は締め切り、ひっそりと駐
車する車から配下の運転手は富蔵達の様子を見ていた。

富蔵は目星を付けた男に近寄ると小声で『コーヒーはもうお飲みになりまし
たか・・』とささやいた。男の顔がぱっと輝くと、安心した様に『もう・・、2
杯も飲みました』と答えた。

微かにカバンを相手に見せると、予定どうりに駅で待機していた配下の男
二人が、近寄ってくると『車にご案内します・・』と皆を促していた。男は
一瞬戸惑ったが、タクシー乗り場の外れに駐車する車に歩いて行った。

富蔵が助手席に座り、配下の男一人がハンドルを握り、もう一人の男とペ
ドロが出迎えた男を挟む様に後部座席に座った。
ペドロの手に消音拳銃が握られているのが見え、銃口がぴたりと男のわき
腹に突き付けられていた。青ざめた顔の男は観念したのか抵抗しなかった。
車が発進するとその後ろからサンパウロから来た男の乗車した車が付いて
来た。

少し駅から離れて町並が少なくなるとスピードを上げて支店の倉庫に急いだ。
倉庫に到着して車を屋内に入れると倉庫のシャッターを下ろしてしまった。

周りは倉庫と資材置き場が並んだ、シーンと静かな区域で時折トラックが通
過する音が聞こえるだけであった。
倉庫の中で、事務所のイスにホテルに居た男二人とサンパウロから来た男
二人が、足と手に手錠を掛けられてイスに縛られ、目隠しと声を出さないよ
うに猿轡を噛ましていた。

富蔵は残るはホテルに居る男一人だと安心して、後は無理なく襲えると感じ
ていた。
時間的に間合いを長く取るとホテルに居る男がどの様な行動をとるか予測が
付かないので、考えてしまった。

受話器をとり、ホテルに残って見張っているマリオに電話した。
マリオは4名を人質に取ったことに驚いていたが、ホテルの部屋の男は様子
が分からないと話していたが、朝食も食べては居ない様で、食堂にも顔も出
さずジュラルミンの現金カバンと部屋に篭っていると伝えてきた。

富蔵はハタと思い浮かんだ事があった。それはこちらに来るときに何かの用
意に毒薬と眠り薬を用意して来ていたからだ・・、3人組と銃火をを交えてカ
バンの現金を取り戻す事は危険で、これからの行動も隠密にしたいと考えて、
スミス商会の保安幹部から貰って来たものであった。

朝食も食べていないのであれば、部屋に朝食を運んで食べるという事が十分
に考えられ、すぐに行動を起こしていた。人質は配下の男達に任せて、ペド
ロと車でホテルに急いだ。

ホテルに到着すると男が朝食を部屋に運で来るように、食事をいま注文した
ばかりだと教えてくれた。
富蔵は一瞬これは大きなチャンスと感じていた。マリオに事の計画を教えて、
眠り薬をコーヒーの中に入れれば間違いなく成功すると感じた。マリオは手渡
された眠り薬を手に台所に飛んで行った。
台所から大きな盆に並べられた朝食の皿が出てきた時であった。

若い黒人のボーイは食堂に置かれているコーヒー沸かしの横で新たに入れる
コーヒー豆を挽いていた。
マリオは器用にコーヒーカップを用意するふりをして、一瞬ポットに中に眠り薬
を入れる事に成功した。
小さなコーヒーポットに新たにコーヒーをボーイは満たすと、それを盆に載せて
コーヒーカップを横に並べると盆を持って部屋に配達して行った。

食堂からそれを眺めていた富蔵とペドロは瞬間、成功と感じた。

保安幹部が話していた、コーヒーに混ぜる事が一番で、まずバレると言う事は
無いと聞いていたので安心していた。
男が居る二階の奥部屋の安全なテラスに朝食の盆が置かれ、ボーイが部屋か
ら出てくるのが確認された。
後は時間の問題と思った。富蔵は庭の奥のベンチに座って男が食事をするの
を見ていた。
コーヒーカップが何度か男の口に運ばれ、飲み干すのが見えていた。

富蔵は作戦が成功したと感じた。後は時間を見計らって部屋の現金トランクを
取り戻せば良いと感じていた。
テラスに居る男はコーヒーカップを手に新聞を見ていたが、立ち上がるとぐらり
と身体を揺らすと、ゆっくりと部屋の中に消えて行った。
ペドロが『眠り薬が効いて来た・・』とつぶやいていた。

しばらく間合いを見てその部屋のドアをノックした。何も返事は無かった。
身軽なマリオが隣のベランダからその部屋に人に見られえないように潜りこんだ。

表のドアが微かな音をして開かれ、マリオが手招きした。富蔵とペドロが部屋に
入ると、ベッドルームに受話器を握ったまま男が微かに寝息を立てて横になって
いた。

受話器から微かに人を呼ぶ声が何度も聞こえていた。まだ通話状態だと感じた。
訛りの無いポルトガル語でしきりに緊張した様子で受話器の向こうで人の名前を
呼んでいた。
ペドロとマリオが顔を見合わせて富蔵にどうするか目で聞いていた。

富蔵はおもむろに受話器を取り上げると、『男達を人質にした。何か用がある
か・・』と聞いた。
相手の男の声は悲痛な声で『3人は家族だ、殺さないでくれ・・』と何度も哀願
した。

『話の粗筋を息子から聞いたが、途中で昏睡したのか途切れてしまったが、す
でに一人も拉致されて居るようだから、俺の負けだ・・、何が欲しい・・!何が俺
に出来るか言ってくれ、金かー!』と聞いてきた。

富蔵はおもむろに、『お前の家族を買い戻したいか・・』と答えた。

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