2013年6月14日金曜日

第3話、伝説の黄金物語、(87)


追跡して追い詰める・・、

日本の敗戦が天皇のポツダム宣言受諾で無条件降伏となり、海外在留
邦人達が大きなショックと混乱も起きていたが、ペルーに勢力を持つ中
国人達が大きな日本人社会を持つブラジルで、邦人社会をを食い物に
しだした事は富蔵には赦しがたい犯罪と考えていた。

富蔵が日本人達の苦労を知っていたからであった。

ホテルに滞在して犯人達の様子を探っていたペドロとマリオがかなり詳
しい情報を持って来た。
部屋には食事時間でも、誰か必ず一人は残って現金のトランクを見張り、
用心していることが分かり、ホテルの使用人から聞き込んだ話では、側
には拳銃を2丁も置いている事が分かった。

これではホテルの中で、こちらから襲撃して現金のジュラルミン・カバン
を奪うという事は無理と判断した。騒ぎを起こす事はこれからの全体を
考えると、それが不利になることは分かっていた。

一番確実で、後で問題を起こさない様に隠密に行動しして、3人を抹殺
してしまう事が最善と感じていた。スミス商会の保安責任者から富蔵に
『いくら有能な男でも死ねば死人に口なし』と助言された事を思い出して
いた。
ブラジルでも僻地のカンポグランデで三人が消息不明となっても、犯行
集団がいくら政治力があっても捜索して探すということは困難を極めて、
ペルーから彼等が影響力を駆使できる事はまず不可能と感じていた。

富蔵はカンポグランデに1940年代までの線路工事で働いて居た日本
人達が多く住み着いている事を聞いていたので、調べると何んと・・、沖
縄県人がかなり居る事が分かった。
19 1 0 ~ 1 9 1 4 年の頃、南マット・グロッソ州トレス・ラゴアスと西方ボ
ルト・エスペランサを結ぶノロエステ鉄道の敷設工事に従事した沖縄県
人が、この地帯に集まり始めた。

また初期移民でアルゼンチンへ流れていた県人達がラプラタ河をさか
のぼって来て、この沖縄県人の集団化に加わった。以後、南マット・グ
ロッソ州のこの地帯は沖縄県人が集中する地区としての“ 特色を保つ
のである。
この南マット・グロッソ州において、1 9 1 0 年代に始まった集団地とし
て名前の記録されているのはセグレード植民地( 1 9 1 7 年) ハンディラ
植民地( 1 9 1 8 年) の二つである。

富蔵はカンポグランデの下町で沖縄ソバまで食べられるという事を聞き
込んで、早速、ランチに出かけて行ったが、珍しいお客だと、特盛りの
沖縄ソバのどんぶりを出してくれた。

昔、上原氏の家で食べさせて貰ったと同じ味と麺で、久しぶりに心い
くまで味わっていた。
サンパウロからの客という事で話も弾み、あらゆる町の情報も直ぐに
教えて貰った。

富蔵達のオフイスにペルーまでの飛行機をチヤーターしたいと、見積
もりをしに来た男がいた事が分かった。カンポグランデには2機しか飛
べる飛行機がないので、どちらかに頼む事しか出来ないので早速そ
の事を知ると作戦を練って皆で相談していた。皆の意見をまとめると
簡単な筋書きが分かった。

ペルーまでの飛行を安い値段で契約して、途中、チャコのパラグワイ
領内で飛行機の故障と不時着させて、そこで3人を飛行機から降ろし
てエンジンの調子を見ると言う事で、置き去りにするという事の粗筋が
決まった。
灼熱のチャコ地方は水がなければ半日も生きてはおれない場所だか
ら、事故として処理される事は間違いなく、パラグワイ領内でボリビア
とチャコ地域の紛争状態地帯の捜索など無理と感じていた。
程なく計画が練り上げられ、ペルーまでのチヤーター飛行を見積もり
に来た男が、ある日、沖縄ソバを食べていたという事を沖縄県人から
聞き込んで来た。

少し町外れの下町の商店街であったが、そこで固まって生活している
沖縄県人達が店を出していたので見知らぬ他所からの男が来れば、
直ぐにバレてしまう事は明らかであった。
その男はペルーで沖縄ソバを食べていた経験があると感じた。

同じホテルにはペドロとマリオが宿泊して彼等を見張っているので、
直ぐに彼等が動いた事は連絡が来ていた。しかし、チヤーター飛行機
の見積もりを頼んできた割には、彼等が慌てていない事が不思議であ
った。何かあると感じていた。

それは電話盗聴から直ぐに判明した。後一人がこちらに向かって汽
車で来ている事が分かった。
それはどの様な人物か・・・、一切身元が割れていなかった。
現地人のブラジル人か? それとも中国人か?誰か分からないので、
うかつにはこちらも動けなかった。
重要な接点がここカンポグランデのホテルにあると言うことだけは間
違いなかった。

スミス商会の保安幹部から情報が来ていた。中国人の男が100グラ
ムの金塊をまとめて買い込んだと言う情報で、そこで不審に感じたス
ミス商会が調べた所が、日本人達が騙し取られた金額に近い金塊の
買い込み量であったから不審者としてマークされたと感じた。

金塊にしたら僅かな枚数で札束より簡単に腹にでも巻き付けられる
と感じた。彼等中国人達の中で、一枚絡んでいる男が居る事が分か
った。札束を持って逃げる3人も、かさばる紙幣をトランクに入れて逃
げる事の難しさと、目立つ荷物が危険を呼ぶ事があるからで、ここま
で来て彼等が金塊に代えて飛行機で飛ぶと感じた。

其処まで分かれば後は汽車を見張る事にしていた。それは簡単に人
物が特定出来た。
サンパウロからの長距離列車が1本しかないので、途中の駅で待ち
構えていた営業所の男達がそれらしき男2名を探し出していた。
その情報は電話と電信で知らせが来ていた。

一人は護衛と感じられたが、一人が小さな皮のカバンを大事に股に
挟んで座っている事で推察が出来た。最後尾の一等車に乗車してい
るので、乗客がまばらな一等車を夜間に襲う事も可能であった。
しかし時間的に準備が間に合わないと感じていたが、ペドロも所持し
ている消音拳銃を使い、襲う事を思い付いた。

カンポグランデには早朝到着するので、それより3時間ほど前に乗り
込み朝方その二人を襲い、金塊を押さえて二人の身代わりとなり、
ホテルにのり込み隙を見て3人を襲う事を考えていた。
富蔵が中国人に成りすまして、ホテルに行き金塊を見せて安心させ、
隙を突いて襲う事が簡単だと感じた。
その様な話をまとめていた時に『飛んで火にいる夏の虫』と感じる事
が事が起きた。

沖縄ソバを食べに出ていた男を拘束して、他の二人に知られずに誘
拐してしまった。
その男を締め上げて、吐かした情報は貴重であった。カンポグランデ
に待機する男達と、サンパウロから来る男達は顔は知らないので、
早朝の出迎えのお互いの確認の合言葉は簡単で分かり易い言葉で
『貴方はコーヒーは飲んだか?』という問いに、『2杯も飲んだ』という
答えで確認する事が決まっていた。

それさえ分かれば後は簡単であった。無理な計画も必要なく、無駄
な時間も掛けることなく、確実に襲い、相手を押さえる事ができると
感じた。

一駅前に乗り込み、合言葉を交わして用心に一駅前で下車する様に
させ、車に乗り込ませて、そこで金塊を奪い、ホテルの残り2名と接
触して金塊を見せ、隙を見て二人を処分する事が無理なく出来ると
感じた。
支店の車を用意させ、汽車の時間に合わせて富蔵とペドロが一駅
前に待機して待ち伏せする事が決まった。
富蔵もカバンからワルサーに消音器を出して取り付けた。ペドロも
消音拳銃を用意して、細身のナイフも用意していた。
時計を見ると十分に間に合う時間で支店の配下が運転する車で
一駅前に向かった。

ひなびた町に停車すると支店の配下の案内で駅構内でひっそりと
待機していた。早朝の駅は人影もまばらで、まだ眠っていると感じ
る駅であった。駅員が3名ぐらいホームと駅構内の改札口に居る
のが分かった。汽車は10分程度遅れて到着した。

最後尾の一等車に乗り込み前もって連絡が来ていた人相の男二
人に近寄ると富蔵が声を掛けた。

『貴方はもうコーヒーはお飲みになりましたか?』と小声で聞いた。

相手も緊張を解いて『すでに2杯も飲んで居る・・』と答えた。富蔵
は彼等に『用心に一駅前で降りて下さい』と声を掛けた。
汽笛が鳴り富蔵は彼等を急がせて下車させた。

構内の外れに朝霧にかすんで停車している車に丁重に案内して
ドアを開けて乗車を勧めた。
護衛の男が助手席に座り用心しているのが分かった。車内はヒ
ーターで暖かくカバンを手にした男が席に座った
瞬間、富蔵はベルトに挟んだ消音拳銃を護衛の頭に付き付け、
『動くなー!静かにしろ・・』と命令した。

同時に配下の運転手が片手で拳銃をわき腹に付き付け、護衛の
拳銃を取り上げた。
眉間とわき腹に同時に拳銃を付き付けられた護衛は青ざめて震
えていた。

ペドロはカバンを持った男の横に座り、消音拳銃でわき腹を狙っ
ていた。護衛の男を後手にして手錠を掛け、猿轡を口にして車の
トランクに押し込み両足も動かないように縛った。
カバンを持った男は簡単に護衛が襲われ、身動きできないように
されたのを見ると、観念したのか静かにして座席に座っていた。

車はカンポグランデの駅を目指して疾走して行った。

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