2012年9月9日日曜日

第3話、伝説の黄金物語、(2)

サントス港上陸、

『富蔵・富蔵・・』と呼ばれて目が覚めると、そこには当直士官が起床の
声を掛けて廻っていた。
手を伸ばして時計を見ると、3時半のまだ真っ暗な夜明け前の船室だが、
すでに起き出して服を着替えている船員もいた。

今日は船から脱走逃亡決行日と感じながら、腹巻の中の金を確かめていた
が、8時半の出港まで安全に陸に上がって、サンパウロを目指す事を考え
ていた。

汽車では直ぐに連絡されて、検挙される事が目に見えているので、歩いて
行く計画で居た。すでにサントスに到着した時から決行を決めていたので
後はサイコロの転がる先と考えていた。

蒸し暑い厨房では、出港前の忙しい朝食の準備が始まっていた。
いつもの平静を装って、何事もなく朝の仕事をこなしていった。
上で『カン・カン・・』と6時の鐘が鳴り、他の船員達が起きて来て朝食
の席について食事が始まった。

船の船員食堂は長いテーブルに両側に座って食べる様になっていたが、停
泊中は各自が好きなだけ食べられるように、御飯釜と味噌汁の鍋が置かれ、
横に各自のおかずの皿が並んでいた。
別室の高級船員達の食堂に行く事務長が、富蔵の声を掛けて、『今日の練
習は午後に上甲板でやるからな・・』と言いながら階段を登って行った。

富蔵は絶好のチャンスが来たと感じた。
乗船している乗組員の、ほぼ全員が揃って出港前の朝食を食べている僅か
な時間と感じていた。

船に乗船するタラップの下に24時間居る、看視と警備の黒人警官に朝食
を出すとボスのコック長に言うと、『そこの盆に載せて行け・・』と指示
すると忙しそうに高級船員達の食事を用意していた。

富蔵は食堂入り口横の、神棚に祭ってある、守り神様に目礼して成功を祈
り、盆をさげてタラップを降りた、ようやく夜が開けて明るくなった波止
場はまだ静かで、チラホラと湾口労務者が居るぐらいで眠りからは覚めて
いなかった。

タラップの下に小さな小屋があり、中を覗くと机にもたれて眠っている黒
人の大男が見えた。テーブルにパンとコーヒーが入った壷とパパイヤを切
った皿が入った盆を静かに置くと、後ろも見ないで小走りにゲートに向け
て急いだ。いびきが聞こえていたのでよく寝入っていると感じた。

僅かな貴重品を入れた袋をコックの上着の下に隠して、ポケットにはお握
りを入れ、ゲートは何も止められる事無く通過出来た。後はしばらく走る
ようにして荷物を預けているバーに急いだ、24時間開いているバーであ
ったが、すでに労務者達がコーヒーとパンを前にテーブルに座っていた。

時間どうりに来たので、友達のバーテンダーが直ぐに荷物を渡してくれた。
そして『捕まるなよー!』と声を掛けてくれた。すばやく着替えて、コッ
クの制服はカバンの中に押し込んだ。
バーの横に駐車していたタクシーの運転手が、彼から聞いたが急がないと
危ないと言われ、とりあえず港から離れる事にして、町外れのサントス街
道まで乗車しして、場末の寂しい雑貨屋の前で降り、一息いれた。

どうやら成功したようだ、今ごろ船では大騒ぎで探していると感じていた。
店でブラジル人の労務者がかぶる帽子を買い、なるべく土地の風体を真似
た格好で歩き出した。まさに格好は日焼けして体格は良く、現地のブラジ
ル人が着るシャツを着て、まるで職探しの現地人と同じで、小さなカバン
はよれよれで様になっていた。

その店で船からポケットや手に持てるだけ持ってきた荷物を入れるジユー
ト製の小袋を買い、それに全部詰めて、肩にカバンと振り分けて歩き出し
た。
その中には花札賭博で金を払わなかった三朗の隠し荷物も黙って持って来
ていた。それは船の排気口の中に、たこ紐で吊るして隠してあったのを、
きっと金を隠していると睨んで盗んで来たものであった。

暑くならない内にこの峠道を越したいと考えて急いでいたが、人から聞い
ていたサントス街道から離れたジャングルの中にある近道を歩いて行こう
と考えていたが、カバンの荷物の中から、さらしに巻いた刺身包丁を腰に
差すと歩き出した。
サンパウロに着いたら日本人の宿に泊まり、先ずは周りが分かるまで滞在
を考えていた。

しばらく歩くと前にブラジル人の若い子連れの女が歩いていた。子供は
3歳ぐらいかゆっくりと歩いている、追い抜きながら挨拶すると、にっこ
りと笑ってくれた。
姿は貧しい服装で、小麦粉色の肌と黒い髪で混血と分かったが、手にする
荷物は毛布に包んだ僅かな物を頭に載せていた。

子供の手を引き、ゆっくりと歩いている姿を見て、富蔵のお人好しの性格
から立ち止まり、歩調を合わせてその子連れ女と歩き出した。

子供が転びそうになり手を繋いで歩き出したら、すっかり子供もなついて
富蔵が差し出すキャラメルを喜んで口に入れていた。かなり歩き、急な坂
道となり、一休みとする事にして、船から持って来ていたお握りを袋から
出すと、1個を若い女に渡した。

『オブリガード』と言って、私の名前はマリアと自己紹介して言った。
子供はアナと教えてくれ、マリアも自分の袋からパンとチーズを出して富
蔵に差し出した。富蔵も俺の名前はトミーと自己紹介した。

それからは食事をしながら彼女がバイア地方から船でサントス港に来て、
これから歩いてサンパウロで消息の消えた夫の安否を探しに行くと話して
くれたが、ボロボロの靴を履き、汚れたスカートと汗臭いシャツを着て、
着替えも無い様な感じの様子でいた。

どう見ても文無しの風体で、これからどうするかと言う思いを富蔵は持っ
たが、そのマリアの陽気な雰囲気は貧乏神を吹き飛ばす感じを持っていた。
サントス海岸山脈の段差をジャングル内の細道を歩いて登り切った時は午
後になっていた。
子供を背負い歩く富蔵の姿は、遠目で見ると若夫婦が子供を連れて歩いて
いるとしか写らなかった。しかしそれが幸いした。

小さな町に来て検問所らしき所で、警官が数人並んでいたが、マリアが
身分証明書を手にして警官に見せようとすると、手で『行け、行け・・!』
と合図して、子連れなど見向きもしなかった。

富蔵もホッとしてマリアに感謝していた。富蔵も歩き疲れ、お腹も空いて
来て、マリアにどこか休む所を探すように頼んだ。自分の僅かばかりのス
ペイン語ではとても無理な交渉であった。

マリアは富蔵に子供を預けると直ぐに小さな町の中に消えて、数分も掛か
らず戻ってきた。

木賃宿があるという事で、食事も宿泊も出来ると言う事を調べてきた。
マリアが富蔵の手を引いて背中で眠り込んだ子供を見ながら宿に着いて、
直ぐにマリアが一切の交渉をして良い部屋を押さえた。

シャワーとトイレが付いた部屋で、富蔵が希望した少しはマシな部屋で
あった。

宿の女将がマリアを奥さんと呼んでいるようで、富蔵は事の成り行きに
任せて何も動じなかったが、でも一人で歩いていたら今頃は、言葉も分か
らず警察に留置されていたかも知れないと考えていたが、途中の道で出会
ったマリアは、神様が巡り合わせしてくれたと感じていた。

マリアは水しか出ないシャワーの床で洗濯を始めていた。自分の服と子供
の服も合わせて洗い、裸電球の薄暗い光りの下で裸体を富蔵に晒して居た
が、富蔵は船から盗む様に持ち出して来た三朗の小荷物をベッドの上で開
けていた。
中からボロ布に包まれた小型のデリンジャー拳銃と弾があり、金もドルと
円が合わせて250ドル程度あった。後は細工をしたイカサマ・サイコロ
や花札、トランプも出て来た。
やはり昔は札付きのイカサマ賭博の三朗と感じていた。

宿の食事で満腹して、疲れて寝ている子供の脇で、マリアと富蔵は飲んだ
ピンガの焼酎が効いたのか、富蔵がマリアの先の尖った乳房をさわり、
ベッドの上で無言で絡んでいた。

























































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